もう見慣れたが、相変わらず布団がこんもりしている。

「夜空?起きてるか?」
「ふふ、起きてるわよ。」
「だよな。」

 温かい布団の中にいたからだろう、顔がほんのり赤く理性を擽る。

「ねぇ、」
「ん?なんだ?」
「噛み跡、痛いんだけど?」
「す、すまん…」

 勢い的なものもあったし、申し訳ない。

 でもあれは彼女が悪い。

 何を言おうとあれはダメだ。

「まぁ、あれ選んだお母さんが一番悪いわね。断じて私じゃないわ。」
「まあそうだろうな。でも、よく似合ってたよ、ほんと。」
「あら、ありがとう。」

 着てよかった、と安心した顔をした。

 部屋着の下から噛み跡がのぞく。

 ゾクッと独占欲が疼く。

「なんだか楽しそうね。」
「実際楽しかったからな。」
「そう。」

 ゴツッと頭突きされても然程(さほど)痛くない。

 最近ホントに「可愛い」としか思わなくなってしまった。

 親バカならぬ彼氏バカだな。

「あ〜さ〜ひ〜!」
「ん?なんだ?」
「朝日は…私が死んでしまったら泣いてくれるかしら?」

 何縁起のないことを、と言ったものの、何も反応はなかった。

 彼女は本気だ。

「今日ハロウィンだったでしょう?ハロウィンって死者を祀るお祭りなんですって。」

 日本で言うお盆だ。

 先祖の霊をこの世に迎えるとともに悪霊を追い払う意味合いがあるらしい。

「なんとなくだけれど、朝日はきっと私より長生きするでしょう?」
「それは…」
「私がお婆さんになって、この世から去るとき。泣いてくれる?」
「どうしてくれたら、嬉しい?」

 なんとも縁起悪いが、彼女の言葉に納得した自分がいたのだ。

「そうね…泣いてくれてもいいけれど、それよりも笑ってほしいわ。」
「なら、望み通りにしてやるよ。でも、あくまでお婆ちゃんまでは生きてくれ。じゃないと泣くぞ。」
「ふふ、そうね。私だって朝日といたいもの。長生きしてやるわ。」

 楽しそうな彼女を見て、ふと一年前を思い出した。

 彼女の死を期にループする生活をしていた。

 彼女の絶望した顔を何度も見てきた。

 もうあんな顔させない。

「もう寝ようぜ。一時過ぎた。」
「そうなの?まだ全然眠くないのに。」
「ウソつけ、ウトウトしてんぞ。」

 うつらうつらして、瞼が下がってきている。

「おやすみ、夜空。いい夢見ろよな。」
「おや…す…み…なさ…い…」

 額に触れるだけの口づけをした。