「皆さま、本日はお越しくださり、ありがとうございます。我が父、志我一夏(しがいちか)が仕事で不在の為、娘である私達が代理として挨拶をさせて頂きます」
「私達?あぁ、そうか、八島さんが言っていた三つ子って、彼女達なのか」
「双子ならともかく、三つ子なんているんだね。漫画の世界だと思っていた」

僕達は入ってきた三人の娘へ視線を向ける。

「まずは自己紹介を、私が長女の志我一衣(しがいちい)といいます」

白いワンピースタイプのドレスを纏って、肩までかかる髪の女の子が長女。
右目が赤く、左目が青い。

「アタシが志我二衣(しがにい)よ」

赤を基調としたワンピースタイプのドレスを纏って、髪をポニーテールにしている女の子、確か、瀬戸さんに不埒な事をしていた。彼女が次女か。

「…………志我三衣(しがみい)です」

大人しそうな青を基調としたワンピースタイプのドレス、僕の部屋にやってきた女の子、彼女が三女。

「今回、ご招待した方々は我が父の縁でお呼びした方達と聞いております。そして、今回、ご招待したのには理由があります」
「理由?」
「本来は我が父の仕事復帰の祝うパーティーだったのですが、この館の不思議な出来事について、皆さまのお知恵を借りしたいのです。父によれば、あなた方は特殊な力をお持ちという事で」

招待状は只の祝い事という事だったけれど、新城が危惧していた事が起こりつつある。
そんな気がした。

「尚、今回は突然の事という話でもあり依頼という形をとらさせて頂きます。見事、事態を解決して頂ければ報酬も」

傍に控えていた八島さんが補足説明をする。

「ほう!報酬ですか、それは嬉しい事ですな!」

奥の席にいる恰幅の良い男性が笑みを浮かべる。

「それで、困りごとというのは何でしょう?」

真ん中の席にいる女性が尋ねる。

「この館の事です」
「館?」
「この館、名前を不思議思議の館というのですが、皆さんも来て驚いた事かと思います。増築、理由のわからないオブジェ……実はこれについて、初代の志我の主が残した遺言が関係しているのです」

志我家の遺言内容について一衣さんが話す。

「この館の奥に解き放ってはいけないモノがある。それを抑え込む為に二つの方法を取るように、一つは屋敷の増築、迷宮になるように増築を繰り返し、モノを迷わせ、外へ解き放たないようにせよ。もう一つがこの屋敷を含めたすべてを燃やし尽くす事、この二つのどちらかを必ず守り通すように……以上が先々代の残している遺言です」
「成程、変な遺言ですなぁ」
「放ってはいけないモノというものに、志我家の記録はあるのですか?」
「いいえ、残す事すら恐れたのか、記録は一切ありません」

そこで志我一衣は全員を見渡す。

「我々が依頼することはこの館に隠されたモノの正体、対処について、このどちらかを解明、もしくは提示してほしいのです。期限はこのパーティーの三日間です。皆さんで協力して頂いても大丈夫ですし、個別で対応して頂いても大丈夫でゴホゴホ!」

話の途中で志我一衣が激しくせき込む。
八島さんが背中を優しくさすりながら席へ誘導する。

「ありがとう、八島さん」
「いえいえ、お体に触りますから無理はせぬように」

優しく微笑む八島さんへ小さく微笑む志我一衣……体調が悪いのだろうか。
二衣がどこか冷めた目で一衣さんをみていた。
三衣はどこかボーッとしていて表情が読めない。
しばらくして体調が良くなった彼女から資料を渡されて解散という扱いになった。
解散という際にここに集まった人達の自己紹介が行われる事になる。
部屋の奥にいた恰幅の良い男性は名前を田宮といい、田宮霊能力研究所の所長を務めているらしく、今回は部下を一名連れてきている。
部屋の中央にいた二人のうち、一人が宮古島裕子といい、神浄大学で心理学を専門としており、その傍らで怪異に関係する相談を受けたりしているという。
一緒にいる坂下はるひさんは彼女の助手。

「えっと、僕達は新城凍真の代理としてきました」

最後に僕達の番になった時、変化が起こった。

「なっ!?」
「あら?」

新城の名前を聞いた途端、田宮さんは顔を顰めて、宮古島さんは嬉しそうにはにかんだ表情を浮かべている。
二人の反応から新城と面識があるのだろうか?
気にしながらも僕達は食事を終えて部屋に戻ることにした。

「なんか、只のパーティーかと思ったら変なことになってきたね」
「そうだね……はぁ」
「どうしたの?」
「新城の代理として挨拶した時の田宮さんと宮古島さんの反応が気になったんだよ」

宮古島さんはともかく、田宮さんの反応からして新城との間に良くない事があったのは間違いない。
それが原因で余計な騒ぎにならないか心配だった。

「依頼についてもそうだけど、この館は危険だから、警戒は怠らないでね」

瀬戸さんに警戒を促しながら僕は制服の中に隠している十手に触れる。

「凍真に連絡はしておかないの?」
「後で外に出てメールは送っておこうと思う。電話は繋がらないみたいだから」
「フフッ」
「……どうしたの?」

小さく笑った瀬戸さんの様子が気になって僕は尋ねる。

「いや、この状況を凍真が知ったらどんな顔をするかなって、いつもアタシを遠ざけていたのに、まさか、自分がいない時にこんな事が起こるなんてさ~」

彼女の言葉に僕は表情を曇らせる。
瀬戸さんはおそらく、本当の意味で怪異の危険というものをわかっていない。
今回の件が怪異としてどんな危険を孕んでいるのか、そもそも怪異なのかわかっていない中で僕達はどうすればいいんだろう。
こんな時程、頼りになる新城がいない事に僕はどうしょうもない不安を感じてしまう。
そして、その不安が的中することになるのを、僕はまだ知らなかった。