……私は。

私は、どんな彼でも好きだったのに。

すれ違うたびに優しい笑顔を見せてくれる彼。

2人きりの時だけは砂糖のように、とびきり甘く接してくれる彼。

人前ではこの冷めきった珈琲のように、冷たい視線を向ける彼。

ああ。冷めきっていたのは私たちの関係だったのか。

そう思うと、一人で苦笑してしまう。

どんな彼でも好きだった。そう思っていたのは私だけだったのだろうか。


彼に近づこうと努力した。

髪型だって、あなたの好みの黒髪ロングヘア。

乱れることのない服装。

彼のために人並みのおしゃれやメイクもしない私。

彼の好きな珈琲を好きになろうと毎朝飲んでいたけれど、やっぱり好きになれなかった。


……努力の甲斐なし。

結果、こうして振られているわけだし。失恋しちゃったわけだし……。


悲しい。胸が痛い。これからは、今までのように彼と話すことはできないのかな……。

すれ違っても挨拶するだけ。そんな関係に戻ってしまうのかな。

……嫌だ、な。でも、忘れなきゃ。


そう思って、最後の珈琲を飲み干そうとしたその瞬間。


ガシャンッ!

爆音のような大きな音が店の外から聞こえた。

マグカップを持ったまま、ガラス壁の外を見る。