「ユージーを狙った場所は特定できているんですか」
 再び向けられたカインの目をヨクはしばらく見つめ返したあと、口をゆがめた。
「できている」
 彼はそう答えて口を閉じてしまった。続きを促すようなカインの表情に、ヨクは言いたくないんだけど、という顔をして再び口を開いた。
「できているけど…… 不可能なんだそうだ。3番棟の50階付近。距離が200mある。ユージー・カートの傷から判定した銃の精度からすれば相当腕のいい狙撃犯だそうだ。そういう所見」
 200m……。カインはヨクから目をそらせた。青い瞳が頭に浮かんだ。
 『彼』なら不可能ではないのかもしれない……。
「横になられたほうがいいんじゃありません?」
 俯くカインにティが気づかうように言った。顔をあげると不安をいっぱいに浮かべた彼女の目があった。
「仕事のことやカート社長のことが気になると思いますけれど、とにかく今はあなた自身が静養されることが第一です」
 カインはしかたなくうなずき、枕に身をもたせかけた。
 しばらくして、部屋のドアが開いてアシュアが戻ってきた。
 全員が彼に目を向けたので、アシュアは一歩足を踏み入れて少し困ったような顔をしてそれぞれの顔を見つめ返し、カインのベッドのそばまで大股で歩いてきた。息が荒い。大急ぎで戻ってきたような感じだ。
「……どうだった?」
 カインは彼の顔を見上げた。アシュアは小刻みにうなずいた。
「うん、いる。『アライド』に」
 思ったとおりの返事だった。アシュアはさらに言葉を続けた。
「覚醒に向かう脳波が出ているんだそうだ」
「覚醒の?」
 カインはかすかに眉をひそめてアシュアの顔を見た。
「それはこれまでも出ていたって、ユージーが……」
「うん……」
 アシュアは息を整えるように数回深呼吸をした。よほど大急ぎで走って戻ってきたのだろう。
「6時間前くらいからの脳波がこれまでのとは違うみたいだ。一気に覚醒に向かっていると言われた。場合によっちゃ、セレスとどっちが早いかって感じみたいだ」
 6時間前……。ユージーが撃たれたとき……?
 アシュアも同じことを考えているのだろう。ケイナが目覚めるかもしれないというのに、不安を感じているような浮かない表情だ。
 カインは視線を泳がせた。その視線をヨクに向けると、彼は即座にかぶりを振った。
「『アライド』に行きたいんだろうと思うが、一週間はだめだ。そのあとはまた考える」
 断固とした彼の口調にカインは無言で目を伏せた。