あれから日が流れて夏休み。
新城は一度も学校へ来る事無く、必要最低限のメッセージのやり取りで迎えた当日。
僕はリュックサックを背負い、N県の田舎町へ来ていた。

「疲れた」

長い間、電車に揺られていたことで体に鉛を感じてほぐす為に両手を重ねて空へ向けて伸ばす。

「あー、良く寝た!」
「そうだろうね」

僕の隣でキャリーケースを押している瀬戸さん。
あの後、何度か説得を試みたけれど、悉く失敗。
当日に黙っていこうと考えていたら先読みされて駅の前でスタンバっていた彼女と遭遇。
ここまで一緒に来ることになってしまった。
諦めて、道中で説明をしていたけれど、聞いていただろうか?

「普通、景色を楽しむとか、そういうことしないの?」
「だって、緑、緑だよ?N県は自然が多いことは知っていたけれど、同じ景色が続くんじゃ流石に飽きるよ。それに凍真も同じでしょ」
「否定できない」

新城も景色とかそういうものを楽しむなんて事はせずにぐーすか寝ていただろう。

「それにしても、迎えとか来ないの?えっと、なんていう政治家さんだっけ?」
志我(しが)さんだよ。来る前に少しだけ調べたけれど、この地域じゃ有名な政治家みたい」

説明役もとい、色々知っている新城がいないから僕が説明をしているけれど、事前に招待状を送ってきた人の事については調べてある。
送り主は志我一夏(しがいちか)という代々、政治家になっている家の主。
あまり政治について知らなかったけれど、このN県じゃ有名な議員さんらしい。
少し前に病を患って、今は活動休止中。
どうも、休止前に怪異絡みで新城に助けてもらったらしく、そのお礼含めてパーティーへ招待してくれるという事。
事前に連絡をして新城不在、代理で僕が来る事は伝えてある。

「ふーん、じゃあ、迎えとかはリムジンもあり得るわけだ。どんなリムジンがくるかなぁ?」
「いや、リムジンに違いって」

あるのだろうか?
他愛のない事を話している僕達へ声をかける人がいた。

「失礼、新城凍真様のお連れの方でしょうか?」
「あ、はい」

振り返ると燕尾服姿の初老の男性が立っている。

「私、志我家の執事兼秘書を務めております。八島(やしま)と申します。新城凍真様のお連れをお迎えするように指示を受けております」