カインはコーヒーを飲みながらぼんやり窓の外を眺めていた。
なんだか妙に早く目が覚めてしまった。ずっと神経が張り詰めたままで、夜も寝たのかそうでないのか分からないような感じだ。
目が覚めてすぐにケイナのことを考えた。
アシュアの話からするとケイナは言葉こそ発しないけれど順調に回復しているようだ。
彼の記憶がどうなのか何度も尋ねてみたがアシュアは分からないというように肩をすくめただけだった。言葉が出ないのだから意思疎通もうまくいかないのかもしれない。
昨日『A・Jオフィス』についての調査報告書をヨクが持ってきた。
それによると『A・Jオフィス』は『アライド』では相当な巨大企業だ。
ただ『ゼロ・ダリ』のような医療研究機関は持ち合わせていない。
主な業務は運輸。
トップにいるのはクロー・カート、副社長はフォル・カート、ともにカートの名を持つ。
クロー・カートは『アライド』で生まれ育っているが、遡るとレジー・カート、つまりユージーの父の流れに近いところにいる。副社長のフォル・カートはクロー・カートと従兄弟同士だった。
『ゼロ・ダリ』のエイドリアス・カートはカートの名前を持っていてもレジーともクロー・カートとも繋がらなかった。かなり遠い血縁なのだろう。
「要するにこれはカート一族の内輪もめってやつじゃないかな」
ヨクはそうつぶやいていた。
そうかもしれない。ユージーはかなり翻弄されていただろう。ケイナのことでの連絡がぷっつり途絶えていたことが分かるような気がした。
手に持っていたカップからコーヒーを一口飲んで窓から目を逸らせると自分のデスクに向かった。
明日には下のオフィスに移動する。マスコミの騒動はまだ治まっていなかったが、いっときほどの混乱はない。ティもヨクも近い時期に自分のアパートに戻るようになる。
ティはまた『晩餐会』をしようと言っていたが、たぶんもうそういう機会はないだろう。
あの日、ティと繋いだ手の感触が時々思い出されたが、その後も彼女とはこれまでと同じ秘書とボスという関係のままだった。どうしてあのとき強引にでも彼女を引き寄せなかったのかと悔やまれたが今さらもうどうすることもできない。
また日常が戻るのだ。そんなことを考えた。
モニターの前に座ってキィを押そうとしたとき、いきなり通信音が鳴ったのでびくりとした。
手に持っていたカップからコーヒーがこぼれそうになったので、慌ててカップをデスクの端に置いた。ちらりと時計を見ると午前6時だった。
回線を開くとアシュアが画面に映った。途端に何かあったのかと緊張が走る。
「カイン、良かった、起きていたか」
アシュアの顔は少し上気していた。
「30分ほど前に目が覚めた……。どうした? 何かあったのか?」
不安を押し隠しながらカインは答えた。
「ケイナがさ、ケイナがしゃべったんだよ!」
「え」
次の言葉が思い浮かばず呆然とした。アシュアはちらりと後ろを振り返り、再び嬉しそうにこちらに顔を向けた。
ケイナ…… 近くにいるのか?
自分の指がかすかに震えるのをカインは感じた。
「それで…… ケイナの記憶は……」
それを聞いて、アシュアは再び後ろをちらりと振り返った。
「ケイナ…… そこにいるの?」
カインは尋ねた。
「ああ。でも、出ないって拒否しまくりだ。それでな、本人が地球に帰りたいって言うからそろそろここも出ようかと思ってるんだ。もう日常生活にも不便はないくらいになったし」
カインは緊張のあまりうっすらと浮かんだ鼻の頭の汗を手の甲で押さえて小刻みにうなずいた。
「カートに連絡をとるよ。……『ノマド』のほうで受け入れの準備はできているのか」
「ああ、それは大丈夫。いつでもいいって言われた」
「リィにはケイナに関する権限が今はない。たぶんカートから迎えが行くと思う。その連絡が来るまで待っていてくれ」
アシュアはうなずいた。
「分かった」
「そこを出るときの細かい指示はカートが出すだろうから、カートの指示が出たらそれに従うように」
「了解」
「アシュア」
カインは一呼吸置いた。
「ケイナの記憶は」
アシュアはそれを聞いてまた、ちらりと後ろを振り返った。ケイナは全く画面に映らない。
こちらを向いたアシュアは申し訳なさそうな顔になった。
「カイン、あのな、ケイナの記憶、全部残ってるんだ。何も無くしてない」
「……無くしてない……?」
カインはおうむ返しにつぶやいてアシュアを見つめた。
「本当はずっと前から分かってたんだ。でもケイナにおまえには言うなって言われて……。すまなかった」
「ケイナらしい……」
カインは顔をしかめた。ケイナなりに、そういうことを伝えたら自分が『アライド』にまで飛んでくると考えていたのだろう。ケイナは何も状況を知らないはずだが、本能的にそう判断したのかもしれない。
「ほんとに…… すまなかったな。心配だっただろうに」
アシュアの言葉に、カインはもういいよ、というように小さく笑みを浮かべてうなずいた。
「たぶん、カートからこっちにも連絡は来ると思うけれど、出発前にまた連絡をして欲しい。『ゼロ・ダリ』の準備もあるだろうから1日や2日はかかるだろう。当面必要なものはないか?」
アシュアはそれを聞いて視線を泳がせた。
「ん、ま、とりあえずいいと思う。必要なものがあればこっちで用意するよ。請求書回すからよろしくね」
「分かった」
カインは苦笑した。
ケイナはとうとう最後まで姿を見せなかった。
彼はどこまで動けるようになっているんだろう。
カインはアシュアの消えた画面を見つめて考えた。会えば分かることかもしれない。
ケイナに会える……。
カインは椅子の背にもたれかかってほっと安堵の息を漏らした。
途端に再び通信音が鳴って飛び上がった。
慌てて回路を開くと画面に映ったのは『ホライズン』のドアーズだった。
「ご子息、早朝に申し訳ない」
彼はトレードマークの長いひげを揺らして言った。
「どうかしたんですか」
カインは再び緊張状態に陥った。
「1時間ほど前に、セレス・クレイが目覚めたんです」
やはり今度も画面を見つめたまま言葉が出なかった。
「脳波を見ていたんですが、ずっと覚醒の波形を示したまま安定していますので、そう判断しました。しばらくは体のサイクルを元に戻すために小刻みに睡眠と覚醒を繰り返すかもしれませんが、たぶん間違いないでしょう」
「彼…… いや、彼女は何か反応を示したんですか?」
カインはようやく声を出した。
「目は開いていますよ。呼ぶとわずかですがこちらを向きます。体は思うように動かないでしょうから、ほんとうにわずかですが」
うなずくしかなかった。カインは息を吐くと考えをまとめようと視線を落とした。
「こちらにお見えになりますか?」
「ええ」
考えのまとまらないうちにカインはうなずいていた。
「行きます。今すぐというわけにはいかないと思いますが」
「無理をなさらなくてもいいですよ。まだまだこれからが長い。たぶんしばらくしたらまた眠ってしまうかもしれない」
気づかうように言うドアーズに、カインは再び鼻の頭を手の甲で押さえてうなずいた。
「大丈夫です。そろそろオフィスにも戻る予定でしたから」
「分かりました。では、お待ちしています」
ドアーズは画面から消えた。
ほっとため息をついてしばらく思案したあと、キィを叩いてヨクを呼び出した。
しばらくして、ヨクの眠そうな顔が画面に現れた。
「どうした?」
彼はそう言いながら煙草に火をつけていた。
「早くからすみません。さっき『ホライズン』からセレスが目覚めたと連絡があった。もう少ししたら行ってみようと思います。始業には少し遅れるかもしれない。10時の会議には間に合うようにしますので」
「今、何時だ……」
ヨクは顔をめぐらせた。
「分かった……。おれも一緒に行く」
「ひとりで大丈夫です」
「単独行動は禁止。待ってろ。15分でそっちに行く」
「ヨク、あの……」
カインが次の言葉を発する前に彼は画面から消えていた。カインは息を吐くと、着替えるために席を立った。
ヨクは言葉通り15分きっかりにカインの部屋に入ってきた。
「コーヒーを一杯だけ飲ませてくれ」
テーブルの上のカインのカップに目をやると、ヨクはそう言ってキッチンに入っていった。
カップを片手に戻ってきた彼の顔はまだ眠そうだった。カインは『ヨク専用の灰皿』をテーブルの上に置いてやった。
「さっき、アシュアからも連絡があったんだ」
カインがそう言うと、ヨクは音をたててコーヒーをすすってカインの顔を見た。
「うん、なんて?」
「ケイナが声を出したんだそうだ。地球に帰りたいという意思表示があるからそろそろ戻ろうと思うと言ってきた」
「ふむ」
ヨクは宙を見つめながらポケットの煙草を探った。
「1ヶ月半か……。まあちょうどいい頃だな」
「当初よりは相当早い回復ぶりだけれど」
ソファに座るヨクの横に腰をおろすと、カインは少し冷えてしまったコーヒーの入った自分のカップを取り上げた。
「『ホライズン』から戻ってからクルーレに連絡するか。ちょうどいいくらいの時間になるんじゃないか?」
ヨクは煙草をくわえると火をつけて言った。
「良かったじゃないか。ふたりとも目が覚めた。一息つけるだろ」
「うん……」
カインはうなずきながらカップを口に運んで生返事をした。あまり喜べない気持ちだった。
ケイナが帰ると意思表示をした途端に、セレスが目覚めた。
離れていても通じているものを思わせるふたりの状態に少し畏怖の念が湧き起こったということもあったが、どうも気持ちが沈む。
また自分のあてにならない『予見』のせいかもしれない。
ただ、今は頭の奥に何のイメージも見えてこなかった。
なんだか妙に早く目が覚めてしまった。ずっと神経が張り詰めたままで、夜も寝たのかそうでないのか分からないような感じだ。
目が覚めてすぐにケイナのことを考えた。
アシュアの話からするとケイナは言葉こそ発しないけれど順調に回復しているようだ。
彼の記憶がどうなのか何度も尋ねてみたがアシュアは分からないというように肩をすくめただけだった。言葉が出ないのだから意思疎通もうまくいかないのかもしれない。
昨日『A・Jオフィス』についての調査報告書をヨクが持ってきた。
それによると『A・Jオフィス』は『アライド』では相当な巨大企業だ。
ただ『ゼロ・ダリ』のような医療研究機関は持ち合わせていない。
主な業務は運輸。
トップにいるのはクロー・カート、副社長はフォル・カート、ともにカートの名を持つ。
クロー・カートは『アライド』で生まれ育っているが、遡るとレジー・カート、つまりユージーの父の流れに近いところにいる。副社長のフォル・カートはクロー・カートと従兄弟同士だった。
『ゼロ・ダリ』のエイドリアス・カートはカートの名前を持っていてもレジーともクロー・カートとも繋がらなかった。かなり遠い血縁なのだろう。
「要するにこれはカート一族の内輪もめってやつじゃないかな」
ヨクはそうつぶやいていた。
そうかもしれない。ユージーはかなり翻弄されていただろう。ケイナのことでの連絡がぷっつり途絶えていたことが分かるような気がした。
手に持っていたカップからコーヒーを一口飲んで窓から目を逸らせると自分のデスクに向かった。
明日には下のオフィスに移動する。マスコミの騒動はまだ治まっていなかったが、いっときほどの混乱はない。ティもヨクも近い時期に自分のアパートに戻るようになる。
ティはまた『晩餐会』をしようと言っていたが、たぶんもうそういう機会はないだろう。
あの日、ティと繋いだ手の感触が時々思い出されたが、その後も彼女とはこれまでと同じ秘書とボスという関係のままだった。どうしてあのとき強引にでも彼女を引き寄せなかったのかと悔やまれたが今さらもうどうすることもできない。
また日常が戻るのだ。そんなことを考えた。
モニターの前に座ってキィを押そうとしたとき、いきなり通信音が鳴ったのでびくりとした。
手に持っていたカップからコーヒーがこぼれそうになったので、慌ててカップをデスクの端に置いた。ちらりと時計を見ると午前6時だった。
回線を開くとアシュアが画面に映った。途端に何かあったのかと緊張が走る。
「カイン、良かった、起きていたか」
アシュアの顔は少し上気していた。
「30分ほど前に目が覚めた……。どうした? 何かあったのか?」
不安を押し隠しながらカインは答えた。
「ケイナがさ、ケイナがしゃべったんだよ!」
「え」
次の言葉が思い浮かばず呆然とした。アシュアはちらりと後ろを振り返り、再び嬉しそうにこちらに顔を向けた。
ケイナ…… 近くにいるのか?
自分の指がかすかに震えるのをカインは感じた。
「それで…… ケイナの記憶は……」
それを聞いて、アシュアは再び後ろをちらりと振り返った。
「ケイナ…… そこにいるの?」
カインは尋ねた。
「ああ。でも、出ないって拒否しまくりだ。それでな、本人が地球に帰りたいって言うからそろそろここも出ようかと思ってるんだ。もう日常生活にも不便はないくらいになったし」
カインは緊張のあまりうっすらと浮かんだ鼻の頭の汗を手の甲で押さえて小刻みにうなずいた。
「カートに連絡をとるよ。……『ノマド』のほうで受け入れの準備はできているのか」
「ああ、それは大丈夫。いつでもいいって言われた」
「リィにはケイナに関する権限が今はない。たぶんカートから迎えが行くと思う。その連絡が来るまで待っていてくれ」
アシュアはうなずいた。
「分かった」
「そこを出るときの細かい指示はカートが出すだろうから、カートの指示が出たらそれに従うように」
「了解」
「アシュア」
カインは一呼吸置いた。
「ケイナの記憶は」
アシュアはそれを聞いてまた、ちらりと後ろを振り返った。ケイナは全く画面に映らない。
こちらを向いたアシュアは申し訳なさそうな顔になった。
「カイン、あのな、ケイナの記憶、全部残ってるんだ。何も無くしてない」
「……無くしてない……?」
カインはおうむ返しにつぶやいてアシュアを見つめた。
「本当はずっと前から分かってたんだ。でもケイナにおまえには言うなって言われて……。すまなかった」
「ケイナらしい……」
カインは顔をしかめた。ケイナなりに、そういうことを伝えたら自分が『アライド』にまで飛んでくると考えていたのだろう。ケイナは何も状況を知らないはずだが、本能的にそう判断したのかもしれない。
「ほんとに…… すまなかったな。心配だっただろうに」
アシュアの言葉に、カインはもういいよ、というように小さく笑みを浮かべてうなずいた。
「たぶん、カートからこっちにも連絡は来ると思うけれど、出発前にまた連絡をして欲しい。『ゼロ・ダリ』の準備もあるだろうから1日や2日はかかるだろう。当面必要なものはないか?」
アシュアはそれを聞いて視線を泳がせた。
「ん、ま、とりあえずいいと思う。必要なものがあればこっちで用意するよ。請求書回すからよろしくね」
「分かった」
カインは苦笑した。
ケイナはとうとう最後まで姿を見せなかった。
彼はどこまで動けるようになっているんだろう。
カインはアシュアの消えた画面を見つめて考えた。会えば分かることかもしれない。
ケイナに会える……。
カインは椅子の背にもたれかかってほっと安堵の息を漏らした。
途端に再び通信音が鳴って飛び上がった。
慌てて回路を開くと画面に映ったのは『ホライズン』のドアーズだった。
「ご子息、早朝に申し訳ない」
彼はトレードマークの長いひげを揺らして言った。
「どうかしたんですか」
カインは再び緊張状態に陥った。
「1時間ほど前に、セレス・クレイが目覚めたんです」
やはり今度も画面を見つめたまま言葉が出なかった。
「脳波を見ていたんですが、ずっと覚醒の波形を示したまま安定していますので、そう判断しました。しばらくは体のサイクルを元に戻すために小刻みに睡眠と覚醒を繰り返すかもしれませんが、たぶん間違いないでしょう」
「彼…… いや、彼女は何か反応を示したんですか?」
カインはようやく声を出した。
「目は開いていますよ。呼ぶとわずかですがこちらを向きます。体は思うように動かないでしょうから、ほんとうにわずかですが」
うなずくしかなかった。カインは息を吐くと考えをまとめようと視線を落とした。
「こちらにお見えになりますか?」
「ええ」
考えのまとまらないうちにカインはうなずいていた。
「行きます。今すぐというわけにはいかないと思いますが」
「無理をなさらなくてもいいですよ。まだまだこれからが長い。たぶんしばらくしたらまた眠ってしまうかもしれない」
気づかうように言うドアーズに、カインは再び鼻の頭を手の甲で押さえてうなずいた。
「大丈夫です。そろそろオフィスにも戻る予定でしたから」
「分かりました。では、お待ちしています」
ドアーズは画面から消えた。
ほっとため息をついてしばらく思案したあと、キィを叩いてヨクを呼び出した。
しばらくして、ヨクの眠そうな顔が画面に現れた。
「どうした?」
彼はそう言いながら煙草に火をつけていた。
「早くからすみません。さっき『ホライズン』からセレスが目覚めたと連絡があった。もう少ししたら行ってみようと思います。始業には少し遅れるかもしれない。10時の会議には間に合うようにしますので」
「今、何時だ……」
ヨクは顔をめぐらせた。
「分かった……。おれも一緒に行く」
「ひとりで大丈夫です」
「単独行動は禁止。待ってろ。15分でそっちに行く」
「ヨク、あの……」
カインが次の言葉を発する前に彼は画面から消えていた。カインは息を吐くと、着替えるために席を立った。
ヨクは言葉通り15分きっかりにカインの部屋に入ってきた。
「コーヒーを一杯だけ飲ませてくれ」
テーブルの上のカインのカップに目をやると、ヨクはそう言ってキッチンに入っていった。
カップを片手に戻ってきた彼の顔はまだ眠そうだった。カインは『ヨク専用の灰皿』をテーブルの上に置いてやった。
「さっき、アシュアからも連絡があったんだ」
カインがそう言うと、ヨクは音をたててコーヒーをすすってカインの顔を見た。
「うん、なんて?」
「ケイナが声を出したんだそうだ。地球に帰りたいという意思表示があるからそろそろ戻ろうと思うと言ってきた」
「ふむ」
ヨクは宙を見つめながらポケットの煙草を探った。
「1ヶ月半か……。まあちょうどいい頃だな」
「当初よりは相当早い回復ぶりだけれど」
ソファに座るヨクの横に腰をおろすと、カインは少し冷えてしまったコーヒーの入った自分のカップを取り上げた。
「『ホライズン』から戻ってからクルーレに連絡するか。ちょうどいいくらいの時間になるんじゃないか?」
ヨクは煙草をくわえると火をつけて言った。
「良かったじゃないか。ふたりとも目が覚めた。一息つけるだろ」
「うん……」
カインはうなずきながらカップを口に運んで生返事をした。あまり喜べない気持ちだった。
ケイナが帰ると意思表示をした途端に、セレスが目覚めた。
離れていても通じているものを思わせるふたりの状態に少し畏怖の念が湧き起こったということもあったが、どうも気持ちが沈む。
また自分のあてにならない『予見』のせいかもしれない。
ただ、今は頭の奥に何のイメージも見えてこなかった。