準決勝があって少し、決勝が始まった。

 薫子は2連覇を、夜空は中3ぶりの全国優勝をかけた戦いだ。

 どちらの矢も外すことを知らない。

 スパッという的に当たる音に幾度もドキッとしてしまう。

 両者譲ることなく30射が終わった。

 そのまた20射が終わっても夜空は平然としていた。

 薫子をそっちのけで。

 60射超えてすぐだったか、薫子が外した。
 
 射ってすぐ目を大きくしたのを、俺は見逃さなかった。

 これを的中させれば夜空は優勝、外せばもう1回。

 彼女の表情が凍る。

 ただ、一瞬目を閉じると弓を持ち矢を刺した。

 コップの氷が完全に融ける。

 (つる)を強くゆっくり引き、会を作る。

 狙いを定めて、手を離した。

 俺にはそれがスローモーションに見えた。

 矢が飛んでいく先には的、ど真ん中にスっと入ったのが見えた。

 スパッと的に当たる音と弦のキーンと震える音ではっと息を吸う。

 微かに弓が揺れているのも見てる。

 ハァハァという息遣いに、呼吸を止めていたことを知った。

「…あた……った?」
「…!うん…うん!当たった、当たったよ!夜空が優勝だぁ!」
「あ、あぁ…!良かったぁ…!良かったぁ…」

 足の力が抜けたのか、上手く立てない。

 結果の放送があるのに、全然聞こえなかった。

 とにかく嬉しくて…

 薫子は焦りの色が隠せてなかった。