「正直、助かるよ。力が強くなると察知される危険は避けたい」
「長い事、姿を隠しているのだから新城殿を狙っている妖も諦めている可能性は――」
「奴らは諦めていない」

柳生の言葉を遮る。
薄暗い中だというのに、新城の目はぞっとするほど冷たい。

「柳生、妖、いや、アイツらはそう簡単にあきらめない……十年、二十年なんて短すぎるんだよ」
「すまない」
「柳生さんが謝る事じゃない。妖が諦めてくれたらいいんだよ」

呆れながら新城は眼帯へ触れる。
ドクン、ドクンと脈打つ鼓動のようなものが指先に感じる。
祓い屋を営む者にとって力が一時的に増す事は嬉しい面が強い。
しかし、新城凍真にとっては違う。
力が弱まる事ならともかく強まる事は新城を探している妖に見つけられる可能性が高まる。
眼帯の向こう、失われた目に力を感じるのがその証拠。

「ところで、柳生さんは何の用事だ?」
「これを」

柳生が懐から取り出したのは新城の端末。

「どうやら雲川殿が怪異に巻き込まれたようです」
「あ?」

受け取った端末に目を通す新城。
端末に目を通した後にため息を零す。

「柳生さん、ここをでる」
「本気か?まだ力が弱まっては」
「あまり良い状況じゃない。俺がここに閉じこもっていても事態は悪化するだけ……だから、俺が行く」

新城の覚悟が強いことを柳生は理解する。

「わかった。拙者も同行しよう」
「悪いな」
「構わん、雲川殿の危機なのであろう?」
「奴というより、その土地の人達の危機だな」

置いてある道具を手に取って新城は出口へ向かう。

「災厄を呼ぶ怪異を放置できない」

そういいながら新城の目は浮遊している少女の霊に向けられていた。