朝日が昇って、窓辺に一輪の花が飾られた部屋に日差しが差し込んだ。そこには過去を懐かしむ少女が一人。彼女はとても穏やかな顔をしていた。


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「おはようございます、母さま」

 窓辺の花に挨拶をして、私の1日は始まる。この街に住み始めて、明日でちょうど太陽暦でいうところの10年になる。同じ街に10年とどまるのは覚えている限りで初めてだ。この街はとても暖かい。春には色とりどりの花が咲き、住民は誰も私を傷つけない。

 私は魔女だ。人間でいうところの13歳くらいの姿のまま1000年以上生きている。老いない姿を晒し続ければ魔女であることを気づかれてしまうから、同じ場所に長くはとどまれない。近頃はSNSとやらが発達しているから、無闇に写真に写らないようにするだけでも一苦労だ。

 魔女と言っても、御伽噺の世界のように、人に危害を加えたり世界を滅ぼしたりするような魔法なんて使えない。ひとたび魔女狩りに合ってしまえば、ひとたまりもないからひっそりと生きている。私が使える魔法は、2つ。植物の生命力を強めることと大切な人との思い出を植物の種にすること。

 私は10世紀ごろの英国で生まれた。13世紀の魔女狩りで命を落とした母は、いかにも大和撫子という風貌だった。とても綺麗な黒髪をしていた。会ったことの無い父も東洋の生まれらしい。窓辺の花は母の記憶の花だ。正確には、母の記憶の花が実をつけてその種がまた芽吹いて……それを幾百も繰り返した花だ。

 何百年も安住の地を求めて、島から島へとさすらった。辿り着いたのは英国の植民地になっていたアメリカ大陸。広い大陸をさすらっているうちに魔女たちが魔女であることを隠しながら人間たちと暮らしている集落にたどり着いた。

 太陽暦1689年、水の村セイラム。そこで私はレオという少年と出会った。出会いはちょうど今日のような晴れた日だった。