機嫌よく帰宅した私の手から獲得した本を受け取ったミランダとお母様は、その日の夜には目を腫らして、私の部屋をズンズンと進むと私の手を取った。
「さすがお姉様が選んだだけあって傑作だわ!」
「さすが私の娘ね!」
どうやら持ち帰った2冊はどちらも2人のお眼鏡にかなったようだった。ちなみに私が真っ先に読んだ本も当たりである。どれも傑作とは選んだ者として、そしてこれから読む者として嬉しいかぎりである。
「良かった。私もいまから読むのが楽しみだわ」
右手はお母様、左手はミランダと繋がった手を外すと2人に手を差し出した。だが2人ともその手を見ると「あっ」と何かを思い出したように声を上げると、ほぼ同時に回れ右をして私の部屋を去った。どうやら2人とも感情が先走った結果、本を持ってくるのを忘れてしまったらしい。
ミランダだけならよくあることなのだが、お母様まで同じように部屋に本を忘れるなど珍しいことだ。私の覚えている限り、そんなことは一度だってなかった。つまりはそれほどまでに面白い話であったのだろう。
1人、部屋で2冊の本への期待を積もらせながら、まだかまだかと2人の再訪を待つ。手は早く本のページをめくりたいとばかりに疼いて、足は一刻でも早く彼女達から本を迎え入れたいと部屋中を忙しなく歩き回る。
トントントンとドアがノックされると返事をするよりも早く来訪者に顔を見せる。その様子に驚くことはない。予想通りの2人はそれぞれに私の手に本を乗せる。ミランダもお母様も口を開けばその感動を漏らしてしまうことを恐れてか、口を固く一文字に閉じていた。だが受け取ったこの本は確かに2人の感動をしっかりと乗せて、重みのあるものへと変わっていた。
再び椅子に腰をおろし、早速開いたのは先にミランダに貸していた方の本だ。以前見つけた作家の作品で、今回私達にとっての2作目となる。
ストーリーはミランダが一番好む王道の、幼馴染とすれ違う物語だ。思春期に親の都合で離れ離れになった少年少女の気持ちが甘酸っぱくて、私の頬も熱を帯びて紅くなってしまう。最後はお約束で、2人は見事に思いを通じあわせたのだった。
ヒロインはちょうど私やミランダと同じくらいの歳だったからか、彼女を応援する気持ちにも熱がこもるというわけだ。
そしてこうなるとお母様に貸した方も気になるもので、普段ならばとっくに寝ている時間にも関わらずもう1冊の本も手に取った。
こちらはシェリー=ブロットの本だ。彼女の作品はシリーズと1冊完結のものを読んだことがあるが、どちらも全く系統の違う、けれどどちらも私達を満足させるものであった。
欲望のままにページをめくり、目を通して彼女の紡いだ言葉を噛みしめる。一文字足りとも逃してはならないと息を吐くことさえ忘れ、最後のページをめくった私の手にはいくつもの雫が乗っていた。ハンカチで手をぬぐい、続いて同じく濡れているだろう目元からも涙を拭き取る。そしてミランダには貸せないなと涙を流させた本の表紙をなぞりながら思う。
これは悲しい恋の物語。
地位も名声も得た男と、男と共になれずとも彼の幸せを祈った女の物語だ。300ページ近くある本で語られるのは女の初恋と失恋なのだ。最後にヒロインは男の手を拒み、代わりに背中を押してやるのだ。関係が変わってしまったことを嘆き、そして彼に手が届かなくなってしまったことに涙した夜を全て呑み込んで、笑うのだ。特にラストの20ページで描かれるのは1人になってしまった後の話。そこから彼女自身の描写はパタリと消える。描かれるのはどれも彼女の身の回りのものばかり。それが余計に切なくさせるのだ。
もしも私なら彼女のように、愛する人の背中を押すことが出来るだろうか?
その答えはまだ私の中には生まれていない。けれどもし、誰かを好きになれたならば……。その時こそこの解答を導き出せるような気がした。
「さすがお姉様が選んだだけあって傑作だわ!」
「さすが私の娘ね!」
どうやら持ち帰った2冊はどちらも2人のお眼鏡にかなったようだった。ちなみに私が真っ先に読んだ本も当たりである。どれも傑作とは選んだ者として、そしてこれから読む者として嬉しいかぎりである。
「良かった。私もいまから読むのが楽しみだわ」
右手はお母様、左手はミランダと繋がった手を外すと2人に手を差し出した。だが2人ともその手を見ると「あっ」と何かを思い出したように声を上げると、ほぼ同時に回れ右をして私の部屋を去った。どうやら2人とも感情が先走った結果、本を持ってくるのを忘れてしまったらしい。
ミランダだけならよくあることなのだが、お母様まで同じように部屋に本を忘れるなど珍しいことだ。私の覚えている限り、そんなことは一度だってなかった。つまりはそれほどまでに面白い話であったのだろう。
1人、部屋で2冊の本への期待を積もらせながら、まだかまだかと2人の再訪を待つ。手は早く本のページをめくりたいとばかりに疼いて、足は一刻でも早く彼女達から本を迎え入れたいと部屋中を忙しなく歩き回る。
トントントンとドアがノックされると返事をするよりも早く来訪者に顔を見せる。その様子に驚くことはない。予想通りの2人はそれぞれに私の手に本を乗せる。ミランダもお母様も口を開けばその感動を漏らしてしまうことを恐れてか、口を固く一文字に閉じていた。だが受け取ったこの本は確かに2人の感動をしっかりと乗せて、重みのあるものへと変わっていた。
再び椅子に腰をおろし、早速開いたのは先にミランダに貸していた方の本だ。以前見つけた作家の作品で、今回私達にとっての2作目となる。
ストーリーはミランダが一番好む王道の、幼馴染とすれ違う物語だ。思春期に親の都合で離れ離れになった少年少女の気持ちが甘酸っぱくて、私の頬も熱を帯びて紅くなってしまう。最後はお約束で、2人は見事に思いを通じあわせたのだった。
ヒロインはちょうど私やミランダと同じくらいの歳だったからか、彼女を応援する気持ちにも熱がこもるというわけだ。
そしてこうなるとお母様に貸した方も気になるもので、普段ならばとっくに寝ている時間にも関わらずもう1冊の本も手に取った。
こちらはシェリー=ブロットの本だ。彼女の作品はシリーズと1冊完結のものを読んだことがあるが、どちらも全く系統の違う、けれどどちらも私達を満足させるものであった。
欲望のままにページをめくり、目を通して彼女の紡いだ言葉を噛みしめる。一文字足りとも逃してはならないと息を吐くことさえ忘れ、最後のページをめくった私の手にはいくつもの雫が乗っていた。ハンカチで手をぬぐい、続いて同じく濡れているだろう目元からも涙を拭き取る。そしてミランダには貸せないなと涙を流させた本の表紙をなぞりながら思う。
これは悲しい恋の物語。
地位も名声も得た男と、男と共になれずとも彼の幸せを祈った女の物語だ。300ページ近くある本で語られるのは女の初恋と失恋なのだ。最後にヒロインは男の手を拒み、代わりに背中を押してやるのだ。関係が変わってしまったことを嘆き、そして彼に手が届かなくなってしまったことに涙した夜を全て呑み込んで、笑うのだ。特にラストの20ページで描かれるのは1人になってしまった後の話。そこから彼女自身の描写はパタリと消える。描かれるのはどれも彼女の身の回りのものばかり。それが余計に切なくさせるのだ。
もしも私なら彼女のように、愛する人の背中を押すことが出来るだろうか?
その答えはまだ私の中には生まれていない。けれどもし、誰かを好きになれたならば……。その時こそこの解答を導き出せるような気がした。