「俺たちそろそろ行くわ。」
「えぇ、もう?!もっとヨゾラと話したいのに!」
「まあまあ。ジュディ、二人の邪魔しては、ねぇ。」

 また大学で、と友達と離れた瞬間、またも抱きついてきた。

 思いっきり俺を吸う夜空。

「おいおい…」
「いいでしょう?私、朝日の匂い大好きなの。」

 見上げる彼女は少し大人に見えた。

「そうかよ!」

 なんだか気に食わなくて肩に顔を押し付けてみる。

「もっと最初に言うことあるだろ…」
「ふふっ。久しぶりね、朝日。」
「…久しぶり、夜空。」

 彼女と会うのは一年ぶりだった。

 毎年この日、この音楽祭で、三日間だけ。

「まさかと思うけれど、この後空いてる?」
「ははは…!!!」

 誘う瞳に俺は悪い顔をした。

「もちろんだ。」

 舌舐めずりした。

 その日は一日寝て過ごした。

「大丈夫か?」

 水を渡すと、一気に飲み干す。

「うん。」

 緩んだ顔が微笑んだ。

「そうだ、夜空。卒業おめでとう。」
「ありがとう朝日。」

 今年の6月、彼女は大学を卒業した。

 それは真昼も同じ。

「いつまでこっちにいるんだ?」
「朝日がいるまではいるつもりよ。」
「そうか。」

 俺は学年の皆より一つ年上だ。

 理由は簡単、浪人したのだ。

 高校卒業と共に留学したものの、不合格。

 翌年の入試でやっと合格したのだ。

 その空白の一年間、俺に声をかけてくれた人にチェロを教わった。

 後々知ったがその人は父の師匠だった。

 通りで日本語が上手いものだ。

 彼は色々な国を転々としているようで、その頃イギリスにいた。

 たまたま俺が入試を受けた日に大学に来ていたらしく、俺を見て父を思い出したらしい。

 会って話すまで息子だなんて思わなかったらしいが。
 
 彼のお陰で一年でかなり上達した。

 翌年俺は大学に合格した。

「こっちで何するんだ?」
「教授に声をかけてもらったから、大学に残ることにしたわ。」

 元々教授は残って欲しいって言ってたしね、と呆れ顔を見せた。

 相当だったようだ。