「恋人は出来た。喜一の前に付き合ってた人がいたの。その人は……いい人だったけど、好きになれなかった。相手にそのことが伝わって別れた。私ね、その時に、永に、好きって気持ちを持っていかれたって思った」

 誰も好きになれない。人に興味を持てない。消えたいと思った時もあった。感情を失うってこういうことなんだ、といつもぼうっとしていた。
 今思えば、あれは消えていた。空っぽだった。

「私にはもう人を好きになる気持ちはないんだって思った。もう生まれてこないんだって、根こそぎ持っていかれたんだって思ってた」

 うん、と頷いてくれる。小さなその声に、だから、と私は続けた。

「だから、これはかつての私にお供え……かな」
「お供え?」
「うん。あの時の私は本当に……死んでた、から。悔やんで卑下して消えたい、消えてしまえって思ってたから。永と仲直り出来たよって弔ってあげたいの」
「……変な奴」

 可笑しそうに口を歪め、いいよ、行こうか、と承諾してもらえる。頷き返し、どこか飲食店に入る提案をした。