―いよいよか。
転校生、と教師から告げられた前口上に教室内が分かり易くざわめいた。
扉越しに聞こえた低く静かな声色は、声変りを全て終えた男子のもの。主に女子の視線が集う中、スライド式の扉がやけに勿体ぶるようゆっくりと開かれる。
「おし。んじゃこの教壇のとこまで来い。そんで一言、挨拶な」
「分かりました」
たん、たんと。静かな足音が喧騒を割くようにして室内に足を踏み入れる。
まず目に付いたのはこの学校の制服ではない真っ黒な学ラン。急遽転校が決まったためか、凪沙たちの身に着けているブレザーの用意が間に合わなかったらしい。
きっちりと詰襟をとじた姿は模範的な優等生を想起させた。しゃんと伸びた背筋も相まって、元来高いのであろう身長が数割増しで高く見える。
その長身に見合った長い足がゆったりとした足取りで教壇を目指し、正面を向いた。
「京都の伏見から引っ越してきました。一条伊織と言います。転勤の都合でこっちに来たので、この機会に皆さんと仲良くできればって思います。どうぞよろしく」
にっこりと切れ長な目が細められて、緩やかに弧を描いた唇が微笑みを浮かべる。控えめなお辞儀の拍子に艶やかな黒髪が流れ落ち、それを指で掬って耳にかけるまでの仕草が嫌味な程に様になって見えた。
―ああなるほど。こりゃ確かにもえちゃんがロックオンするはずの美形だわ。
凪沙は転校生から目を逸らし、欠伸交じりの表情で窓の外を眺めてそんなことを思った。
彼の登壇から一気に教室内の女子が浮足立っている。もちろん萌果も例外ではなく、くるくるとヘアアイロンで丁寧に巻かれた髪の毛先を弄りながら小首を傾げて教壇を見つめていた。
「うし、つーわけで。今日から一条はこのクラスの一員な。色々聞きてぇ事も有るだろうが、それはまあ追々個人でやってくれ。んで一条、取り合えずお前の席はあそこ、一番後ろの窓際から二番目。ハーフアップの女と短髪男の間な」
「はい」
教師がそう言うや否や、教室中の視線がいっきに指名された空席へと向いた。それに巻き添えを食らうかのように、主に女子から羨望雑じりの厳しめな眼差しがハーフアップの女、つまりは凪沙に突き刺さる。
転校生、と教師から告げられた前口上に教室内が分かり易くざわめいた。
扉越しに聞こえた低く静かな声色は、声変りを全て終えた男子のもの。主に女子の視線が集う中、スライド式の扉がやけに勿体ぶるようゆっくりと開かれる。
「おし。んじゃこの教壇のとこまで来い。そんで一言、挨拶な」
「分かりました」
たん、たんと。静かな足音が喧騒を割くようにして室内に足を踏み入れる。
まず目に付いたのはこの学校の制服ではない真っ黒な学ラン。急遽転校が決まったためか、凪沙たちの身に着けているブレザーの用意が間に合わなかったらしい。
きっちりと詰襟をとじた姿は模範的な優等生を想起させた。しゃんと伸びた背筋も相まって、元来高いのであろう身長が数割増しで高く見える。
その長身に見合った長い足がゆったりとした足取りで教壇を目指し、正面を向いた。
「京都の伏見から引っ越してきました。一条伊織と言います。転勤の都合でこっちに来たので、この機会に皆さんと仲良くできればって思います。どうぞよろしく」
にっこりと切れ長な目が細められて、緩やかに弧を描いた唇が微笑みを浮かべる。控えめなお辞儀の拍子に艶やかな黒髪が流れ落ち、それを指で掬って耳にかけるまでの仕草が嫌味な程に様になって見えた。
―ああなるほど。こりゃ確かにもえちゃんがロックオンするはずの美形だわ。
凪沙は転校生から目を逸らし、欠伸交じりの表情で窓の外を眺めてそんなことを思った。
彼の登壇から一気に教室内の女子が浮足立っている。もちろん萌果も例外ではなく、くるくるとヘアアイロンで丁寧に巻かれた髪の毛先を弄りながら小首を傾げて教壇を見つめていた。
「うし、つーわけで。今日から一条はこのクラスの一員な。色々聞きてぇ事も有るだろうが、それはまあ追々個人でやってくれ。んで一条、取り合えずお前の席はあそこ、一番後ろの窓際から二番目。ハーフアップの女と短髪男の間な」
「はい」
教師がそう言うや否や、教室中の視線がいっきに指名された空席へと向いた。それに巻き添えを食らうかのように、主に女子から羨望雑じりの厳しめな眼差しがハーフアップの女、つまりは凪沙に突き刺さる。