“__ナツが「恥ずかしい」って思ってることは、本当に恥ずかしいことなのか?”
 “__だから、ナツにはその瞬間を大事にして欲しい”

「お父さん」

 荷台に乗って収穫コンテナを片していた父は、首に巻かれた手拭いで汗を拭きながら振り返る。

「……ごめんね」

 __謝れる瞬間に謝ること。
 __感謝できる瞬間に感謝すること。
 羞恥心よりも大事なことを私はいつしか忘れていた。

「軽トラもお父さんの格好も、恥ずかしいなんて言ってごめんなさい」

 一生懸命に働き続ける父の姿が恥ずかしいわけがない。服についた汗も土も、他人から見たらただの「汚れ」かもしれない。けれど、それは農園を守る父の勲章だ。

「……夏実」

 灰色の瞳を潤ませる父にそっと微笑む。

「今度は、この軽トラで迎えに来て」
 
 “__小林農園”
 大きく書かれた軽トラを幼い頃は格好良いと思っていた。しかし同級生に笑われた瞬間、それらが「恥ずかしいもの」へと変わってしまった。だけど本当は他者ではなく私自身の心が決めることだった。

「格好良いよ。お父さんも軽トラ
も。いつもありがとう」

 言い切った私はまるで逃げるようにその場を後にする。振り返ると、父はキャップを外し露になった白髪だらけの頭を手のひらで撫でながら、この真っ青な空を優しい瞳で見上げていた。