「李月さん…盗み聞きして、すみません。」
「ううん、大丈夫よ。朝日、あなたもあるんじゃないの?」

 胸を突かれてしまった。

 父が背をトントンと押す。

「1人で抱え込むのは辛い。言うだけでも、いいんじゃない?」
「……っ…俺も…もう1回チェロがやりたいん、です。今日感じたような思いを、体感を、俺のチェロで届けたいんです!」

 歌ではなく、あの森林のような柔らかで落ち着いた音色で。

「夜空は?フルートをまた始めてどうしたいの?」
「私は…自分のフルートで、来てくれた人に希望を分けたい。あの舞台から、皆の視線を奪いたいの!」

 両親は顔を見合わせる。

 訛りきってしまった17の俺が、プロになれる確率なんて100分の1以下だと思う。

 それは夜空も同じ、真昼も道は違えど同じようなものだ。

 無理なのか、と険しい顔をした。

「俺は賛成かな!子供の夢を最大限応援するのが、親の役目だろう?ただ、それなりの覚悟を持つんだよ。途中で辞めるなんて、しないよね?」
「私も賛成よ。もちろん、陽翔くんの言う事にもね。途中でまたやめてしまうと思うなら、今のうちにやめときなさい。その夢に一生向き合っていくのよ。」

 いつもの温かい視線はない。

 胸に刺さる、ナイフのような視線。

「ま、体験談だけどすぐ上手くはいかないよ。俺だって下積み時代はあったし、大変で何回も辞めたくなったし。」
「それは私もよ。ろくに食べられない日が続いて、ガリガリだったんだから。」

 写真を見せてもらったが、別人のような見た目だ。

 異常な程の隈、袖からのぞく手首は痩けて骨が浮いている。