それらを抱えて桜の下へと向かった。
 どこだろう、と探し回っているとこちらに気付いた児玉が手を振って、今にも大声をあげそうだ。
 あぁ、他のクラスの人がいる前で、他の人にも聞こえるような大声で、組長と呼ぶのは勘弁願いたい。

「ゆう、ここだよ」

 児玉は自分のことを名前で呼んだ。

 若宮(わかみや)優(ゆう)。

 それが本名なのだ。
 駆け出して、麗子さんより渡されたおにぎりを場所取り係りの四人に手渡す。

「麗子さんが心を込めて作ったおにぎりだ。ありがたくいただくように」
「俺の分は?」
 児玉は図々しく尋ねてくるので、児玉の分はこっちだ、と別の包みを手渡した。
 そして、麗子さんの言葉を思い出す。

『私が作ったの、食べてね』

 とびきりのスマイルをつけたら、児玉は少し間を置いてから、いただきます、と包みを開けたのである。
 場所取りの四人はニヤニヤしながら児玉のおにぎりを覗き込む。のりで包まれた小さなおにぎり。

「へぇ、うまそうじゃん」
 そう言いながら、口元へ放り込む児玉。
 その後、彼は顔をしかめた。
「組長特製、ラー油入りのおにぎりだ。たっぷり染み込ませておいた。私を組長と呼び始めた罰だよ」

 ふん、と鼻で息を吐いてから駆け出した。
 背中で「なんか飲み物をくれ」と騒いでいる児玉の声とそんな彼を笑っている声を聞きながら、麗子さんの下へと走っていく。

 風が長い髪を風を弄ぶ。さらに自分の長い髪だけでなく桜の花びらも弄ぶ。花吹雪の中を駆け抜ける。
 これでもう児玉は自分のことを組長と呼ばなくなるかな?




【完】