「仕事、大丈夫?」
夕方、俺が翌日の出社準備をしていると美希が尋ねてきた。
「ごめんね。私がインフルエンザになんかなったから」
「美希だって、かかりたくてかかったわけじゃないんだから。それよりまだ病み上がりなんだし気をつけろよ」
「ま、何とか乗り越えたね」
美希は俺の心配を跳ねのけるように「うーん」と伸びをした。
「パパのおかげだね」
「俺は別に何も…」
「カッコよかったよ、ヒーローみたいで」
「大袈裟だよ」
「大袈裟じゃないよ。我が家の危機を救ったんだから」
にっと笑った美希の笑顔は、金メダルみたいにまぶしかった。その笑顔に、俺はずっと聞きたかったことを尋ねた。
「なあ、みんなが元気になったら、何がしたい?」
「うーん、そうだな…」
美希がつらつらと語り始めたのは、他愛もない日常生活だった。そんなことでいいのかと、呆れるほどに。楽しそうに、嬉しそうに語る美希を見て俺は思った。
_この笑顔を守りたい、これからも。
それは、他の誰にもできない、任せられない、俺にしかできない仕事だ。