屋台村に戻ると私達は水色の幟が揺れる屋台を見つけた。「いらっしゃい!」と、威勢の良い声を掛けてくれた小太りなおじさんにお金を渡すと網と紙皿を受け取る。
「さあ、頑張って!」と、一言かけるとおじさんは次に入ってきたお客さんの相手をしていた。

 縁日の中でも人気の高い金魚すくいには、既に一生懸命に金魚と睨みあっている子供達の姿があった。その中で、大人が意を決して水色の四角いプラ船の前に腰を屈める。中を覗き混むと赤や黒の尾びれを動かしながら、優雅に游いでいる色とりどりの金魚の姿があった。

「ナツに掬われる間抜けな金魚なんているか?」と、すぐ後ろでニヤニヤと笑う秋雄を一度睨みつけると私はすぐに視線を金魚へと戻しながら受け皿にプラ舟の水を少し入れる。

 どの子にしようか。なんて選んでも、お目当ての金魚を掬うような技術はない。しかし、一応目星をつけておく。目の前を優雅に泳ぐ鮮やかな金魚。赤よりも濃い紅色。
 
「この子にする」

「おお。頑張って」

 秋雄に宣言したつもりが、いつの間にかお客さんの対応を終え店番用の椅子に座っていたおじさんが応援してくれる。

「静かに網を構えて……」

 昔、秋雄から教えてもらったようにそっと網を水面に近づけてお目当ての金魚が近づいてくるのを静かに待つ。

「ナツ。そのまま網は水平に」

 真剣な眼差しの秋雄に私はこくりと頷きながら指示に従う。
 秋雄は金魚掬いをさせたら一度に十匹は掬い上げる。周りからは「名人」と、呼ばれていた程だ。しかし必ず、掬うだけで最後にはお店に返してしまうからみんなは不思議がっていた。