自分の部屋に戻ったとき、モニターがまだ文字をスクロールしていたのでカインは途方に暮れた。
それと同時に冷たい感覚も背筋に走る。
「人の島……」
カインはモニターの前に立ってつぶやいた。
「北緯72度、西経40度。行くよ。……でも、今すぐは行けないんだ……。やらないといけないことがある」
ぴたりと画面が止まり、ぷっつりと何も映らなくなった。
そうだ、モニターのスイッチは切っていたんだっけ……。
カインは息を吐いて椅子に座り込んだ。
何をそんなに必死になって北極圏に呼ぼうとしているんだろう。
ふと思い出して持って帰ったユージーからもらったバングルを取り出した。
やはり何も映らない。
でも、きっとあの「人の島」に何かがあるのだろう。
持っていた分厚い紙束をデスクの上に置き、椅子を回して後ろの窓に目を向けた。日はとっくに暮れて、町中小さな光の粒に包まれていた。
北極圏に行くにはどうすればいいだろう。普通の装備じゃ無理だ。それにぼくは航空訓練を受けていない。アシュアなら何でもできただろうけれど……。
アシュア…… きみと組めなくなったらこんなにも心細い。
なんだか情けないな。こっちに戻ったら、相談できる人がひとりもいない……。人はこんなにたくさんいるのに。
ちかちかと時折またたく光の粒をカインはぼんやり眺めた。
ユージーは帰ってしまった。カートはもうぼくに協力はしないだろう。
『ノマド』は? 無理だ。どうやって連絡を取る。
リィの権威で動かすことのできるフライトライン。たくさんあるだろうけれど、まず誰に相談すればいいだろう。
息を吐いてこめかみを押さえた手を外し、再び目をあげたときぎょっとした。
自分の横に誰かいる。
暗いガラスに自分の座る椅子に寄り添うように立つ少女の姿が映っていた。
彼女の長い髪の感触が自分の顔の横に実体のようにさらさらと感じられる。顔を向けても何もいないと分かっていてもカインは身動きすることができなかった。
少女は少し顔を俯かせてこちらを向いていた。なんだかセレスに似ている。
「何が…… 言いたいの」
カインはかすれた声で言った。
きれいな子だった。可哀想なほど痩せて頼りなげだが、その姿は美しかった。
「きみは…… 『ノマド』に行った『グリーン・アイズ』の娘なの?」
―― オトウ……さぁん…… ――
弱々しく悲しそうな声が聞こえた。
血が止まんない……。
一生懸命手で押さえても、あとからあとから吹き出してくる。
「いい…… から」
「良くないよぉ……」
涙が頬を伝わってどんどん流れる。お父さん、死なないで。
「おまえしか…… 止められなかったんだから……」
「なんで……」
鼻をすすって、服の袖で顔を拭った。
「嘘だよ。わたし、お父さんに死んで欲しいって思ってなかったよ。でも、言っちゃったよ……」
どうしてあんな言葉を口にしてしまったんだろう。
どうしてお父さんに『ノー』なんて言っちゃったんだろう。
「下が…… 上……」
血で真っ赤に染まった父の指が震えながら動いた。
「……を止める…… んだ……。 そう、いう、運…… 命…… なんだ……」
「なんのこと? 運命ってなに? お父さん、死んじゃいやだ」
父の目はもう自分を捉えていないことを知りながら、それでもまだ助かって欲しいと思っていた。
「そう…… 言って…… た……。 思い…… 出した……。 だか…… ら……」
声をあげて泣いた。
お父さん、お願い、死なないで。わたしをひとりにしないで……。
冷たくなった父のそばにどのくらいいたのか覚えていなかった。
顔をあげると何時間か前には活気に溢れていたはずのコミュニティには誰もいなかった。
みんないなくなっちゃった……。
寂しい……。
下が上を殺す運命?
そんなのわたしは望んでない。
父は美しかった。きらきらと光る緑に目でいつも穏やかな笑みを浮かべて優しかった。
その父を殺すことをわたしは望んでなんかいなかった。
父のそばにまだ転がったままの小さなナイフに目を向けたあとふらふらと立ち上がり、そのままコミュニティをあとにした。
どのくらい森の中をさまよったか分からない。
気がついたら、森を抜け出て何にもない荒れた地を素足で歩いていた。
ドームや森から離れ過ぎると死んでしまうよ、と誰かが教えてくれていたけれど、そんなことはもうどうでもよかった。
水も飲まず、食べ物も口にせず、長く歩き続けたあと、ぐったりとして地面に横たわった。
わたしはここで死ぬの。
それがいいの。
目を閉じて、もう、これで泣くことはないと安心した。
静かな時間を破ったのは、船のエンジンの音だった。
顔をあげると目の前に大きな船が降り立ったところだった。
「いい子だね。助けてあげるよ。もう心配しなくていい」
目を凝らしたけれど、誰が言っているのか分からなかった。
助けてなんか欲しくない。わたしはお父さんのところに行きたいの……。
そう思ったけれど、乾いた口は言葉を発してくれなかった。
抱えあげられたとき、弱った体が悲鳴をあげるかのように痛んだ。
「名前はなんていうの?」
名前……。お父さんがつけてくれた。大好きな名前だった。
「……ナ……」
「え?」
口元に誰かが耳を近づける気配がした。
「ケイ…… ナ……」
「そう」
しばらくして誰かが言った。
「いい名前だね」
お父さんが好きだったの。
『ノマド』の笛なの。“神の笛”……
「ゆっくりお休み、ケイナ。もう、何も心配することはないよ」
我に返らせたのは、ドアをノックする音だった。
自分の心臓の音が自分の耳にも響く。
カインは肩で息をして立ち上がり、頬が涙で濡れていることに気づいた。
ケイナ……。
彼女の名前もケイナだったなんて。
そうして彼女はそのまま眠りについたんだ。彼女の願いとはほど遠い眠りに。
顔を拭ってドアに目を向けた。
「はい」
返事とともに入って来たのは、食事を運んで来たメイドだった。
「どちらにお運びしましょうか」
彼女の言葉にカインは部屋の隅のテーブルを指した。
「そのへんで…… いいよ」
食欲はなかった。どうせ食べやしない……。
『グリーン・アイズ』のケイナ。
ぼくに過去の記憶を見せた理由は何なんだ? 助けて欲しいのか……?
メイドの置いた食事の皿に目を向けて、一度反らしかけてまた視線を戻した。
夕食だというのに、ミルクにゼリー、フルーツ、お粥のような皿まで見える。
「ちょっと待って」
出て行こうとするメイドを呼び止めた。
「これ、誰かの…… 医者の指示?」
「はい?」
メイドは怪訝な顔をした。
「どうしてこんな食事を?」
彼女はやっとカインの問いを理解したようにうなずいた。
「ミズ・リィのご指示です」
「トウの?」
疑わし気に言うカインを見て、彼女は再びうなずいた。
「こちらにお戻りのときは、いつもミズ・リィの指示でお食事を用意しています。ご幼少の頃はミズ・リィご自身で作っていらしたと聞きました。最近食事を取られておられないと申し上げましたら、こういうふうにと……」
一礼をして出ていくメイドには目を向けず、カインは呆然として料理の皿を見つめていた。
自分でも知らないうちに座ってスプーンをとりあげ、粥を口に運んだ。
しばらくまともに食事をしていなかった自分の胃に優しく届く味と温度だった。
昔…… 食べたことがあったような気がする。
めずらしく熱を出したときじゃなかっただろうか……。
気が付くと粥の器は空になっていた。
しばらくそれを見つめてカインは器から目をそらせると、立ち上がってクローゼットを開け、中から小さな銃を取り出した。
クローゼットに入れていただけで使ったことがない。きちんとその役割を果たすかどうかは分からないが、その確認をする時間はなかった。
(余計なことは今、考えるな。身動きがとれなくなるぞ)
カインは自分にそう言い聞かせると、部屋をあとにした。
バッカードは険しい顔で所長室に入って来たカインを訝し気に見た。
「どうされました? こんな時間に……」
カインはその言葉を無視して彼の前につかつかと歩み寄った。
バッカードはちらりと部屋のドアに目を向け、顔をしかめた。
どうして秘書はこんな時間に通してしまったんだろう。断ればいいのに。その声が聞こえて来るようだ。
「北緯72度、西経40度」
カインは言った。
「『人の島』に何がある?」
「何のことですか?」
その返事は予想していたものだった。バッカードはのたりくたりとしらばっくれるに決まっている。
「『人の島』だ。イヌイット語で『Kalaallit Nunaat』。70年前は使われていた言葉だったんだろう」
カインはバッカードの前に手をついて、彼の顔を睨みつけて言った。
「70年前にね。ほう…… 確かにその頃にはまだ人はいたかもしれませんな」
「北極圏にいったい何を作ったんだ」
「だから、何の……」
次の言葉は出せなかった。カインが銃を取り出して彼の額に突きつけたからだ。
「ご子息、冗談はやめてください」
バッカードの顔がみるみる赤くなった。目玉が飛び出さんばかりに目を見開いている。
「冗談でこんなもん持ち出すかよ」
カインは言った。
「あんたの耳でも腕でも吹っ飛ばす決心はついてる。ただし、この銃はしばらく使ってないからうまく狙ったところに当たってくれるかどうかは保証できないけれど」
バッカードの顔が今度は青くなった。
「ミズ・リィは…… 全部をあなたにお話する必要はないとおっしゃっていた……」
「そうだね」
カインはうなずいた。
「だからこういう手段に出てる。どうする? ぼくは撃つよ」
額から銃口を耳に向けたとき、バッカードは悲鳴をあげた。
「アクセスroudskyの83番です! それであちらの様子が分かる!」
あちらの様子が分かる? どういうことだ……。カインは目を細めた。
「通信室に一緒に来てもらおうか」
カインの言葉にバッカードは恨めしそうな目で渋々立ち上がった。
それと同時に冷たい感覚も背筋に走る。
「人の島……」
カインはモニターの前に立ってつぶやいた。
「北緯72度、西経40度。行くよ。……でも、今すぐは行けないんだ……。やらないといけないことがある」
ぴたりと画面が止まり、ぷっつりと何も映らなくなった。
そうだ、モニターのスイッチは切っていたんだっけ……。
カインは息を吐いて椅子に座り込んだ。
何をそんなに必死になって北極圏に呼ぼうとしているんだろう。
ふと思い出して持って帰ったユージーからもらったバングルを取り出した。
やはり何も映らない。
でも、きっとあの「人の島」に何かがあるのだろう。
持っていた分厚い紙束をデスクの上に置き、椅子を回して後ろの窓に目を向けた。日はとっくに暮れて、町中小さな光の粒に包まれていた。
北極圏に行くにはどうすればいいだろう。普通の装備じゃ無理だ。それにぼくは航空訓練を受けていない。アシュアなら何でもできただろうけれど……。
アシュア…… きみと組めなくなったらこんなにも心細い。
なんだか情けないな。こっちに戻ったら、相談できる人がひとりもいない……。人はこんなにたくさんいるのに。
ちかちかと時折またたく光の粒をカインはぼんやり眺めた。
ユージーは帰ってしまった。カートはもうぼくに協力はしないだろう。
『ノマド』は? 無理だ。どうやって連絡を取る。
リィの権威で動かすことのできるフライトライン。たくさんあるだろうけれど、まず誰に相談すればいいだろう。
息を吐いてこめかみを押さえた手を外し、再び目をあげたときぎょっとした。
自分の横に誰かいる。
暗いガラスに自分の座る椅子に寄り添うように立つ少女の姿が映っていた。
彼女の長い髪の感触が自分の顔の横に実体のようにさらさらと感じられる。顔を向けても何もいないと分かっていてもカインは身動きすることができなかった。
少女は少し顔を俯かせてこちらを向いていた。なんだかセレスに似ている。
「何が…… 言いたいの」
カインはかすれた声で言った。
きれいな子だった。可哀想なほど痩せて頼りなげだが、その姿は美しかった。
「きみは…… 『ノマド』に行った『グリーン・アイズ』の娘なの?」
―― オトウ……さぁん…… ――
弱々しく悲しそうな声が聞こえた。
血が止まんない……。
一生懸命手で押さえても、あとからあとから吹き出してくる。
「いい…… から」
「良くないよぉ……」
涙が頬を伝わってどんどん流れる。お父さん、死なないで。
「おまえしか…… 止められなかったんだから……」
「なんで……」
鼻をすすって、服の袖で顔を拭った。
「嘘だよ。わたし、お父さんに死んで欲しいって思ってなかったよ。でも、言っちゃったよ……」
どうしてあんな言葉を口にしてしまったんだろう。
どうしてお父さんに『ノー』なんて言っちゃったんだろう。
「下が…… 上……」
血で真っ赤に染まった父の指が震えながら動いた。
「……を止める…… んだ……。 そう、いう、運…… 命…… なんだ……」
「なんのこと? 運命ってなに? お父さん、死んじゃいやだ」
父の目はもう自分を捉えていないことを知りながら、それでもまだ助かって欲しいと思っていた。
「そう…… 言って…… た……。 思い…… 出した……。 だか…… ら……」
声をあげて泣いた。
お父さん、お願い、死なないで。わたしをひとりにしないで……。
冷たくなった父のそばにどのくらいいたのか覚えていなかった。
顔をあげると何時間か前には活気に溢れていたはずのコミュニティには誰もいなかった。
みんないなくなっちゃった……。
寂しい……。
下が上を殺す運命?
そんなのわたしは望んでない。
父は美しかった。きらきらと光る緑に目でいつも穏やかな笑みを浮かべて優しかった。
その父を殺すことをわたしは望んでなんかいなかった。
父のそばにまだ転がったままの小さなナイフに目を向けたあとふらふらと立ち上がり、そのままコミュニティをあとにした。
どのくらい森の中をさまよったか分からない。
気がついたら、森を抜け出て何にもない荒れた地を素足で歩いていた。
ドームや森から離れ過ぎると死んでしまうよ、と誰かが教えてくれていたけれど、そんなことはもうどうでもよかった。
水も飲まず、食べ物も口にせず、長く歩き続けたあと、ぐったりとして地面に横たわった。
わたしはここで死ぬの。
それがいいの。
目を閉じて、もう、これで泣くことはないと安心した。
静かな時間を破ったのは、船のエンジンの音だった。
顔をあげると目の前に大きな船が降り立ったところだった。
「いい子だね。助けてあげるよ。もう心配しなくていい」
目を凝らしたけれど、誰が言っているのか分からなかった。
助けてなんか欲しくない。わたしはお父さんのところに行きたいの……。
そう思ったけれど、乾いた口は言葉を発してくれなかった。
抱えあげられたとき、弱った体が悲鳴をあげるかのように痛んだ。
「名前はなんていうの?」
名前……。お父さんがつけてくれた。大好きな名前だった。
「……ナ……」
「え?」
口元に誰かが耳を近づける気配がした。
「ケイ…… ナ……」
「そう」
しばらくして誰かが言った。
「いい名前だね」
お父さんが好きだったの。
『ノマド』の笛なの。“神の笛”……
「ゆっくりお休み、ケイナ。もう、何も心配することはないよ」
我に返らせたのは、ドアをノックする音だった。
自分の心臓の音が自分の耳にも響く。
カインは肩で息をして立ち上がり、頬が涙で濡れていることに気づいた。
ケイナ……。
彼女の名前もケイナだったなんて。
そうして彼女はそのまま眠りについたんだ。彼女の願いとはほど遠い眠りに。
顔を拭ってドアに目を向けた。
「はい」
返事とともに入って来たのは、食事を運んで来たメイドだった。
「どちらにお運びしましょうか」
彼女の言葉にカインは部屋の隅のテーブルを指した。
「そのへんで…… いいよ」
食欲はなかった。どうせ食べやしない……。
『グリーン・アイズ』のケイナ。
ぼくに過去の記憶を見せた理由は何なんだ? 助けて欲しいのか……?
メイドの置いた食事の皿に目を向けて、一度反らしかけてまた視線を戻した。
夕食だというのに、ミルクにゼリー、フルーツ、お粥のような皿まで見える。
「ちょっと待って」
出て行こうとするメイドを呼び止めた。
「これ、誰かの…… 医者の指示?」
「はい?」
メイドは怪訝な顔をした。
「どうしてこんな食事を?」
彼女はやっとカインの問いを理解したようにうなずいた。
「ミズ・リィのご指示です」
「トウの?」
疑わし気に言うカインを見て、彼女は再びうなずいた。
「こちらにお戻りのときは、いつもミズ・リィの指示でお食事を用意しています。ご幼少の頃はミズ・リィご自身で作っていらしたと聞きました。最近食事を取られておられないと申し上げましたら、こういうふうにと……」
一礼をして出ていくメイドには目を向けず、カインは呆然として料理の皿を見つめていた。
自分でも知らないうちに座ってスプーンをとりあげ、粥を口に運んだ。
しばらくまともに食事をしていなかった自分の胃に優しく届く味と温度だった。
昔…… 食べたことがあったような気がする。
めずらしく熱を出したときじゃなかっただろうか……。
気が付くと粥の器は空になっていた。
しばらくそれを見つめてカインは器から目をそらせると、立ち上がってクローゼットを開け、中から小さな銃を取り出した。
クローゼットに入れていただけで使ったことがない。きちんとその役割を果たすかどうかは分からないが、その確認をする時間はなかった。
(余計なことは今、考えるな。身動きがとれなくなるぞ)
カインは自分にそう言い聞かせると、部屋をあとにした。
バッカードは険しい顔で所長室に入って来たカインを訝し気に見た。
「どうされました? こんな時間に……」
カインはその言葉を無視して彼の前につかつかと歩み寄った。
バッカードはちらりと部屋のドアに目を向け、顔をしかめた。
どうして秘書はこんな時間に通してしまったんだろう。断ればいいのに。その声が聞こえて来るようだ。
「北緯72度、西経40度」
カインは言った。
「『人の島』に何がある?」
「何のことですか?」
その返事は予想していたものだった。バッカードはのたりくたりとしらばっくれるに決まっている。
「『人の島』だ。イヌイット語で『Kalaallit Nunaat』。70年前は使われていた言葉だったんだろう」
カインはバッカードの前に手をついて、彼の顔を睨みつけて言った。
「70年前にね。ほう…… 確かにその頃にはまだ人はいたかもしれませんな」
「北極圏にいったい何を作ったんだ」
「だから、何の……」
次の言葉は出せなかった。カインが銃を取り出して彼の額に突きつけたからだ。
「ご子息、冗談はやめてください」
バッカードの顔がみるみる赤くなった。目玉が飛び出さんばかりに目を見開いている。
「冗談でこんなもん持ち出すかよ」
カインは言った。
「あんたの耳でも腕でも吹っ飛ばす決心はついてる。ただし、この銃はしばらく使ってないからうまく狙ったところに当たってくれるかどうかは保証できないけれど」
バッカードの顔が今度は青くなった。
「ミズ・リィは…… 全部をあなたにお話する必要はないとおっしゃっていた……」
「そうだね」
カインはうなずいた。
「だからこういう手段に出てる。どうする? ぼくは撃つよ」
額から銃口を耳に向けたとき、バッカードは悲鳴をあげた。
「アクセスroudskyの83番です! それであちらの様子が分かる!」
あちらの様子が分かる? どういうことだ……。カインは目を細めた。
「通信室に一緒に来てもらおうか」
カインの言葉にバッカードは恨めしそうな目で渋々立ち上がった。