目が覚めたとき、近くにカインがいた。
「大丈夫か?」
カインはセレスの顔を覗き込んで言った。顔をめぐらせるとそこは自分の部屋だということが分かった。
「次から次へと災難続きだな」
カインはつぶやくように言った。
「もっとも、ケイナも昔はこんな感じだったけれど」
「おえ、どのくやい寝て…… あち……」
どのくらい寝ていたのか?と聞こうとして、セレスは顎に走った鋭い痛みに顔をしかめた。
どうも固定されているらしくうまく動かない。手は動くようだが両手首とも燃えるように熱かった。
「8時間くらいかな。まだ夜中だ。しゃべらないほうがいいよ。顎の骨が折れてたんだ。喉は乾いてないか?」
カインの言葉にセレスはゆっくりかぶりを振った。
「ケエナ…… は?」
セレスが尋ねると、カインはちょっと目を伏せてそれから答えた。
「鎮静剤を飲ませて眠らせた」
セレスの怪訝な表情を見てカインは少し肩をすくめた。
「ケイナにはアシュアがずっとついてる。どうもまだ気持ちがおさまらないらしくて…… もしものことがあったとき、力でケイナに対抗できるのはあいつしかいないから」
セレスはカインから目をそらせた。もう大丈夫だと思ったのに……。
「奴らは全員除籍処分になった。 ……ケイナを昔襲った残党がいることは分かっていたが、これで全員いなくなった。もう二度とこんなことはないよ。安心するといい」
(安心?)
セレスは心の中でつぶやいた。
本当に安心できるんだろうか。だって、バッガスがいるじゃないか……。
ユージー……
セレスは目を閉じた。
彼がおれを襲うように指示をしたんだろうか……。
訓練のあと、『自分を大切にしろよ』と彼は言った。あれはこのことを示唆していたのか?
セレスには分からなかった。
「そう…… ら……」
セレスはカインを見た。
「おして…… たすけ…… 来…… くえ…… た?」
(どうして助けに来てくれた?)
カインは少し眉を吊り上げた。
「見え?」
セレスの言葉にカインは首を振った。
「悪いけど…… 今回はぼくは見えなかった。きみのことが見えたのはケイナだ」
セレスは呆然としてカインの顔を見つめた。カインはゆっくりとセレスのベッド脇の椅子に腰掛けた。
「『点』をひっつかんでケイナが血相変えて走っていた。そのときにやっとぼくにもケイナが感じたものが『見え』た」
「ど…… して……?」
「なんでケイナが見えたのかなんて…… そんなことはぼくには分からない。こっちが聞きたいくらいだ」
セレスはカインから目をそらせた。
そのとき、部屋のドアが開く音がした。ふたりが目を向けるとアシュアが立っていた。
「目が覚めてたのか」
アシュアはセレスと目を合ってと笑みを見せた。
「ケイナは?」
カインが尋ねる。
「鎮静剤が覚めた。今シャワーを浴びてる。落ち着いてるよ」
「そうか……」
アシュアは笑みを浮かべたままセレスのベッドに歩み寄った。
「気分はどうだ?」
「ダイジョ…… う」
セレスは答えた。
「ケイナのやつ目が覚めたらまっ先におまえの心配してた。一週間は安静だって言ったら悲痛な顔してたぜ」
「イ、しゅ…… カ……?」
セレスはびっくりした。アシュアは肩をすくめた。
「残念だけどね。馬鹿野郎が思いっきりおまえの華奢な顎を蹴り倒したらしい。心配すんな。千倍返しにしといたから」
アシュアのおどけた言葉にセレスは思わず笑みを浮かべ、再び走った痛みに顔をしかめた。
「嫌な思いをしたな。あまり考えずに早く復帰することに専念しろよ」
「アシュ…… ヤク…… ソク…… ゴエン……」
(アシュア、約束、ごめん)
アシュアは少し悲しげな顔をした。
「おれたちも悪かったんだよ。おまえが射撃室を出るまではそばにいたんだ」
「アシュ…… せい…… ちが……」
セレスの言葉にカインは目を伏せた。
「そうだ。ケイナのときもそうだった……。ぼくらはほんの数分前までそばにいたのに……」
「や……」
セレスは懇願するような視線をふたりに向けた。
「おえ…… もと…… つよ、なうから…… い…… な……」
(おれ、もっと強くなるから、そんなこと言うな)
カインはいたたまれないような表情で目をそらせると立ち上がった。
「ケイナの様子を見て来る」
彼はセレスに背を向けた。それを見てアシュアは慌ててセレスに言った。
「朝までゆっくり寝てろ。また来るから。あ、それとクレイ指揮官、今回は連絡がつかなかったらしい。おまえ、心配かけっぱなしだからちゃんと自分で連絡とれよ」
セレスはうなずいた。アシュアはカインのあとを追って部屋を急いで出た。
セレスの部屋を出てから、アシュアはそのままケイナの部屋に向かおうとするカインの腕を掴んだ。
「なに?」
カインは怪訝な顔をしてアシュアを見た。
「ケイナがどうも動揺してるみたいなんだ」
アシュアは言った。
「さっきは落ち着いてるって言ってたじゃないか……」
カインは目を細めた。
「セレスの手前そう言ったんだよ。いや、別に暴走してるとかそんなんじゃねえんだ。ただ……」
アシュアは口を引き結び、そして思いきったように口を開いた。
「もう、終わりにしたいと言ってる」
「終わりにって…… 何を」
カインは不安が押し寄せるのを感じた。
「何を終わりにするんだ」
「『ライン』を中途終了して、ホライズンに行ったほうがいいって言うんだよ」
アシュアは不機嫌そうに答えた。
「ぼくにそう報告しろって?」
カインは言った。アシュアは口をへの字にしたままだ。
カインはしばらく無言でアシュアを見つめた。じわじわと怒りがこみあげてきた。
「冗談じゃない」
カインはくるりとアシュアに背を向け歩き始めた。
「ぼくらの任務はトウからの命令であって、ケイナの指示じゃない」
苛立たしそうに言うカインをアシュアは追った。
「カイン、そういうんじゃ……」
カインはくるりと振り向くとアシュアの胸ぐらを掴んだ。
「ぼくらの任務は、ケイナの命令を聞くことじゃない!」
カインの顔は怒りに満ちていた。
「分かったか!」
彼は乱暴にアシュアから手を放すと、ケイナの部屋のドアをあけた。
ケイナはベッドの上に座ってコーヒーをすすっていた。たぶんアシュアが運んで来たのだろう。
「鎮静剤をもっと投与していればよかったな!」
カインはつかつかとケイナに歩み寄った。ケイナはじろりとカインを見た。
「朝まで寝てれば頭も冷えただろう!」
カインは鋭い口調で言った。ケイナを見下ろす目が険しい。
ケイナはしばらくカインを見つめていたが、コーヒーに目を落すと肩をすくめた。
「自分でレジーに言うよ」
カインは怒りをどこにぶつければいいのか分からず、そばにあった椅子を蹴った。椅子は大きな音をたててひっくり返った。
「カイン、落ち着け」
アシュアは見かねて言った。そしてケイナに目を向けた。
「ケイナ、できもしないことを言って周りに当たるんじゃねえよ」
アシュアのたしなめるような口調にケイナは眉をひそめた。
「おまえがカート司令官にそんなこと言えないってのは、おれたちだって分かるんだ」
アシュアは肩で息をしているカインをちらりと見て、再びケイナを見た。
「今『ライン』をやめて、セレスにどう説明するつもりだよ。あいつは絶対納得しないぞ」
「もうあいつを盾にして自分を守りたくないんだよ!」
いきな怒鳴り返したケイナにカインとアシュアはぎょっとした。
「やっとわかったんだ」
ケイナは険しい顔つきで手に持ったカップを握り締めていた。その手が小刻みに震えていた。
「前にジェニファが言った。あいつはおれの剣になり、盾になるために存在するんだと……。そのときは何のことかさっぱり分からなかった。だけど…… 今はなんとなく分かる」
ケイナの声はかすかに震えていた。
「もし、危険な目に遭うことが最初っから分かっていたら、人間はどうすると思う?」
自分を無言で見つめているカインとアシュアにケイナは言い募った。
「できるだけ充分な防具と必要な武器を身につけようとするだろ」
ケイナはいまいましげに持っていたカップを床に叩きつけた。
青い絨毯の上でカップは割れこそしなかったが、中のコーヒーは当たり一面に散らばって茶色いシミを広げた。
「敵が来たら自分の身を傷つけまいと、盾をさしだすだろ!」
彼はかぶりを振った。
「おれはセレスを利用している。セレスだけじゃない。おまえたちもだ! おれは自分の代わりに傷つけようとして人をそばに置いているだけなんだ!」
「ばかなことを言うな」
アシュアは言った。
「そりゃ、おれは最近セレスのことをあいつらが狙ってるって言ったけど、それはあいつらがやってることで、おまえがあいつらをしむけてるわけじゃないだろう」
「ケイナ…… 何をした?」
ふいにカインが言ったので、アシュアはどきりとしてカインの顔を見た。
カインの目は恐れを含んでいた。
「ケイナ…… きみは何をしたんだ?」
「カイン、なに言ってんだ、やめろ」
アシュアは慌ててカインに言った。
「ケイナが何かするわけないだろ」
「じゃあ、どうしてぼくの目にはユージーの姿が見えないんだ!」
カインは小さく怒鳴り返し、そしてケイナに向き直った。
ケイナは小刻みに体を震わせながらカインを見つめていた。
いつものケイナじゃない。
違う。目が違う。
アシュアはカインに警告しようとしたが、それよりも早くカインはケイナに近づくなり彼の腕を掴んでいた。
「どうして気づかなかったんだろう。セレスが立続けに災難に遭ってる。だのにきみは無傷だ」
「カイン、やめろ!」
アシュアは叫んだが間に合わなかった。
とてつもない衝撃のあと、カインは視界が暗くなるのを覚えた。
「大丈夫か?」
カインはセレスの顔を覗き込んで言った。顔をめぐらせるとそこは自分の部屋だということが分かった。
「次から次へと災難続きだな」
カインはつぶやくように言った。
「もっとも、ケイナも昔はこんな感じだったけれど」
「おえ、どのくやい寝て…… あち……」
どのくらい寝ていたのか?と聞こうとして、セレスは顎に走った鋭い痛みに顔をしかめた。
どうも固定されているらしくうまく動かない。手は動くようだが両手首とも燃えるように熱かった。
「8時間くらいかな。まだ夜中だ。しゃべらないほうがいいよ。顎の骨が折れてたんだ。喉は乾いてないか?」
カインの言葉にセレスはゆっくりかぶりを振った。
「ケエナ…… は?」
セレスが尋ねると、カインはちょっと目を伏せてそれから答えた。
「鎮静剤を飲ませて眠らせた」
セレスの怪訝な表情を見てカインは少し肩をすくめた。
「ケイナにはアシュアがずっとついてる。どうもまだ気持ちがおさまらないらしくて…… もしものことがあったとき、力でケイナに対抗できるのはあいつしかいないから」
セレスはカインから目をそらせた。もう大丈夫だと思ったのに……。
「奴らは全員除籍処分になった。 ……ケイナを昔襲った残党がいることは分かっていたが、これで全員いなくなった。もう二度とこんなことはないよ。安心するといい」
(安心?)
セレスは心の中でつぶやいた。
本当に安心できるんだろうか。だって、バッガスがいるじゃないか……。
ユージー……
セレスは目を閉じた。
彼がおれを襲うように指示をしたんだろうか……。
訓練のあと、『自分を大切にしろよ』と彼は言った。あれはこのことを示唆していたのか?
セレスには分からなかった。
「そう…… ら……」
セレスはカインを見た。
「おして…… たすけ…… 来…… くえ…… た?」
(どうして助けに来てくれた?)
カインは少し眉を吊り上げた。
「見え?」
セレスの言葉にカインは首を振った。
「悪いけど…… 今回はぼくは見えなかった。きみのことが見えたのはケイナだ」
セレスは呆然としてカインの顔を見つめた。カインはゆっくりとセレスのベッド脇の椅子に腰掛けた。
「『点』をひっつかんでケイナが血相変えて走っていた。そのときにやっとぼくにもケイナが感じたものが『見え』た」
「ど…… して……?」
「なんでケイナが見えたのかなんて…… そんなことはぼくには分からない。こっちが聞きたいくらいだ」
セレスはカインから目をそらせた。
そのとき、部屋のドアが開く音がした。ふたりが目を向けるとアシュアが立っていた。
「目が覚めてたのか」
アシュアはセレスと目を合ってと笑みを見せた。
「ケイナは?」
カインが尋ねる。
「鎮静剤が覚めた。今シャワーを浴びてる。落ち着いてるよ」
「そうか……」
アシュアは笑みを浮かべたままセレスのベッドに歩み寄った。
「気分はどうだ?」
「ダイジョ…… う」
セレスは答えた。
「ケイナのやつ目が覚めたらまっ先におまえの心配してた。一週間は安静だって言ったら悲痛な顔してたぜ」
「イ、しゅ…… カ……?」
セレスはびっくりした。アシュアは肩をすくめた。
「残念だけどね。馬鹿野郎が思いっきりおまえの華奢な顎を蹴り倒したらしい。心配すんな。千倍返しにしといたから」
アシュアのおどけた言葉にセレスは思わず笑みを浮かべ、再び走った痛みに顔をしかめた。
「嫌な思いをしたな。あまり考えずに早く復帰することに専念しろよ」
「アシュ…… ヤク…… ソク…… ゴエン……」
(アシュア、約束、ごめん)
アシュアは少し悲しげな顔をした。
「おれたちも悪かったんだよ。おまえが射撃室を出るまではそばにいたんだ」
「アシュ…… せい…… ちが……」
セレスの言葉にカインは目を伏せた。
「そうだ。ケイナのときもそうだった……。ぼくらはほんの数分前までそばにいたのに……」
「や……」
セレスは懇願するような視線をふたりに向けた。
「おえ…… もと…… つよ、なうから…… い…… な……」
(おれ、もっと強くなるから、そんなこと言うな)
カインはいたたまれないような表情で目をそらせると立ち上がった。
「ケイナの様子を見て来る」
彼はセレスに背を向けた。それを見てアシュアは慌ててセレスに言った。
「朝までゆっくり寝てろ。また来るから。あ、それとクレイ指揮官、今回は連絡がつかなかったらしい。おまえ、心配かけっぱなしだからちゃんと自分で連絡とれよ」
セレスはうなずいた。アシュアはカインのあとを追って部屋を急いで出た。
セレスの部屋を出てから、アシュアはそのままケイナの部屋に向かおうとするカインの腕を掴んだ。
「なに?」
カインは怪訝な顔をしてアシュアを見た。
「ケイナがどうも動揺してるみたいなんだ」
アシュアは言った。
「さっきは落ち着いてるって言ってたじゃないか……」
カインは目を細めた。
「セレスの手前そう言ったんだよ。いや、別に暴走してるとかそんなんじゃねえんだ。ただ……」
アシュアは口を引き結び、そして思いきったように口を開いた。
「もう、終わりにしたいと言ってる」
「終わりにって…… 何を」
カインは不安が押し寄せるのを感じた。
「何を終わりにするんだ」
「『ライン』を中途終了して、ホライズンに行ったほうがいいって言うんだよ」
アシュアは不機嫌そうに答えた。
「ぼくにそう報告しろって?」
カインは言った。アシュアは口をへの字にしたままだ。
カインはしばらく無言でアシュアを見つめた。じわじわと怒りがこみあげてきた。
「冗談じゃない」
カインはくるりとアシュアに背を向け歩き始めた。
「ぼくらの任務はトウからの命令であって、ケイナの指示じゃない」
苛立たしそうに言うカインをアシュアは追った。
「カイン、そういうんじゃ……」
カインはくるりと振り向くとアシュアの胸ぐらを掴んだ。
「ぼくらの任務は、ケイナの命令を聞くことじゃない!」
カインの顔は怒りに満ちていた。
「分かったか!」
彼は乱暴にアシュアから手を放すと、ケイナの部屋のドアをあけた。
ケイナはベッドの上に座ってコーヒーをすすっていた。たぶんアシュアが運んで来たのだろう。
「鎮静剤をもっと投与していればよかったな!」
カインはつかつかとケイナに歩み寄った。ケイナはじろりとカインを見た。
「朝まで寝てれば頭も冷えただろう!」
カインは鋭い口調で言った。ケイナを見下ろす目が険しい。
ケイナはしばらくカインを見つめていたが、コーヒーに目を落すと肩をすくめた。
「自分でレジーに言うよ」
カインは怒りをどこにぶつければいいのか分からず、そばにあった椅子を蹴った。椅子は大きな音をたててひっくり返った。
「カイン、落ち着け」
アシュアは見かねて言った。そしてケイナに目を向けた。
「ケイナ、できもしないことを言って周りに当たるんじゃねえよ」
アシュアのたしなめるような口調にケイナは眉をひそめた。
「おまえがカート司令官にそんなこと言えないってのは、おれたちだって分かるんだ」
アシュアは肩で息をしているカインをちらりと見て、再びケイナを見た。
「今『ライン』をやめて、セレスにどう説明するつもりだよ。あいつは絶対納得しないぞ」
「もうあいつを盾にして自分を守りたくないんだよ!」
いきな怒鳴り返したケイナにカインとアシュアはぎょっとした。
「やっとわかったんだ」
ケイナは険しい顔つきで手に持ったカップを握り締めていた。その手が小刻みに震えていた。
「前にジェニファが言った。あいつはおれの剣になり、盾になるために存在するんだと……。そのときは何のことかさっぱり分からなかった。だけど…… 今はなんとなく分かる」
ケイナの声はかすかに震えていた。
「もし、危険な目に遭うことが最初っから分かっていたら、人間はどうすると思う?」
自分を無言で見つめているカインとアシュアにケイナは言い募った。
「できるだけ充分な防具と必要な武器を身につけようとするだろ」
ケイナはいまいましげに持っていたカップを床に叩きつけた。
青い絨毯の上でカップは割れこそしなかったが、中のコーヒーは当たり一面に散らばって茶色いシミを広げた。
「敵が来たら自分の身を傷つけまいと、盾をさしだすだろ!」
彼はかぶりを振った。
「おれはセレスを利用している。セレスだけじゃない。おまえたちもだ! おれは自分の代わりに傷つけようとして人をそばに置いているだけなんだ!」
「ばかなことを言うな」
アシュアは言った。
「そりゃ、おれは最近セレスのことをあいつらが狙ってるって言ったけど、それはあいつらがやってることで、おまえがあいつらをしむけてるわけじゃないだろう」
「ケイナ…… 何をした?」
ふいにカインが言ったので、アシュアはどきりとしてカインの顔を見た。
カインの目は恐れを含んでいた。
「ケイナ…… きみは何をしたんだ?」
「カイン、なに言ってんだ、やめろ」
アシュアは慌ててカインに言った。
「ケイナが何かするわけないだろ」
「じゃあ、どうしてぼくの目にはユージーの姿が見えないんだ!」
カインは小さく怒鳴り返し、そしてケイナに向き直った。
ケイナは小刻みに体を震わせながらカインを見つめていた。
いつものケイナじゃない。
違う。目が違う。
アシュアはカインに警告しようとしたが、それよりも早くカインはケイナに近づくなり彼の腕を掴んでいた。
「どうして気づかなかったんだろう。セレスが立続けに災難に遭ってる。だのにきみは無傷だ」
「カイン、やめろ!」
アシュアは叫んだが間に合わなかった。
とてつもない衝撃のあと、カインは視界が暗くなるのを覚えた。