澄み切った青い空に浮かぶ雲を、風が押し流していく。それはまるで、海を揺蕩うくらげが海流に流されてるみたいだった。そう考えたら、私達は陸地の海と空の海との狭間で生きてるようなものなんだなって、机に頬杖をつきながら窓辺に視線を置き、私はそんな意味のないことを考えていた。

「美咲、今週の課題どんな風になった?みせて!」

 ぼぅっとしていた頭を一瞬で目覚めさせるような大きな声に思わず身体をびくりと揺らしてしまう。

「なに、びっくりした!」 
「見せてよ、美咲の絵がみたい!!」 

 私の机に手をついて、溢れんばかりの輝きを目に灯しているのは瑠衣だった。瑠衣が転校してきてから二週間が経ち、私は瑠衣と本当の意味での友達になれたと思う。最初こそどう接し何を話したらいいのかすら分からず困惑していたが、瑠衣の明るい性格に少しずつ惹かれていき、最近になって今では何でも話せるような仲になった。学校での悩み、気になるひとのこと、それに私の壊れた世界、母のこと。未だに私は笑うことが出来なくて、笑い方を思い出せなくて、仏頂面でただ話しているだけなのに、瑠衣は全てを受け止めてくれた。表情も豊かに、ただ聞いてくれた。瑠衣には感謝の気持ちしかない。私は、いつか瑠衣と二人で笑い合えるようになりたい。

「まだ完成してないし、そんな……上手じゃないよ」

 私は蚊の鳴くような声でそう呟いた後、いそいそとキャンパスバッグから一枚の絵を取り出し、机の上にそっと置いた。私達の通うこの高校では二週間に一度課題が与えられ、その課題に応じた絵を期限までに提出しなければならない。瑠衣は一週間程で課題を完成させたらしいのだが、何故か私にはみせてくれない。日曜日になったらみせてあげるとそれの一点張りだった。どうして日曜日なのだろうという疑問はあったが、もしかしたら誰かに自分の描いた絵を見せることが恥ずかしいのかもしれないと思い、深くは尋ねなかった。私もその気持ちがよく分かる。私が真っ白なキャンパスに描いたのは、木々に囲まれた湖にひっそりと佇む小さなコテージだ。周りの湖面には燃えるような夕焼けが映る、そんなどこにでもあるような絵。先週の課題は『静けさ』だったから、私は子供の頃に家族で訪れたこのコテージを描いた。 

「わぁ、凄い……凄い綺麗。やっぱり美咲の絵は凄いよ。才能の塊だよ。」
「そうかな。でも嬉しいよ、ありがと。」

 瑠衣はいつも私の描いた絵を褒めてくれる。彼女の目の輝きや表情をみていると、本心で言ってくれてることは十分に伝わってきた。褒められて悪い気はしない。私は、机の上に置いたその絵を手に取り、誇らしげにみつめた。