看護師が来て、ただの熱中症です、と説明される。検査をして大丈夫そうなら今日帰ってもいいそうで、無事、私は喜一と家路に着くことが出来た。

「なんかびっくりした」
「ん?」

 家に着き、出前を取って食卓を挟んでいると、はあ、とため息を零して喜一は続けた。

「今日一日、ぼんやりしてたんだよね。こう……視界が? 夢の中みたいな」
「えっ……そうなの?」
「うん。海行ったよね?」

 頷き返すと、じゃあやっぱり現実だったんだ、と呟く。

「でもさ、何を話してたかは分からないんだよ。聞こえてこない感じかな? ただ、海がすごく綺麗でさ……。写真撮れば良かったな」

 ふふ、と笑い、両手でカメラのポーズを作る旦那を前に、私はどきどきしていた。
 喜一には、永のことを話していない。話すつもりもなかった。今更他の男の話をされ、しかも大切な人だった、と言われてもどうしようもないし、彼を傷付けたくなかったから。

 今、好きなのは喜一。それは変わらないし、喜一にそういう存在がいることを聞かされたら、大切な子とこうしたかったのかな、とか、その子が目の前にいたらいいのにって思ってるのかな、とか疑ってしまう。

 だから言うつもりもない。

「夢から覚めたのは、かなが倒れたからだよ。ほんと、海から出たような感覚でさ、かなっ、て叫んでた。必死だったけど、今思えば不思議な感覚だった」

 カメラのポーズで私を覗き込みながらその時のことを教えてくれる。すごい、ヒーローだ、とふざけて返すと、パシャ、と架空のカメラで笑顔を撮られた。