テントに戻ったとき、ふいにケイナがつぶやいた。
「螺旋には相性が…… ある……」
アシュアとセレスは怪訝な顔をしてケイナを見た。
「なに? ケイナ……」
セレスはケイナの顔を覗き込んだ。
「螺旋には相性が……」
ケイナは視線を床に落としたままつぶやくように言った。
「水と木……」
「……?」
セレスは訳が分からずにアシュアを振り向いた。
「ひとりごとかな……」
「さあ……」
アシュアは肩をすくめた。
「アシュア」
セレスはアシュアに言った。
「リアと一緒にケイナのこと、頼むよ」
「ああ、分かってるよ」
アシュアは椅子に腰をおろして答えた。
「しばらくはリアと森に入るから、ちょっと無理だけど。その間はクレスのおふくろさんに頼もう」
「リアとは…… 最近、うまくいってるの?」
「え? なんで?」
アシュアは思わずセレスの顔を見た。
「いや…… だって、なんだか戻って来たとき仲良さそうだったし……」
「そ、そうか?」
アシュアは目を反らせた。セレスはしばらくアシュアを見つめていたが何も言わなかった。
夕食後、リンクのテントに行ったセレスは彼にケイナがつぶやいたことを伝えた。
「水と木?」
リンクは首をかしげた。
「ひとりごとかな、と思ったんだけど…… なんだか気になって」
「さあ…… 何とも言えませんね……。ぼくは術者じゃないし……トリも何も言わなかったし」
「しかたないね。じゃあ、ひとつひとつ調べよう」
セレスはため息をついた。
「じゃあ、半分のデータを渡しますからお願いします。操作の仕方は……」
リンクの言葉にセレスは身を乗り出した。
ケイナを助けなくちゃ。
セレスはそのことだけを考えていた。
「ねえ、アシュア…… カインてどんな人なの?」
リアは、相当慣れた様子で森を歩くアシュアの背に尋ねた。
「どんな人って?」
アシュアはちらりとリアを振り向いた。
「髪の色とか背格好とか……」
「髪は黒だよ。おれみたいな縮れっ毛じゃなくて、ケイナみたいなまっすぐな感じだ。背はケイナと同じくらいか…… 少し高いかもしれないな。ケイナよりは線が細い雰囲気かもしれねえ。歳はケイナと同じで…… 顔は東洋系で端正な感じだ。目が切れ長でトウ・リィによく似てる……」
アシュアはふと足をとめた。
「どうしたの?」
リアは怪訝そうにアシュアを見た。
「いや……」
アシュアはためらいがちにリアを見た。
「カインは…… ずっとトウ・リィの甥だと思ってたんだ」
「え?」
リアは不思議そうな顔をした。
「カート司令官は息子だって言ってただろ? おれ、それが妙に気になってんだ」
「どうして?」
「カインはおれたちの仲間だし、おれとはずっと『ビート』でコンビを組んでた」
アシュアは言った。
リアはじっとアシュアを見つめた。
「あいつは絶対裏切るようなやつじゃないっていうのは今でも信じてるし、カイン自身も昔っからトウのことはよく思ってないんだ。だけど、自分の母親が相手だとあいつだって動きづらいんじゃないかなと思って」
「カインはトウ・リィと自分が親子だってこと知らないの?」
リアの言葉にアシュアは口を引き結んでうなずいた。
「トリはどっちでもいいって思ってるわ」
リアはアシュアの顔を覗き込むようにして言った。
「最終的に彼がどっちの側につくことになっても、彼はきっと仲間の元に来たいからそうしてるんだと思う。それを突き放すなんてできないわ。少なくともあたしはそう思ってる」
アシュアはほっとしたように笑みを見せた。
「アシュアが友人だって言う人なんだもの。あたしは迎えるわ」
リアは微笑み返した。
「もうすぐ磁場の一番強いところに来る。ここから先はあたしのほうが慣れてるから先を歩くわね」
リアはそう言うと先にたって歩き始めた。
アシュアはうなずいてそれに続いた。
「すまないね…… ぼくはコミュニティから離れることはできなくて。明日には誰かに森に連れていってもらおう。そうだな、子供たちと一緒に行くか……」
トリはケイナを自分のテントの椅子に座らせて言った。今日は自分がケイナを預かるからと彼を連れて来たのだ。
ケイナはトリの言葉には全く反応しなかった。今の彼にとってはどうでもいいことなのかもしれない。
セレスとリンクはずっとテントにこもりっきりだ。
問題は…… 森に行ったアシュアとリアだ……。
何も見えないのがやはり気になった。誰が森に入ってきたのだろう。
近づけるはずもないコミュニティに誰が来ようとしているのだろう。
カンパニーだろうか。
アシュアの言うようにカイン・リィなのだろうか。
でも、彼が入ったらなぜ森が沈黙する?
トリは考え込んだ。
考えても今は何も分からなかった。
アシュアとリアは森にこもりきりになり、セレスとリンクはコンピューターの画面にしがみつき、そして2日がたった。
リアは足をとめると不審気に周囲を見回した。
「アシュア…… なんかヘンよ……。 妙に気配が多く感じられるの」
「ああ。おれもだ」
アシュアは剣の柄に手をかけた。
「カインじゃねえな…… 誰だ。カンパニーか?」
「向こうは全然こっちに気づいてない。でも、なんか匂いがするわ」
「匂い?」
アシュアは目を細めてリアを見た。
「アシュアと最初に会ったときも同じにおいがした。銃かな……」
「エネルギー反応?」
アシュアはびっくりしてリアを見つめた。
「そんなものを嗅覚で感じてたのか?」
「ずっと森に入れば嗅覚も敏感になるわ。とくに自然のものでないものには」
リアは答えた。
「二手に分かれてみる?」
「いや…… おれのそばにいろ」
アシュアは言った。
「相手が銃だったらヤバイ。こっちは剣しかないんだ」
「いったい何のために近づこうとしているのかしら……。敵か味方か……」
「友好的なやつがおれが持っていたようなタイプの銃を持って森に入るかよ」
アシュアは言った。
「護身用かもしれないわ」
「大勢で? そりゃ、面白い。リールがいったい何頭いるんだか」
リアはアシュアを睨みつけると軽く頬を叩いた。
「ためらわず行け」
アシュアはそれを無視して言った。
「ケガをさせることを躊躇するな」
「分かったわ……」
リアはそう答えて剣を引き抜いた。
「螺旋には相性が…… ある……」
アシュアとセレスは怪訝な顔をしてケイナを見た。
「なに? ケイナ……」
セレスはケイナの顔を覗き込んだ。
「螺旋には相性が……」
ケイナは視線を床に落としたままつぶやくように言った。
「水と木……」
「……?」
セレスは訳が分からずにアシュアを振り向いた。
「ひとりごとかな……」
「さあ……」
アシュアは肩をすくめた。
「アシュア」
セレスはアシュアに言った。
「リアと一緒にケイナのこと、頼むよ」
「ああ、分かってるよ」
アシュアは椅子に腰をおろして答えた。
「しばらくはリアと森に入るから、ちょっと無理だけど。その間はクレスのおふくろさんに頼もう」
「リアとは…… 最近、うまくいってるの?」
「え? なんで?」
アシュアは思わずセレスの顔を見た。
「いや…… だって、なんだか戻って来たとき仲良さそうだったし……」
「そ、そうか?」
アシュアは目を反らせた。セレスはしばらくアシュアを見つめていたが何も言わなかった。
夕食後、リンクのテントに行ったセレスは彼にケイナがつぶやいたことを伝えた。
「水と木?」
リンクは首をかしげた。
「ひとりごとかな、と思ったんだけど…… なんだか気になって」
「さあ…… 何とも言えませんね……。ぼくは術者じゃないし……トリも何も言わなかったし」
「しかたないね。じゃあ、ひとつひとつ調べよう」
セレスはため息をついた。
「じゃあ、半分のデータを渡しますからお願いします。操作の仕方は……」
リンクの言葉にセレスは身を乗り出した。
ケイナを助けなくちゃ。
セレスはそのことだけを考えていた。
「ねえ、アシュア…… カインてどんな人なの?」
リアは、相当慣れた様子で森を歩くアシュアの背に尋ねた。
「どんな人って?」
アシュアはちらりとリアを振り向いた。
「髪の色とか背格好とか……」
「髪は黒だよ。おれみたいな縮れっ毛じゃなくて、ケイナみたいなまっすぐな感じだ。背はケイナと同じくらいか…… 少し高いかもしれないな。ケイナよりは線が細い雰囲気かもしれねえ。歳はケイナと同じで…… 顔は東洋系で端正な感じだ。目が切れ長でトウ・リィによく似てる……」
アシュアはふと足をとめた。
「どうしたの?」
リアは怪訝そうにアシュアを見た。
「いや……」
アシュアはためらいがちにリアを見た。
「カインは…… ずっとトウ・リィの甥だと思ってたんだ」
「え?」
リアは不思議そうな顔をした。
「カート司令官は息子だって言ってただろ? おれ、それが妙に気になってんだ」
「どうして?」
「カインはおれたちの仲間だし、おれとはずっと『ビート』でコンビを組んでた」
アシュアは言った。
リアはじっとアシュアを見つめた。
「あいつは絶対裏切るようなやつじゃないっていうのは今でも信じてるし、カイン自身も昔っからトウのことはよく思ってないんだ。だけど、自分の母親が相手だとあいつだって動きづらいんじゃないかなと思って」
「カインはトウ・リィと自分が親子だってこと知らないの?」
リアの言葉にアシュアは口を引き結んでうなずいた。
「トリはどっちでもいいって思ってるわ」
リアはアシュアの顔を覗き込むようにして言った。
「最終的に彼がどっちの側につくことになっても、彼はきっと仲間の元に来たいからそうしてるんだと思う。それを突き放すなんてできないわ。少なくともあたしはそう思ってる」
アシュアはほっとしたように笑みを見せた。
「アシュアが友人だって言う人なんだもの。あたしは迎えるわ」
リアは微笑み返した。
「もうすぐ磁場の一番強いところに来る。ここから先はあたしのほうが慣れてるから先を歩くわね」
リアはそう言うと先にたって歩き始めた。
アシュアはうなずいてそれに続いた。
「すまないね…… ぼくはコミュニティから離れることはできなくて。明日には誰かに森に連れていってもらおう。そうだな、子供たちと一緒に行くか……」
トリはケイナを自分のテントの椅子に座らせて言った。今日は自分がケイナを預かるからと彼を連れて来たのだ。
ケイナはトリの言葉には全く反応しなかった。今の彼にとってはどうでもいいことなのかもしれない。
セレスとリンクはずっとテントにこもりっきりだ。
問題は…… 森に行ったアシュアとリアだ……。
何も見えないのがやはり気になった。誰が森に入ってきたのだろう。
近づけるはずもないコミュニティに誰が来ようとしているのだろう。
カンパニーだろうか。
アシュアの言うようにカイン・リィなのだろうか。
でも、彼が入ったらなぜ森が沈黙する?
トリは考え込んだ。
考えても今は何も分からなかった。
アシュアとリアは森にこもりきりになり、セレスとリンクはコンピューターの画面にしがみつき、そして2日がたった。
リアは足をとめると不審気に周囲を見回した。
「アシュア…… なんかヘンよ……。 妙に気配が多く感じられるの」
「ああ。おれもだ」
アシュアは剣の柄に手をかけた。
「カインじゃねえな…… 誰だ。カンパニーか?」
「向こうは全然こっちに気づいてない。でも、なんか匂いがするわ」
「匂い?」
アシュアは目を細めてリアを見た。
「アシュアと最初に会ったときも同じにおいがした。銃かな……」
「エネルギー反応?」
アシュアはびっくりしてリアを見つめた。
「そんなものを嗅覚で感じてたのか?」
「ずっと森に入れば嗅覚も敏感になるわ。とくに自然のものでないものには」
リアは答えた。
「二手に分かれてみる?」
「いや…… おれのそばにいろ」
アシュアは言った。
「相手が銃だったらヤバイ。こっちは剣しかないんだ」
「いったい何のために近づこうとしているのかしら……。敵か味方か……」
「友好的なやつがおれが持っていたようなタイプの銃を持って森に入るかよ」
アシュアは言った。
「護身用かもしれないわ」
「大勢で? そりゃ、面白い。リールがいったい何頭いるんだか」
リアはアシュアを睨みつけると軽く頬を叩いた。
「ためらわず行け」
アシュアはそれを無視して言った。
「ケガをさせることを躊躇するな」
「分かったわ……」
リアはそう答えて剣を引き抜いた。