珈琲は苦い。苦いから嫌い。

そんなことを言ってしまえば子ども扱いされるから、私は嫌いな珈琲に口をつける。


……苦い。

私は珈琲の入ったマグカップを、そっとテーブルに置く。表情一つ変えずに。



「……それで。話って何?」



私はここへ呼び出された理由を知りたかった。

店内全面ガラス張りのカフェ。そこから見える大きな道路には、青から赤へと変わる信号と、加速してそれを通り抜ける車たち。

人通りも多くて、賑やかに見える外。太陽の日差しが降り注いでいるためか、街行く人たちの表情も明るく見える。

そんな外の世界とは違う店内。ガラス壁を通して太陽光が降り注ぐ店内には、特別明るい照明がない。オレンジ色のライトが灯っているだけ。

テーブル席がいくつか用意されているけれど、店内にいるのは私たちとカフェの店員だけだった。

静かな空間に響く音楽はゆったりしすぎて、逆に心が落ち着かない。



「突然、呼び出してごめんな」

「……謝らなくていいから」



テーブルを挟んで座る彼。白いワイシャツに朱色のネクタイがよく似合う。彼の目の前にも私と同じブレンドの珈琲の入ったマグカップが置かれている。

珈琲に映る彼のシルエットはネクタイと同じ朱色に見えた。