あの日の永は、間違いなく傷付いていた。結局お前も他の女と一緒だったんだな、と言い残して去っていったのを、今でも覚えている。

 忘れたことなんてない。忘れられなかった。大切だった彼を酷く傷付けてしまった日。私自身の気持ちを優先させてしまった。

 だから、だから、こんなチャンス二度と訪れないから、喜一を乗っ取ろうとしているのではないか。今は短いが、やがて長い期間、永に変わってしまったらどうしよう。

 この一週間、私は喜一と過ごして、喜一が何より大切だと分かったから、恐くてたまらなかった。ずっと警戒していてまともに眠れないくらいに喜一を守る術を考え続けた。
 それが、やっぱり素直に謝ること。

 ベッドから出てくる音を聞きながら、頭を下げ続けていると肩に手を置かれる。恐くて、身が硬直した。

「顔を上げて、夏菜子」
「でも」
「大丈夫だから」

 そういう永の声は優しくて、思わず顔を上げると、寂しそうな笑みを浮かべていた。

「ごめん、恐い思いをさせたかった訳じゃない。だったらなんでこの間あんなこと言ったんだって思うかもしれないけど……。この人を乗っ取るつもりなんてない。本当だよ」
「本当に?」