結果的にキウイを食ったことはバレ、ガッツリ罪をなすりつけられた。

「バツとして三時間チェロに触ってきなさい。」

(バツか?それ…)

 なんて思ったが、心に秘めておこう。

 案外楽、なんて思った自分が馬鹿だった。

 同じ曲を三時間も弾いてると流石に飽きてくる。

 休憩といっても弾かないという選択肢しかなかった。

「ふぅ…」
「お疲れ様、朝日。もう終わりよ。」
「夜空…お前なぁ…」

 怒る気にはならなかった。

「ごめんなさいね、ふふ。」
「全く悪気はなさそうだな。」
「えぇ。」

 怒る気にならなかったのは、理由がある。

 俺が練習してる間、フルートの音が絶え間なく聞こえてきたから。

 誰でもない、夜空の音が。

 それを隠しているつもりなのだろう。

 あたかも「何もしていなかった」かのように。

「はは…!」
「?何笑っているの?弾きすぎておかしくなったのかしら?」

 不思議そうな顔をしている。

 なんでもねぇ、と誤魔化すと、彼女は首をかしげた。

「あ、そうそう、おやつ持ってきたのよ。」
「ん?」
「お団子なのだけれど、食べる?」
「あぁ、食う。」

 あんことみたらしの団子、彼女の好物だ。

「…うま。」
「そうなのよね、美味しいのよ。ハムッ…ん〜〜〜!」

 いつもはカッチカチの表情筋も、このときはほころぶ。

 桃色の頬がプクっと膨れる。

 そっと突いてみた。

「ん!はにふうのお(なにするのよ)!」
「こら、喋るな。…ふっ!」
「笑わないで、もう。」

 たったこの会話だけなのに疲れが吹き飛んだ。

 それに今思えば、同じ曲を三時間も弾いていれば勝手に手が動くようにまでなる。

 それを狙ってたのかもな。