娘の環奈を家に送り届けてから会社に戻ることにした。玄関扉を開けると、寒暗い廊下にリビングの光が漏れ出しているのが妙に不気味だった。「ただいまー」と言って上がる環奈の背中を追ってリビングに入って、俺は早速小言をぶちまけた。
「おい、美希、何で電話に出ないんだよ。それにお迎え、どうなってんだよ。こっちはまだ仕事中なんだけど」
そこに美希の姿はなかった。その代わり、ソファの上にぐるぐる巻きにされた布団が置かれていた。その布団の中から、「だから、インフルエンザになったって言ったじゃん」とか細い声が聞こえてきた。なんとそれが、美希だった。
「だからインフルエンザになったって…」
そこまで言って俺は美希の異変に気付いた。ソファの上の巻きずしみたいな布団は、激しく上下に動いている。しかも微かに震えているような感じもした。さらには、「はあ、はあ…」と苦しそうな荒い息も漏れ出す。
「もしかして、ヤバいの?」