煉獄の扉が開く音について、ある日、誰かが語り出した。重いドアがギィーと荘厳な音を立てていたと。別の誰かが反論した。いや、引き戸のガラガラという音だったと。



 煉獄の住民たちは口々に言う。鍵のガチャガチャという音がやたらと響いていた。いや、あれは自動ドアの音だった。人の声が聞こえた気がする。風の音を聞いた。同じ音を聞いた者に対しては親近感を抱いた。



 あるとき誰かが言った。雀の声を聞いた私が、一番善行を積んでいたのではないかと。煉獄の住民は猛反発をした。雨の音の方が大きなスケールだから私の方が天国に近い。いや、よりハイテクな電子音を聞いた私の方が偉い。とても大きな音を聞いた自分を敬え。いや、説明しがたい抽象的な音の方が優れているのだ。



 ある女は嘘をついた。雀の声ですって?私なんて生まれ育った村のウグイスの声を聞いたわ。ある男は嘘をついた。自分のときは有名ヒットチャートの音楽だった。人が手を1回叩く音を聞いた者は、大勢の拍手に迎えられたと誇張した。



 煉獄では今日も、いさかいが絶えない。嘘をつき、人をおとしめ、争うたびに天国は遠のく。人はなんて愚かなのだろう。天国や地獄とは異なり、煉獄の扉の音は完全にランダムであるのに。