未だに俺は李月を「母さん」と呼べない。
別に前の母親に未練がある訳じゃない。
どうしても、言おうとすると喉に詰まる。
「どうしたの?朝日?」
「か…李月さん。いや、少し考え事してて。」
「そう。それにしても、そろそろ母さんって呼んでくれないの?」
「あぁ…うん。」
「!ごめんなさいね、無理して呼んでほしい訳じゃないのよ。朝日のペースでいいから。」
本心はやっぱり「母さん」と呼びたい。
どうにかしたいのが本望だ。
「こちらこそ、ごめん。でも、李月さんは俺の大事な母親だよ。それは変わんない。」
「朝日…」
少しばかり瞳が潤んでいるようにも見える。
「私も朝日は大事な息子よ〜…!」
嬉しい限りだ。
「そろそろ夕飯の準備をしなくちゃ。」
「夜空の料理!久しぶりね。」
「じゃあ今日はアラビアータにするわ。2人とも好きでしょう?」
「俺もやる、夜空。」
別に料理が得意な訳じゃないが、なんか真昼に隣を取られるのが嫌で、一緒にやるようになった。
独占欲というのか、嫉妬というのか。
「あぁ、取られちゃった。」
「朝日も真昼も、夜空が大好きなのね。」
「当たり前だ。」
「そうだよ!お姉ちゃんは私が守るの!」
「おい!ちょい待て!夜空を守んのは俺だ!」
「はぁ!?私だよ!」
いくら引っ張っても釣り合ったままの綱引きが始まった。
そっとしておこう。
「じゃ、俺は夜空と料理しよーっと!」
「ちょ!父さん!?」
「漁夫の利さ。残念だね、朝日。夜空〜!俺もやる〜!」
「仕方ないわね、お父さんったら。」
どうやら俺にはライバルが増えたようだ。