「浮気?」

 喜一の口から、その言葉が出た時、全身の毛穴から汗が出た。身体中が熱くなり、頭だけは冷えて、クラクラしてくる。

「……じゃない、よな。この変な感覚になってる時、俺は永って人になってるんだよね。それで、かなは永を知ってる。……違う?」

 辛うじて首を縦に振り、ついでに、うん、と言おうとしたがついに咳き込んでしまう。カラカラだった喉に突き刺さった違和感を流したくて台所に走り、水を飲んだ。

 喉を流れていく水が、上がった体温を下げて落ち着きを取り戻していく。ふう、とため息を零し、リビングに戻った。

 ソファーに座る夫の横に腰かけ、ようやく見つめ返すことが出来た。

「永は……私の、元彼だった。……元彼と言っていいか分からないな、私たちは遠距離恋愛ですらなかったから。私が高校一年生の時に、ネットで出会ったの」
「うん……」
「何がきっかけかなんてもう覚えていない。瞬く間に依存のような恋をしたの。でも恋とはすぐに呼べなかったし、呼ばなかった。……怖かったから。
 傍から見ればそれは携帯依存性にしか見えなかったの、周りにその付き合いはやめた方がいいって言われて何度も離れることを決断した。