二人に怒鳴ってしまったっことを謝れないまま、次の日を迎えてしまった。俺も大人げなかったと反省している。気持ちを切り替えて二人を起こしに行った。今日から学校や幼稚園が再開するというのに、二人とも起きてこなかった。
いつも通り「花恋、環奈、起きるぞ」と声をかけた。しかし返事がなく動く気配もない。「おーい、起きろー」といつもよりひょうきんな感じで布団をめくった。現れた二人の姿を見て、体中にさっと寒気が走った。布団の中で二人は、顔を真っ赤にして苦しそうにしていた。おでこに手を添える前に、ものすごい熱が手のひらを伝ってきた。ぐったりと横たわる二人を前に、俺は声を失った。
_もしかして、インフル…
体が震えた。目の前に、この世のすべての恐怖を突き付けられた気分だった。
_どうしよう、どうしたらいい…
混乱する俺は咄嗟に「美希っ」と呼びそうになって、口をつぐんだ。
こんな時まで美希にすがろうなんて、俺はどんだけ頼りない夫なんだ。今動けるのは、俺しかいないのに。
昨日の美希の背中が目に浮かんだ。自分だってしんどいのに弱音を吐くどころか、子供をなだめて落ち着かせて、なんて立派な母親なんだろう。それなのに俺は、怒鳴ることしかできなかった。甘やかしてやれなかった。同じタイミングで親になったはずなのに、どうして俺と美希はこんなに違うんだろう。俺だって二人の父親なのに。勝手に涙が出てきた。
_だから、泣いてる場合じゃないんだって。
どうしようもない自分に呆れて、自分の太ももを思い切り殴った。その時、
「大丈夫だよ」
力強い声に、思わず顔を上げた。呆然とする俺に、美希はテキパキと指示を出し始めた。
「体温を測って、なるべく水分をとらせて。私は病院の予約とるから」
俺は美希に言われるがまま動いた。しばらくすると美希が戻ってきた。
「もう今日の分の診察受付は終わっちゃったって」
「え?なんで?まだ診察時間外だろ?」
「予約がいっぱいで受診可能人数が超えたんだよ。今はただでさえインフルエンザが流行っていて、病院はどこもいっぱいだから」
「そんな…じゃあ俺も他の病院調べてみるよ」
そう言ってスマホで検索しようとすると美希がそれを止めた。
「他の病院も同じだよ」
「そんなのやってみないとわからないだろ」
「落ち着いてよ」
「落ち着いていられるかよ。あんなに苦しそうにしてるじゃん。このままじゃ…」
「病院に行ったところですぐに治してもらえるわけじゃないんだよ」
頬を叩かれたようにぴしゃりとそう言われて、俺ははっとなった。美希は俺と視線を合わせて、俺を落ち着かせるように、ゆっくり言った。
「今は、今できることをして待つしかないの。明日になればちゃんと診てもらえるから。そしたら薬ももらえて、少しは楽になるから。今は水分をとることが一番」
その言葉はすべて俺の腹の中にすとんと落ちていく。俺はゆっくりうなずいて、苦しそうにしている二人を美希とじっと見つめた。
「大丈夫だよ。一緒に戦おう」
その言葉に、俺も力強くうなずいた。