「俺達がくるまでその女はいたのか?」
「いたの!ベッドの上で横になって、ほんの、ほんの少し目を離しただけなのに」
「……この屋敷にいる人数を教えてくれ」

叫ぶ瀬戸さんの横でベッドを睨みながら新城が僕に尋ねる。
僕は人数を伝えた。

「宮古島の婆ちゃんと助手は大丈夫だろう」
「そうなの?」
「あの婆ちゃん、降霊術もそうだが、身を守る術に関してはトップクラスの実力だ。ここのヤバさを理解しているなら不用意にあっちこっちいかない。問題はいなくなった志我二衣の方だ」

新城が柳生さんをみる。
背負っていたケースを置くと柳生さんがいくつかの道具を取り出した。

「さて、雲川。質問だ」
「え、なに?」
「ここは何階だ?」

質問の意図が一瞬、わからなかった。

「え、ここって一階なんじゃ」

新城は首を振る。

「外れ」
「え、でも、階段とか、そんなものはなかった」
「そうだな。普通に入ったら階段とかそういうものはないのだろう」
「雲川殿、この屋敷は術がかけられている」
「術!?」

柳生さんの言葉に新城が頷いたから本当なのだろう。

「高度な術だ。新城殿が気付かなければ拙者も術中にはまっていただろう」
「そんなにすごい術が?」
「お前達が嵌ってしまって仕方がないってことだ。いちいち気にするな」

それよりも、と新城は柳生さんから受け取った道具を手に取る。

「この空間は想像以上に奇々怪々している。普通の人間なら迷いに迷って敵の術中に堕ちるだろうよ。いなくなった連中もおそらく」
「そんな事いいから!早く二衣をみつけないと!」

慌てている瀬戸さんを落ち着かせている横で新城が用意したのは柄杓と尖った石だった。

「その柄杓は?」
「簡単に言えば暗闇の中で迷わない道具」

簡単に説明したなぁ。
僕達の前で柄杓の中に石を入れて水を注ぐ。
水で一杯になった柄杓の中で石がぷかぷかと浮かぶ。

「こっちだな」

石をみて新城が歩き出すのは扉の方ではなくて壁に設置している鏡。
鏡へ新城が触れる。
指先が鏡の中へ吸い込まれていった。

「え!?」
「新城、これって」
「さぁ、行くぞ。とっととこの事態を引き起こしている奴を見つけて終わらせる」