_夕飯…。
ぼんやりとした頭に一番に浮かんだのはそれだった。重いため息が出た。ずっと座っていたからか腰が痛い。腰をさすりながらゆっくりと立ち上がった。外も真っ暗なら、リビングも真っ暗だった。唯一光が漏れ出しているのは、寝室だった。その優しくて暖かい光に誘われるように、俺は寝室のドアにそっと手をかけた。少しだけ明るさを絞ったオレンジ色の光が、部屋の中をぽわんと照らしていた。部屋の隅で、美希が背中を少し丸めて揺れていた。その腕の中には生まれたての赤ちゃんのように横抱っこされている環奈がいた。美希がその背中をとんとんと優しくたたいている。太もものあたりには、ぴったりと寄り添うようにして花恋が眠っていた。俺がいることに気づくと、美希は顔を上げた。マスクをしていても、優しく微笑んでいるのがわかった。
「お疲れ様」
「起きてていいの?」
「うん、今日は調子いいから」
俺から目をそらしてそう言う美希に、「ウソ。まだ熱あるんじゃ…」と手を伸ばした。だけど美希は、おでこにそっと置こうとした俺の手を、笑顔で誤魔化すようによけた。そしてそばに散らばった何枚もの紙を拾い上げて、それを愛おしげに見てから、俺の方に手渡した。
_はやくげんきになってね ママだいすき
その言葉の真ん中には、笑顔の美希がいた。
「寂しい思いをさせてる分、甘えさせてあげたくて」
まだ熱を感じさせる潤んだ瞳が、優しく二人の娘に注がれた。
「そろそろ元気にならなきゃ」
そう言ってにっと笑ったものの、その笑顔はまだまだ弱々しかった。だけど妙にほっとさせられた。美希とこうしている時間は、穏やかで優しくて、どこか懐かしい感じがした。俺は思わず美希の肩に自分の頭を預けた。美希は何も言わなかった。だから、俺もしばらくそうしていた。