「……ひ!…さひ!朝日!」
「…はっ!はぁはぁ…よ、ぞら…?」
「大丈夫?かなり魘されていたわよ?」

 冷や汗か、寝衣はグチャグチャだった。

 息も切れていて、俺がそれを物語った。

「あ…あぁ、うん、大丈夫だ。」
「そうゆうときって、大丈夫じゃないのよ?」
「…っ、」

 時計の針は4時を指している。

 もう、寝れそうにもない。

「兄貴が…夢に、出てきて…『諦めろ』って、言ってきたんだ。」

 自然と思い出される夢の記憶。

 外は雨が降っていた。

 あれほど顔の暗い兄は初めてだった。

 いつも爽やかで明るく笑っていた夕日。

 俺が辛いときはひたすら慰めてくれて、俺が嬉しいときは一緒に喜んでくれた。

「兄貴はそんな事言わない…!そんなの、分かってるのに……怖くて…」

 誰にも否定されなかったから、怖いのだ。

「はぁ…すまねぇ…俺、ダサッ…」

 悪夢を怖がっている。

 彼女の前で顔をびしょびしょにする自分が格好悪くて仕方ない。

 のに……

「なんでダサいなんて言うのよ。」

 やっぱり馬鹿ね、と罵られた。

「怖い夢は誰でも見るし、それで泣いたっていいのよ。怖かったでしょう?もう大丈夫よ。」

 なんだか、子供心がくすぐられて変な気持ちだ。

 抱きしめてくれる夜空に身を任せてみた。

「それに、お義兄さんはそんな事言わないわ。朝日を応援するはずよ。」
「なんで…」

 私夕日さんに会ったことがあるの、と言った。

「え…えぇ!」
「最近私も知ったから、言ってないも当然ね。」

 それは夜空がまだ小学2年生のときだそうだ。

 ウィーンの音楽祭でのこと。

(お父さんと逸れちゃった…また、怒られるかも…)

 あまりの人の波に元父と逸れてしまった夜空。

 いくら探そうと見つからなかったそう。

『?どうしたの?もしかして逸れちゃった?』

 そんなときに助けてくれたのが、夕日だという。

 強い警戒心故話すことはしなかったそうだが、手を繋いで一緒に探してくれた、と言った。

「夕日さんの写真を見たときはほんとに驚いたわ。まさかお義兄さんだなんて。」

 だから言った、兄はそんな事言わない、と。