――感情なんて なければいいのにな。そしたら楽なのに。
――感情があるから楽しいって思えるし、思い出も出来るんだよ。永、私は現実にいられないから心配なの。信用出来る誰かを見つけて。

 本当は、私がその誰かになりたかった。なりたいと思いながら、それでも、それ以上踏み込むのは暗黙の了解でしちゃいけなかった。

 会いたい。
 幾度思っただろう。

「だからお前に会えたことも驚いたけど、幸せそうで良かったよ」
「……私も、驚いた。偶然だよね?」
「偶然だよ。ドナー登録してたのは……遠い未来、こんな俺でも誰かの役に立てたらいいなって思ったんだ。その相手が夏菜子の旦那さんで良かった」

 夏菜子を不幸にせずに済んだ。嬉しそうに呟いて、自身の胸に手を当てる。私も彼の胸に手を当て、どく、どく、と動く心臓の動きを感じる。
 ここに永がいる。ここに、永が現実に生きていた証がある。

「ゾンビみたいだな、俺」

 フッと笑みを零し、目が合うと私も釣られた。こんな風に笑うんだな。初めて知った。ずっと大切な人だったのに。切なくて、嬉しくて、ぐちゃぐちゃになった感情で、溝が埋まっていくのを感じる。十年という長い年月もあっという間に。