しばらくは静かだった。俺も会議に集中できた。だけど事件は、勃発する。
「ぱぁぱぁ、花恋ちゃんがおもちゃ貸してあげないって言ったあ」
大きな泣き声と共に、環奈が俺の腿に泣きついてきた。画面の向こう側にも声は聞こえているのだろう。同僚たちが「おや?」という表情を作るのがわかった。それでも俺は何事もないような顔を画面に向け続けた。そこに「違うでしょ、環奈が悪いんじゃん」と花恋がやって来る。そして俺のそばで言いあいを始める。それでも俺はヘッドホンで覆われた耳に全集中を傾けて、関わらないようにした。だけど、
「痛っ」
その声に、思わず顔をそちらに向けると同時に、無意識に「花恋っ」と怒鳴った。「うわあーん」と環奈の泣き声がじわじわと家中に響き渡っていく。その横で「環奈が先に手出したんだもん」と花恋が不貞腐れた顔で訴える。「違うもーん」と環奈が泣きながら応戦する。そんな堂々巡りがしばらく続いて、とうとう俺は、ヘッドホンを机にたたきつけた。
「うるさいっ。静かにしろ。今仕事中なんだぞ。わかるだろ」
一瞬ぴたりと泣き声が止んだ。だけど、まるで津波のようにどどどどっと二人分の泣き声が、俺の耳や頭に押し寄せてきた。思わず頭を抱えてぐっと目を閉じた。
_もうダメだ。手が付けられない。
その時だった。二人の泣き声が急に小さくなった。そっと目を開けると、そこには二人を抱き寄せる、パジャマ姿の美希がいた。その光景に、胸にすうっと心地よい風が流れていく感じがした。美希は環奈を抱っこし、花恋の手をつないで寝室に入っていった。ぱたんと扉が閉まる音を聞いたと同時に、「はああああ…」と大きなため息とともに、椅子に倒れ掛かった。
「ぱぁぱぁ、花恋ちゃんがおもちゃ貸してあげないって言ったあ」
大きな泣き声と共に、環奈が俺の腿に泣きついてきた。画面の向こう側にも声は聞こえているのだろう。同僚たちが「おや?」という表情を作るのがわかった。それでも俺は何事もないような顔を画面に向け続けた。そこに「違うでしょ、環奈が悪いんじゃん」と花恋がやって来る。そして俺のそばで言いあいを始める。それでも俺はヘッドホンで覆われた耳に全集中を傾けて、関わらないようにした。だけど、
「痛っ」
その声に、思わず顔をそちらに向けると同時に、無意識に「花恋っ」と怒鳴った。「うわあーん」と環奈の泣き声がじわじわと家中に響き渡っていく。その横で「環奈が先に手出したんだもん」と花恋が不貞腐れた顔で訴える。「違うもーん」と環奈が泣きながら応戦する。そんな堂々巡りがしばらく続いて、とうとう俺は、ヘッドホンを机にたたきつけた。
「うるさいっ。静かにしろ。今仕事中なんだぞ。わかるだろ」
一瞬ぴたりと泣き声が止んだ。だけど、まるで津波のようにどどどどっと二人分の泣き声が、俺の耳や頭に押し寄せてきた。思わず頭を抱えてぐっと目を閉じた。
_もうダメだ。手が付けられない。
その時だった。二人の泣き声が急に小さくなった。そっと目を開けると、そこには二人を抱き寄せる、パジャマ姿の美希がいた。その光景に、胸にすうっと心地よい風が流れていく感じがした。美希は環奈を抱っこし、花恋の手をつないで寝室に入っていった。ぱたんと扉が閉まる音を聞いたと同時に、「はああああ…」と大きなため息とともに、椅子に倒れ掛かった。