カインは今年26歳になる。次世代可能クラス・トリプルプラスの規定からすれば、結婚相手を見つけるまでにあと1年ほど余裕はあるが、彼はその話題になると嫌悪感をあらわにする。
もちろんその制度は強制ではないし、仕事が忙しくてそういうことを考えたくないのかとも思ったが、アシュアにはどうもそういうわけでもないような気がしていた。
自分に流れる『アライド』の血のことや『トイ・チャイルド・プロジェクト』のことがカインにはまだ心にひっかかっているのかもしれない。
『アライド』と地球とのクォーター世代よりさらに地球人の血に近いカインだったが、クォーター世代の40歳を超えてからの異常な速さの老いのことはカインも知っているはずだ。もし、その資質が残っていたならば、カインも普通の地球人よりもかなりの速さで老いていくかもしれない。もちろんそれはその時になってみなければ分からない。自分がもし子孫を残せばその子もどうなるかは分からない。カインはそのことに怯えているのではないだろうか。アシュアは時々そう思う。
横目でちらりとカインを見ると、彼はむっつりとした表情で前を見つめていた。窓に肘を当てて、親指で顎を支えている。そういう癖は昔から変わらない。何かを考え込んでいるときはいつもこのポーズだ。
アシュアの視線を感じてはいたが、カインはそれを無視した。
彼の読みは当たっている。自分はたぶんティに惹かれているのだろう。
ティは色白で、笑うと左側の頬にかすかなえくぼができる。でも、それ以外にとりたてて個性を主張するような部分もなく、特に美人というわけでもない。オフィスにはたくさんの女性がいて、そうした女性たちの中に入るとティは目立たないほうだろう。
性格はいたって温厚、基本的な気配りもできる。いや、どちらかといえばお節介なほどかもしれないが、秘書としてはまあ普通なのかもしれない。
オフィスの女性たちが自分をどういう目で見ているのかカインには分かっている。若いトップの隣にいるのは自分であればと夢見ている。
そりゃそうだろう。ほんの少し前までカンパニーで働くことはひとつのステイタスでもあった。今はもういっときほど勢力もなくなってしまった組織だが、それでも医薬品と化学部門のシェアではまだ上位に入る。その組織のトップが若くて独身であれば夢も見たくなるだろう。しかし彼女たちは遠巻きにカインを眺めるばかりだ。仕事のことで声をかけるだけでも相手が全身に緊張をみなぎらせるのが分かる。
自分は怖がられているんだろうとカインは思う。
東洋系の顔立ちに特徴ある切れ長の目は見た目にも冷たい印象を持たれることも多く、理知的、冷静、感情をあまり表に出さない。それは企業を担うトップとしては申し分ないことかもしれない。
でも、本当は違う。毎日不安ばかりを抱えている。気を許すといつも大きな責任に押しつぶされそうになる。
26歳という年齢は社会的にはそれぞれがさまざまな分野でプロフェッショナルになっているのだが、そうはいってもその上にさらなるプロフェッショナルがいるというのが普通だ。生まれたそのときから決められていたとはいえ、何の下積みもなくいきなり企業のトップにならざるを得なかったカインは常に緊張と不安を強いられていた。それを顔に出すまいとするだけで精一杯だった。
たぶんそんな自分を分かってくれているのは10代の頃から一緒にいたアシュアと、いつもそばにいるヨク、そして、ティだけだろう。
ティに惹かれたのは彼女が毎日顔を合わせ、気負わずに言葉を交わす唯一の女性だったという単純な理由だったのかもしれない。
彼女の笑顔を見るとふっと肩の力が抜ける気持ちになることをカインは感じていた。彼女の声や物腰、彼女が気に入ってよく使うかすかにふわりと漂う甘い香水の香りもカインにとっては張り詰めた毎日の中で一番気持ちが安らぐものだった。
不謹慎かもしれないが、オフィスでふたりきりになると、彼女の淡いピンク色の唇につい視線を向けてしまうことがある。
ヨクやアシュアの煽りは必死になって理性を働かせている自分を突き崩してしまいそうでカインは怖かった。数年かけて今まで築き上げた彼女との仕事上の信頼関係すらも壊れてしまいそうに思えた。そもそも、ティ自身の気持ちはいまひとつ掴めない。
ほんの少しでもそぶりや表情や言葉があれば判断できただろうが、彼女はヨクがけしかけても顔を赤らめるだけでそれ以上の意思表示はなかった。赤らめた顔は迷惑がっているふうでもなく、怒っている感じでもなく、かといって嬉しいというわけでもない。ヨクが勝手に誕生日に花をオーダーしたときも社交辞令としての礼を言いに来ただけだった。ポーカーフェイスにかけては彼女のほうがずっと上手なのかもしれない。
ティのことを意識し始めて、カインは7年前のケイナへの思いがやはり恋愛感情なんかではなかったのだと改めて思い知った。
あの時はまだ子供だった。友情と恋愛の区別がつかなかった。トゥとの軋轢やカンパニーへの反発も混乱に拍車をかけた。誰にも胸の内を明かそうとしないケイナだからこそ、余計に気持ちを自分に向かせて独占したかったのだと思う。そうすることで、自分の中にぽっかりと開いた深淵を埋めたかったのだ。
ただ、今は違う。もうあれから7年もたった。どこか落ち着きのない心の空虚な部分は今も感じることはあったが、それに振り回されるほど子供でもなくなった。それでもどこかで気後れがある。
『アライド』の血、『トイ・チャイルド・プロジェクト』の責任……。
彼女にもしその気持ちがあったとしても、自分は、彼女を守ってやれるのかどうかわからない。
何一つ自分の責任を果たせていない。どうして彼女を守っていけるだろう。
「着いたぞ」
アシュアの言葉にカインははっとして我に返った。
「どうした、ぼうっとして」
アシュアは既にプラニカを降りていた。カインの座席側に回って窓越しに覗き込んでいる。
「ああ、ちょっと考え事してた」
カインは苦笑してプラニカのドアを開けた。
「疲れてんじゃないの?」
アシュアが心配そうに言う。カインはかぶりを振った。
「大丈夫だよ」
これからセレスに会うというのに、ぼくはティのことを考えていた。
ケイナもセレスも7年前から時間が止まったままだ。こうしてぼくはさっさと自分の時間の中を生きていくんだろうか。彼らを置き去りにして。
広い駐車場から『ホライズン』の建物の中に入ると、ひんやりと冷たい空気が頬に触れた。
常に18度に設定されている空調の空気はカインには少し肌寒いような気がした。
何人かの職員の会釈を受けながら白い壁に黒い床の長い廊下を進むと初老の男が待っていた。薄くなった髪と鼻の下と顎にたくわえた髭がうっすらと白い。
「お待ちしていました」
男は軽く笑みを浮かべるとカインに手を差し出した。彼の名はドアーズだ。セレスの治療にあたる第一責任者。数回しか顔を合わせたことはないがその風貌が個性的だったのでよく覚えている。カインは彼の手を握り返しながら彼の顎の髭に視線を向けて、また伸びたのかな、とちらりと思った。彼の顎鬚の長さはもう胸に達するまでになっていた。前はまだ首元あたりだと思ったけれど。
「セレスはどんな感じなんですか?」
ドアーズに促されて歩きだしながらカインは尋ねた。アシュアが少し遅れてついてくる。
「体温が自発的に上昇してきています。脳波にも覚醒に向けての波長がみられます。ただ、まだスパンが短くてすぐに眠りのほうに落ちてしまう。それでももうだいぶん近いと思えます」
ドアーズは落ち着いた口調で説明した。
「本当に少しずつですが…… 覚醒の波長のときに、ティースプーンに半分ほど、胃に直接流動食を流し込んでみています。自力で消化吸収できるということが、目覚めてからの復帰に役立ちますしね」
ひとつのドアの前で立ち止まると、ドアーズはカインとアシュアを振り返った。
「前にお会いしてから1年くらいになりますね」
彼の言葉にふたりは顔を見合わせてからうなずいた。
「ええ、たぶんそれくらいになると思いますが」
カインは答えた。
「ご承知のことと思いますが、覚醒時には彼女は『女性』です。彼女の場合遺伝子を女性として治療をしたほうが効果があがりますので、そのための治療も行ってきました」
ドアーズがセレスのことを「彼女」と言うことに何となく違和感を覚えながらふたりは彼を見つめた。
「この1年で彼女は飛躍的に女性になっています。たぶんもう前の面影はありません。彼女が目覚めたときも『女性』として対応してください」
「それは分かっていますが……」
自分とアシュアを交互に見つめるドアーズの顔を見てカインは言った。
「セレスは目覚めたときに、どれくらい以前の記憶が残っているものなんですか」
「それは目覚めてからでないと分かりません」
ドアーズはきっぱりと答えた。
「しかし、脳に損傷は見られませんから、案外ほとんど覚えているかもしれません。まあ、70~80%ほどは」
カインは視線を泳がせた。80%の記憶。その中に自分は男だったという記憶があったら? セレスの混乱はいかほどになるだろう。
「大丈夫、そういうことを全部見越してこっちでも受け入れ体制を考えてる。心配すんな」
アシュアがカインの様子を見て言った。それを聞いてカインはうなずいた。
そう、分かっていたはずだった。ケイナの肉体的な損傷に比べてセレスはダメージが少ない。その分、以前の記憶を保ったまま覚醒するであろうことは覚悟していた。
「では、よろしいですか?」
ドアーズは少し笑みを浮かべるとドアを開けるために壁についた小さな穴に手をかざした。音もなく左右に開くドアの向こうからさらにひんやりとした空気とともに、かすかに甘い芳香が漂ってきた。カインはふとティのことを再び思い出した。
もちろんその制度は強制ではないし、仕事が忙しくてそういうことを考えたくないのかとも思ったが、アシュアにはどうもそういうわけでもないような気がしていた。
自分に流れる『アライド』の血のことや『トイ・チャイルド・プロジェクト』のことがカインにはまだ心にひっかかっているのかもしれない。
『アライド』と地球とのクォーター世代よりさらに地球人の血に近いカインだったが、クォーター世代の40歳を超えてからの異常な速さの老いのことはカインも知っているはずだ。もし、その資質が残っていたならば、カインも普通の地球人よりもかなりの速さで老いていくかもしれない。もちろんそれはその時になってみなければ分からない。自分がもし子孫を残せばその子もどうなるかは分からない。カインはそのことに怯えているのではないだろうか。アシュアは時々そう思う。
横目でちらりとカインを見ると、彼はむっつりとした表情で前を見つめていた。窓に肘を当てて、親指で顎を支えている。そういう癖は昔から変わらない。何かを考え込んでいるときはいつもこのポーズだ。
アシュアの視線を感じてはいたが、カインはそれを無視した。
彼の読みは当たっている。自分はたぶんティに惹かれているのだろう。
ティは色白で、笑うと左側の頬にかすかなえくぼができる。でも、それ以外にとりたてて個性を主張するような部分もなく、特に美人というわけでもない。オフィスにはたくさんの女性がいて、そうした女性たちの中に入るとティは目立たないほうだろう。
性格はいたって温厚、基本的な気配りもできる。いや、どちらかといえばお節介なほどかもしれないが、秘書としてはまあ普通なのかもしれない。
オフィスの女性たちが自分をどういう目で見ているのかカインには分かっている。若いトップの隣にいるのは自分であればと夢見ている。
そりゃそうだろう。ほんの少し前までカンパニーで働くことはひとつのステイタスでもあった。今はもういっときほど勢力もなくなってしまった組織だが、それでも医薬品と化学部門のシェアではまだ上位に入る。その組織のトップが若くて独身であれば夢も見たくなるだろう。しかし彼女たちは遠巻きにカインを眺めるばかりだ。仕事のことで声をかけるだけでも相手が全身に緊張をみなぎらせるのが分かる。
自分は怖がられているんだろうとカインは思う。
東洋系の顔立ちに特徴ある切れ長の目は見た目にも冷たい印象を持たれることも多く、理知的、冷静、感情をあまり表に出さない。それは企業を担うトップとしては申し分ないことかもしれない。
でも、本当は違う。毎日不安ばかりを抱えている。気を許すといつも大きな責任に押しつぶされそうになる。
26歳という年齢は社会的にはそれぞれがさまざまな分野でプロフェッショナルになっているのだが、そうはいってもその上にさらなるプロフェッショナルがいるというのが普通だ。生まれたそのときから決められていたとはいえ、何の下積みもなくいきなり企業のトップにならざるを得なかったカインは常に緊張と不安を強いられていた。それを顔に出すまいとするだけで精一杯だった。
たぶんそんな自分を分かってくれているのは10代の頃から一緒にいたアシュアと、いつもそばにいるヨク、そして、ティだけだろう。
ティに惹かれたのは彼女が毎日顔を合わせ、気負わずに言葉を交わす唯一の女性だったという単純な理由だったのかもしれない。
彼女の笑顔を見るとふっと肩の力が抜ける気持ちになることをカインは感じていた。彼女の声や物腰、彼女が気に入ってよく使うかすかにふわりと漂う甘い香水の香りもカインにとっては張り詰めた毎日の中で一番気持ちが安らぐものだった。
不謹慎かもしれないが、オフィスでふたりきりになると、彼女の淡いピンク色の唇につい視線を向けてしまうことがある。
ヨクやアシュアの煽りは必死になって理性を働かせている自分を突き崩してしまいそうでカインは怖かった。数年かけて今まで築き上げた彼女との仕事上の信頼関係すらも壊れてしまいそうに思えた。そもそも、ティ自身の気持ちはいまひとつ掴めない。
ほんの少しでもそぶりや表情や言葉があれば判断できただろうが、彼女はヨクがけしかけても顔を赤らめるだけでそれ以上の意思表示はなかった。赤らめた顔は迷惑がっているふうでもなく、怒っている感じでもなく、かといって嬉しいというわけでもない。ヨクが勝手に誕生日に花をオーダーしたときも社交辞令としての礼を言いに来ただけだった。ポーカーフェイスにかけては彼女のほうがずっと上手なのかもしれない。
ティのことを意識し始めて、カインは7年前のケイナへの思いがやはり恋愛感情なんかではなかったのだと改めて思い知った。
あの時はまだ子供だった。友情と恋愛の区別がつかなかった。トゥとの軋轢やカンパニーへの反発も混乱に拍車をかけた。誰にも胸の内を明かそうとしないケイナだからこそ、余計に気持ちを自分に向かせて独占したかったのだと思う。そうすることで、自分の中にぽっかりと開いた深淵を埋めたかったのだ。
ただ、今は違う。もうあれから7年もたった。どこか落ち着きのない心の空虚な部分は今も感じることはあったが、それに振り回されるほど子供でもなくなった。それでもどこかで気後れがある。
『アライド』の血、『トイ・チャイルド・プロジェクト』の責任……。
彼女にもしその気持ちがあったとしても、自分は、彼女を守ってやれるのかどうかわからない。
何一つ自分の責任を果たせていない。どうして彼女を守っていけるだろう。
「着いたぞ」
アシュアの言葉にカインははっとして我に返った。
「どうした、ぼうっとして」
アシュアは既にプラニカを降りていた。カインの座席側に回って窓越しに覗き込んでいる。
「ああ、ちょっと考え事してた」
カインは苦笑してプラニカのドアを開けた。
「疲れてんじゃないの?」
アシュアが心配そうに言う。カインはかぶりを振った。
「大丈夫だよ」
これからセレスに会うというのに、ぼくはティのことを考えていた。
ケイナもセレスも7年前から時間が止まったままだ。こうしてぼくはさっさと自分の時間の中を生きていくんだろうか。彼らを置き去りにして。
広い駐車場から『ホライズン』の建物の中に入ると、ひんやりと冷たい空気が頬に触れた。
常に18度に設定されている空調の空気はカインには少し肌寒いような気がした。
何人かの職員の会釈を受けながら白い壁に黒い床の長い廊下を進むと初老の男が待っていた。薄くなった髪と鼻の下と顎にたくわえた髭がうっすらと白い。
「お待ちしていました」
男は軽く笑みを浮かべるとカインに手を差し出した。彼の名はドアーズだ。セレスの治療にあたる第一責任者。数回しか顔を合わせたことはないがその風貌が個性的だったのでよく覚えている。カインは彼の手を握り返しながら彼の顎の髭に視線を向けて、また伸びたのかな、とちらりと思った。彼の顎鬚の長さはもう胸に達するまでになっていた。前はまだ首元あたりだと思ったけれど。
「セレスはどんな感じなんですか?」
ドアーズに促されて歩きだしながらカインは尋ねた。アシュアが少し遅れてついてくる。
「体温が自発的に上昇してきています。脳波にも覚醒に向けての波長がみられます。ただ、まだスパンが短くてすぐに眠りのほうに落ちてしまう。それでももうだいぶん近いと思えます」
ドアーズは落ち着いた口調で説明した。
「本当に少しずつですが…… 覚醒の波長のときに、ティースプーンに半分ほど、胃に直接流動食を流し込んでみています。自力で消化吸収できるということが、目覚めてからの復帰に役立ちますしね」
ひとつのドアの前で立ち止まると、ドアーズはカインとアシュアを振り返った。
「前にお会いしてから1年くらいになりますね」
彼の言葉にふたりは顔を見合わせてからうなずいた。
「ええ、たぶんそれくらいになると思いますが」
カインは答えた。
「ご承知のことと思いますが、覚醒時には彼女は『女性』です。彼女の場合遺伝子を女性として治療をしたほうが効果があがりますので、そのための治療も行ってきました」
ドアーズがセレスのことを「彼女」と言うことに何となく違和感を覚えながらふたりは彼を見つめた。
「この1年で彼女は飛躍的に女性になっています。たぶんもう前の面影はありません。彼女が目覚めたときも『女性』として対応してください」
「それは分かっていますが……」
自分とアシュアを交互に見つめるドアーズの顔を見てカインは言った。
「セレスは目覚めたときに、どれくらい以前の記憶が残っているものなんですか」
「それは目覚めてからでないと分かりません」
ドアーズはきっぱりと答えた。
「しかし、脳に損傷は見られませんから、案外ほとんど覚えているかもしれません。まあ、70~80%ほどは」
カインは視線を泳がせた。80%の記憶。その中に自分は男だったという記憶があったら? セレスの混乱はいかほどになるだろう。
「大丈夫、そういうことを全部見越してこっちでも受け入れ体制を考えてる。心配すんな」
アシュアがカインの様子を見て言った。それを聞いてカインはうなずいた。
そう、分かっていたはずだった。ケイナの肉体的な損傷に比べてセレスはダメージが少ない。その分、以前の記憶を保ったまま覚醒するであろうことは覚悟していた。
「では、よろしいですか?」
ドアーズは少し笑みを浮かべるとドアを開けるために壁についた小さな穴に手をかざした。音もなく左右に開くドアの向こうからさらにひんやりとした空気とともに、かすかに甘い芳香が漂ってきた。カインはふとティのことを再び思い出した。