ケイナはジェニファの言ったことが頭から離れずにいたが、『ライン』の日々のケイナに課せられた日常は変わることはなかったし、逃れることもできなかった。
セレスは日を追うごとに妙な恐ろしさを感じるほどのスピードで訓練のレベルがあがっていき、その速さはケイナが見ていても少し無気味さを感じるほどだった。
彼は一ヶ月後の進級試験はおろか、飛び級試験も目をつぶっていたって合格してしまうだろう。
ジェイク・ブロードは嬉々としてセレスの指導をしているに違いない。
セレスはハイラインにあがってくる。
それはセレス自身の望みでもあったし、内心ケイナも待っていることだった。
ケイナは自分でもセレスがそばにいると安心できることに気づいていた。
だが、そのセレスへの思い入れをできるだけ外に出すまいと努力した。
特に今はルームリーダーになっている。トニやジュディの目もある。
しかし、そうした人間関係にことのほか敏感なジュディの目はごまかせなかったようだ。
それはある日アシュアが口にした言葉で気づいた。
「バッガスたちが…… 時々セレスの様子を伺ってるみたいだぜ」
アシュアはベンチプレスの重りを置くと、起き上がって言った。
「セレスの周りをバッガスのグループの奴が妙にちょろちょろしてるんだ。なんでセレスのカリキュラムを知ってるんだか……」
ケイナは顔の汗を拭おうとしていた手を止めた。
「おれたちと休暇を一緒に過ごしたってことはバレちまってるからな。いつかはセレスもマークされるだろうと思ってたが、まさか新人の時期からとはね」
アシュアはごしごしとタオルで顔を拭いた。
知られるはずもないセレスのカリキュラムを把握できるなど、誰かがセレスのカリキュラム表を渡したとしか思えない。それができるのはセレスと全く同じカリキュラムのジュディとトリルだけだ。ふたりのうちどちらかが、と考えるとジュディのほうが怪しいのは考えるまでもなかった。
「おまえどうするんだ? もうすぐあの部屋を出るんだろう」
「分かってる」
ケイナはつっけんどんに答えた。
「数カ月耐えてくれれば、それでいい。ハイラインに来ればあとはおれが守る」
「じゃあそのあとは?」
アシュアは言った。
「おまえはいなくなるんだぞ?」
ケイナはそれを聞いて苛立たしそうな表情を浮かべた。
向こうでローイングマシンを使っていたハイライン生が怪訝な目を向けたが、すぐに知らん顔でトレーニングに戻った。
アシュアは苛立たし気に髪をかきあげるケイナをじっと見つめた。
「なあ、ケイナ」
アシュアはゆっくりと言った。
「おれはセレスのことが気にいってんだ。見ててなんだか危なっかしいが、おまえにとことん惚れぬいて一生懸命おまえに追いつこうとしてるところがけなげだよな。あそこまで人を信じれるってのはすごいと思うよ」
ケイナは黙ってアシュアから顔を背けた。
「そんなあいつにおまえもどんどん心を動かされてるのも良く分かるよ。だけど、なんか最近おかしかねぇか?」
「おかしいって何が」
ケイナはじろりとアシュアを見た。
「気づかねえよかよ…… あいつらが全然おまえにちょっかいかけなくなってるじゃないか」
ケイナの顔がさらに険しくなった。
気づいていないわけではなかった。
休暇の前には一度クラバスに喧嘩をふっかけられていた。バッガスとよく一緒にいるやつだ。
あのとき、ダイニングの割れた食器で手を切った。休暇の時に眠り込んだケイナの手にセレスが見つけた切り傷はそのときのものだ。
なんだかんだと小さい傷を作ったりちょっとした諍いはいつも数日おきにあった。
それが休暇から戻ったとたんにぱったりとなくなった。
関心が全部セレスに行ってるのか? まさか。
ケイナは口を引き結んだ。
そのとき、慌ただしい足音とともにセレスが駆け込んできた。
アシュアもケイナも驚いて目を丸くした。よりにもよって噂をしていた奴がやってくるとは思わなかったのだ。
「ケイナ!」
セレスの顔は上気して輝いていた。
「アシュアもいたの! 良かった! 探したんだ!」
「どうしたんだ」
ケイナはぶっきらぼうに言ったが、セレスを見る時だけ彼の視線が少し柔らかくなることにアシュアは気づいていた。たぶん本人は全く分かっていないだろう。
「ニュースだよ! おれ、一ヶ月後の進級試験の時に飛び級試験を一緒に受けさせてもらえることになったんだ!」
「え?」
ケイナとアシュアが同時に声をあげた。
「別におれが初めてなわけじゃないんだよ。兄さんが昔それを受けてるんだ。兄さんはそのときはだめだったみたいだけど前例があるからやってみないかってブロード教官に言われたんだ」
セレスはケイナとアシュアを交互に見ながら言った。
「おまえ、この数か月間でロウラインの二年を飛び越えて一気にハイラインにあがるのか?」
アシュアが呆然として言った。
「試験に合格すればの話だよ。でも、おれ、やってみせるからな」
「無理だ……」
ケイナは言った。
「おまえ、まだ腰がふらつくじゃないか…… 連弾射撃もパーフェクトじゃないのに……」
「一ヶ月あればなんとかなるよ。あつっ……」
セレスはそこで少し顔をしかめて左足を床から持ち上げた。
「どうしたんだ」
アシュアが目を細めた。
「なんでもない。ブーツん中に射撃訓練の時の円盤の破片が入ってたんだ。たぶん飛んできて入り込んだんだろうけど、血が出てた」
アシュアとケイナは思わず顔を見合わせた。
「ちょっと見せろ」
ケイナが手を伸ばしたので、セレスはびっくりしたように足を引っ込めた。
「大丈夫だよ。たいしたことないんだ。一応医務室で消毒はしてもらったよ」
「分かってる。いいから、ブーツを見せろ」
ケイナが叱咤するように言ったので、セレスは渋々トレーニング用のブーツを脱いだ。
「底のかかとの脇、見てみな」
アシュアが横で言った。ケイナはブーツを取り上げるとひっくり返してかかとをひねった。
ブーツのかかとはぽろりと取れ、セレスは目を見開いた。
ケイナはとれたかかとをセレスにほうってよこした。
「何、これ……」
セレスは信じられないといったふうにそれを凝視した。
「なんとまあ、呆れるほど子供じみた悪戯をやってくれるぜ」
アシュアがため息まじりに言った。
「どういうこと……」
セレスはアシュアとケイナを交互に見た。
「自分のブーツくらい気をつけてろ。足を傷めると一番辛い」
ケイナは吐き出すように言った。
「いろいろやるんだよ。あいつらは。これじゃあどっかで足を挫くな。たぶん破片かなんかも故意に入れられたんだよ」
アシュアがにいっと笑って言った。
「いったいどこで……」
セレスはつぶやいた。
「ブーツを脱いだのはどこだ」
ケイナが尋ねるとセレスは思い起こすように視線を泳がせた。
「部屋と、シャワールーム……」
セレスはそう言ってケイナを疑わしそうに見上げた。
「部屋はケイナとトニとジュディ、シャワールームだってロウライン生しか……」
セレスはそこまで言って口をつぐんだ。
「そういうこった」
アシュアはほおづえをついて言った。
「そのどちらにもいる相手が一番クサイ奴なんだよ」
「ジュディが……?」
セレスは信じられないといった表情でつぶやいた。
「でも、ケイナがやられたおんなじ方法をジュディが知っているはずがない」
ケイナもアシュアも何も言わなかった。セレスはかぶりを振った。
「そんなはずない」
そうつぶやいたが、その声に自信はなかった。
「ロウライン生でできるっていったら、せいぜいこんな程度だろうけど、気をつけな」
アシュアの言葉にケイナは不機嫌そうに顔をそらせた。
「ブーツは直しておいてやるよ。あとで届けてやるからそれまでこれを履いてろ」
アシュアはそばにあった自分のスリッポンタイプの布靴をほうってよこした。
「ケイナ……」
セレスはケイナを見た。ケイナは顔をあげてセレスに目を向けた。
「こういうことなの? あんたがここにいる間中、少しも緊張を解かないのはこういうことだから?」
ケイナは黙ってセレスを見つめた。
「こんなもん、ガキのいたずらじゃねえか。どうってことないよ」
代わりにアシュアが答えた。
「だけど、ケイナはルームリーダーになってからはことさら緊張を強いられてるんだ。自分の周りに他人がたくさんいればいるほど、神経を尖らせてなくちゃならない。そしてひとりでいる時はそれはそれで神経を尖らせてなくちゃならない」
セレスはかすかに口をぎゅっと引き結んだ。
「命がけだよ。それがおまえにできるか?」
「よせ、アシュア」
ケイナが口を挟んだ。しかしアシュアはやめなかった。
「おまえは今ケイナやおれに守られてるんだよ。だけど、ハイラインにあがったら、おまえの周りは敵だらけだぞ。ケイナに負担をかけずに自分の身を守れるのか?」
「アシュア、やめろ」
ケイナの声が険しくなった。
「やってやるよ」
セレスはアシュアを見据えた。
「おれはケイナを守る。そう決心したんだ。ケイナのそばにいたいんだ。どれだけ敵がいたって怖くない」
セレスはそう答えると、アシュアの靴を取り上げてすたすたとトレーニングルームから出ていった。
「けなげだねえ……」
アシュアはその後ろ姿を見送って笑って言った。
「あんだけストレートに感情表現する奴もめずらしいよ。おまえを守りたいんだと。まあ、状況がいまいち実感ないのかもしれんけど。こんな程度の悪戯じゃあなあ」
アシュアはセレスのブーツを見て苦笑した。ケイナは黙ってセレスの出ていった方向を見つめた。
(命の危険があるかもしれない)
ジェニファの言葉が頭に響いた。
(させるか。そんなこと)
ケイナは思った。
セレスは日を追うごとに妙な恐ろしさを感じるほどのスピードで訓練のレベルがあがっていき、その速さはケイナが見ていても少し無気味さを感じるほどだった。
彼は一ヶ月後の進級試験はおろか、飛び級試験も目をつぶっていたって合格してしまうだろう。
ジェイク・ブロードは嬉々としてセレスの指導をしているに違いない。
セレスはハイラインにあがってくる。
それはセレス自身の望みでもあったし、内心ケイナも待っていることだった。
ケイナは自分でもセレスがそばにいると安心できることに気づいていた。
だが、そのセレスへの思い入れをできるだけ外に出すまいと努力した。
特に今はルームリーダーになっている。トニやジュディの目もある。
しかし、そうした人間関係にことのほか敏感なジュディの目はごまかせなかったようだ。
それはある日アシュアが口にした言葉で気づいた。
「バッガスたちが…… 時々セレスの様子を伺ってるみたいだぜ」
アシュアはベンチプレスの重りを置くと、起き上がって言った。
「セレスの周りをバッガスのグループの奴が妙にちょろちょろしてるんだ。なんでセレスのカリキュラムを知ってるんだか……」
ケイナは顔の汗を拭おうとしていた手を止めた。
「おれたちと休暇を一緒に過ごしたってことはバレちまってるからな。いつかはセレスもマークされるだろうと思ってたが、まさか新人の時期からとはね」
アシュアはごしごしとタオルで顔を拭いた。
知られるはずもないセレスのカリキュラムを把握できるなど、誰かがセレスのカリキュラム表を渡したとしか思えない。それができるのはセレスと全く同じカリキュラムのジュディとトリルだけだ。ふたりのうちどちらかが、と考えるとジュディのほうが怪しいのは考えるまでもなかった。
「おまえどうするんだ? もうすぐあの部屋を出るんだろう」
「分かってる」
ケイナはつっけんどんに答えた。
「数カ月耐えてくれれば、それでいい。ハイラインに来ればあとはおれが守る」
「じゃあそのあとは?」
アシュアは言った。
「おまえはいなくなるんだぞ?」
ケイナはそれを聞いて苛立たしそうな表情を浮かべた。
向こうでローイングマシンを使っていたハイライン生が怪訝な目を向けたが、すぐに知らん顔でトレーニングに戻った。
アシュアは苛立たし気に髪をかきあげるケイナをじっと見つめた。
「なあ、ケイナ」
アシュアはゆっくりと言った。
「おれはセレスのことが気にいってんだ。見ててなんだか危なっかしいが、おまえにとことん惚れぬいて一生懸命おまえに追いつこうとしてるところがけなげだよな。あそこまで人を信じれるってのはすごいと思うよ」
ケイナは黙ってアシュアから顔を背けた。
「そんなあいつにおまえもどんどん心を動かされてるのも良く分かるよ。だけど、なんか最近おかしかねぇか?」
「おかしいって何が」
ケイナはじろりとアシュアを見た。
「気づかねえよかよ…… あいつらが全然おまえにちょっかいかけなくなってるじゃないか」
ケイナの顔がさらに険しくなった。
気づいていないわけではなかった。
休暇の前には一度クラバスに喧嘩をふっかけられていた。バッガスとよく一緒にいるやつだ。
あのとき、ダイニングの割れた食器で手を切った。休暇の時に眠り込んだケイナの手にセレスが見つけた切り傷はそのときのものだ。
なんだかんだと小さい傷を作ったりちょっとした諍いはいつも数日おきにあった。
それが休暇から戻ったとたんにぱったりとなくなった。
関心が全部セレスに行ってるのか? まさか。
ケイナは口を引き結んだ。
そのとき、慌ただしい足音とともにセレスが駆け込んできた。
アシュアもケイナも驚いて目を丸くした。よりにもよって噂をしていた奴がやってくるとは思わなかったのだ。
「ケイナ!」
セレスの顔は上気して輝いていた。
「アシュアもいたの! 良かった! 探したんだ!」
「どうしたんだ」
ケイナはぶっきらぼうに言ったが、セレスを見る時だけ彼の視線が少し柔らかくなることにアシュアは気づいていた。たぶん本人は全く分かっていないだろう。
「ニュースだよ! おれ、一ヶ月後の進級試験の時に飛び級試験を一緒に受けさせてもらえることになったんだ!」
「え?」
ケイナとアシュアが同時に声をあげた。
「別におれが初めてなわけじゃないんだよ。兄さんが昔それを受けてるんだ。兄さんはそのときはだめだったみたいだけど前例があるからやってみないかってブロード教官に言われたんだ」
セレスはケイナとアシュアを交互に見ながら言った。
「おまえ、この数か月間でロウラインの二年を飛び越えて一気にハイラインにあがるのか?」
アシュアが呆然として言った。
「試験に合格すればの話だよ。でも、おれ、やってみせるからな」
「無理だ……」
ケイナは言った。
「おまえ、まだ腰がふらつくじゃないか…… 連弾射撃もパーフェクトじゃないのに……」
「一ヶ月あればなんとかなるよ。あつっ……」
セレスはそこで少し顔をしかめて左足を床から持ち上げた。
「どうしたんだ」
アシュアが目を細めた。
「なんでもない。ブーツん中に射撃訓練の時の円盤の破片が入ってたんだ。たぶん飛んできて入り込んだんだろうけど、血が出てた」
アシュアとケイナは思わず顔を見合わせた。
「ちょっと見せろ」
ケイナが手を伸ばしたので、セレスはびっくりしたように足を引っ込めた。
「大丈夫だよ。たいしたことないんだ。一応医務室で消毒はしてもらったよ」
「分かってる。いいから、ブーツを見せろ」
ケイナが叱咤するように言ったので、セレスは渋々トレーニング用のブーツを脱いだ。
「底のかかとの脇、見てみな」
アシュアが横で言った。ケイナはブーツを取り上げるとひっくり返してかかとをひねった。
ブーツのかかとはぽろりと取れ、セレスは目を見開いた。
ケイナはとれたかかとをセレスにほうってよこした。
「何、これ……」
セレスは信じられないといったふうにそれを凝視した。
「なんとまあ、呆れるほど子供じみた悪戯をやってくれるぜ」
アシュアがため息まじりに言った。
「どういうこと……」
セレスはアシュアとケイナを交互に見た。
「自分のブーツくらい気をつけてろ。足を傷めると一番辛い」
ケイナは吐き出すように言った。
「いろいろやるんだよ。あいつらは。これじゃあどっかで足を挫くな。たぶん破片かなんかも故意に入れられたんだよ」
アシュアがにいっと笑って言った。
「いったいどこで……」
セレスはつぶやいた。
「ブーツを脱いだのはどこだ」
ケイナが尋ねるとセレスは思い起こすように視線を泳がせた。
「部屋と、シャワールーム……」
セレスはそう言ってケイナを疑わしそうに見上げた。
「部屋はケイナとトニとジュディ、シャワールームだってロウライン生しか……」
セレスはそこまで言って口をつぐんだ。
「そういうこった」
アシュアはほおづえをついて言った。
「そのどちらにもいる相手が一番クサイ奴なんだよ」
「ジュディが……?」
セレスは信じられないといった表情でつぶやいた。
「でも、ケイナがやられたおんなじ方法をジュディが知っているはずがない」
ケイナもアシュアも何も言わなかった。セレスはかぶりを振った。
「そんなはずない」
そうつぶやいたが、その声に自信はなかった。
「ロウライン生でできるっていったら、せいぜいこんな程度だろうけど、気をつけな」
アシュアの言葉にケイナは不機嫌そうに顔をそらせた。
「ブーツは直しておいてやるよ。あとで届けてやるからそれまでこれを履いてろ」
アシュアはそばにあった自分のスリッポンタイプの布靴をほうってよこした。
「ケイナ……」
セレスはケイナを見た。ケイナは顔をあげてセレスに目を向けた。
「こういうことなの? あんたがここにいる間中、少しも緊張を解かないのはこういうことだから?」
ケイナは黙ってセレスを見つめた。
「こんなもん、ガキのいたずらじゃねえか。どうってことないよ」
代わりにアシュアが答えた。
「だけど、ケイナはルームリーダーになってからはことさら緊張を強いられてるんだ。自分の周りに他人がたくさんいればいるほど、神経を尖らせてなくちゃならない。そしてひとりでいる時はそれはそれで神経を尖らせてなくちゃならない」
セレスはかすかに口をぎゅっと引き結んだ。
「命がけだよ。それがおまえにできるか?」
「よせ、アシュア」
ケイナが口を挟んだ。しかしアシュアはやめなかった。
「おまえは今ケイナやおれに守られてるんだよ。だけど、ハイラインにあがったら、おまえの周りは敵だらけだぞ。ケイナに負担をかけずに自分の身を守れるのか?」
「アシュア、やめろ」
ケイナの声が険しくなった。
「やってやるよ」
セレスはアシュアを見据えた。
「おれはケイナを守る。そう決心したんだ。ケイナのそばにいたいんだ。どれだけ敵がいたって怖くない」
セレスはそう答えると、アシュアの靴を取り上げてすたすたとトレーニングルームから出ていった。
「けなげだねえ……」
アシュアはその後ろ姿を見送って笑って言った。
「あんだけストレートに感情表現する奴もめずらしいよ。おまえを守りたいんだと。まあ、状況がいまいち実感ないのかもしれんけど。こんな程度の悪戯じゃあなあ」
アシュアはセレスのブーツを見て苦笑した。ケイナは黙ってセレスの出ていった方向を見つめた。
(命の危険があるかもしれない)
ジェニファの言葉が頭に響いた。
(させるか。そんなこと)
ケイナは思った。