休みが明けた月曜日。どうも調子がおかしいと思ったのは、昨日の夜中だった。まさかと思って午前休をとって病院に行った。
「え?君もインフルエンザになったの?」
スマホの受話器から聞こえる上司の素っ頓狂な声が、ただでさえ頭痛で締め付けられる頭にガツンと響いた。
「君も災難だねえ。しかし困ったな。そろそろ出社してもらわないと。君が抱えている仕事が進まないことにはこちらの仕事が進まないと、各方面からクレームが出始めている」
「在宅勤務中に受け持ったタスクはすべてやり切ってありますけど」
昨日の日曜日だって、実は何となく体に悪寒を感じながらも、それは気のせいだと体に鞭を入れてやり切った。それなのに、
「君は考えが甘いよ。君が仕事をしている間に他の人は君の二倍も三倍も働いているんだよ。まあ家族に足を引っ張られて在宅では存分な成果が発揮できなかったのかもしれないが」
その言葉に、むっとならないわけがない。
「家族は関係ありません」
「なんだ、言い返す元気があるんじゃないか。だったら出社したらどうだ。ただのインフルエンザだろ?風邪と大して変わらないじゃないか。そんなんで休まれたら、会社だっていい迷惑だよ」
「インフルエンザと風邪は全然違いますよ。他の人にうつりでもしたら…」
「インフルエンザにうつるヤツなんて弱い人間だ」
この電話は、いつまで続くのだろう。頭がぼうっとしてきた。目がかすむ。この男とこんなやりとりをしているのが空しい。この不毛な会話こそ時間の無駄だ。早く寝たい。病院に行きたい。
俺が割れそうな頭を抱えてそんなことを考えている間も、上司はダラダラと話し続ける。もう、限界だ。
「あの、もういいです」
「は?」
受話口から、上司のしたり顔が伝わるようだった。
「何がもういいんだね?」
「もう休みは結構です。休みはもういいので…」
その続きの言葉を、俺は意識が朦朧とする中で、覚束ない口調で、だけどはっきり告げた。そこで、意識がなくなった。