夜がやってきた。
雲川達は話し合いの末、部屋の鍵を施錠して夜は誰も入出させないという取り決めをしている。
その取り決めを破った者がいた。

「はぁ、はぁ、くそっ、話に来ていないぞ!」

田宮霊能力研究所所長、田宮その人だ。
彼は荷物を抱えて逃げ出す為に屋敷の外へ出る。

「高額なギャラを得て、とっとと逃げておくんだった!」

悪態をつく田宮。
彼は霊能力研究所所長というのは真っ赤な嘘。
本当の職業は詐欺師だ。
霊能力者という肩書を用いて膨大な依頼料を手に入れて姿を消す。
そういうことを繰り返して金を稼いでいた。
勿論、当人に霊能力などない。まして幽霊の存在等も信じていない。
今回も大金が手に入るという情報を入手した事で屋敷にもぐりこんだ。

「くそっ、外に、早く外に」
「どこへいかれるのですか?」

聞こえた声に田宮はびくりと体を震わせる。

「だ、誰だ!」

震える声で叫ぶ。
近くの茂みが揺れて現れた人物に田宮は目を見開く。

「アンタは」
「どこへいこうというのですか?」
「いえ、これほどの事態です。部下もいないですから増援を呼んで来ようと思いまして、ほら、携帯も繋がりませんから」

嘘をつくときはほんの少し本当の事を混ぜればいい。
この場所は携帯が繋がらない事は本当だ。
それを理由にこの場所から逃げるつもりだった。

「残念ながら、皆さまを逃がすなという指示を受けております」
「指示?それは一体」

田宮はそこから先の言葉を聞くことが出来なかった。
否、言葉を失ったのだ。
目の前にいた相手が一瞬で眼前に立ち、そして、おぞましい姿に変貌している。

「ヒッ!」

悲鳴を漏らした瞬間、繰り出された拳が田宮の眼前に迫る。
拳は田宮の顔を潰した。
ドサリ、と地面に倒れる田宮。
物言わぬ死体となった田宮の足をひきずっていく。
その者は闇の中に消える。