私は籠の中の白い鳥。
羽があっても意味がない。
私は飛ぶ事さえ許されない白い鳥。


オークション開催前日。

四郎達は岡崎伊織とリビングで計画を立てていた。

コーヒーの匂いがリビングの中に漂っている。

四郎達はモニターに映し出された会場のマップを見ながら役割りを決めていた。

会場は東京六本木にある大きなオークション会場だ。

普段は車のオークションをしているのだが、夜中に
闇市場のオークションが月に一度だけ開催される。

参加者は事前に闇市場のオーナーから、招待状が送られる。

兵頭雪哉にもまた、闇市場のオーナーから招待状が送られていた。

「一郎と二郎と俺で頭の護衛としてオークション会場に入る。」

「え、会場に護衛が入れるの?」

岡崎伊織に尋ねたのは三郎だった。

「あぁ、護衛を3人まで連れて来て良いと招待状に書かれている。何が起きるか分からないからな。一郎と二郎はそれで良いな。」

「俺と一郎はそれで良いよー。」

「あぁ。」

岡崎伊織の言葉に二郎と一郎は短い返事をした後、四郎達の方に視線を向けた。

「それから、三郎と四郎、六郎は給仕として会場に潜入して貰う。」

「給仕…って、言い方が古くない伊織?オークション会場にいるカクテルとかお酒とか配ったりしてる人に紛れ込むって事?」

六郎は少し岡崎伊織を馬鹿にしながら話し出した。

「意味が分かれば良いだろ。ほら、これお前等の制服。」

岡崎伊織は六郎の言葉を適当に受け流しながら、給仕の制服が入った袋を渡した。

「うわっ!!あはははー!!見て見て見て四郎!!メイド服がある!しっかもミニ!!」

三郎が笑いならメイド服を四郎に見せていた。

「え、何?コスプレ?今時、こんなミニのメイド服なんか着ねーだろ。」

「あははは!!やばい、ウケる!!これ、六郎が着るの?メイド喫茶かよ!!」

「お疲れ、六郎。」

三郎との会話を終わらせた四郎は六郎に視線を向けて、四郎なりの労った言葉を放った。

「ちょ、真顔で言わないでよ四郎。」

「仕方ねーだろ。変態金持ちどもはこう言う格好が好きなんだよ。お前等の服だって執事服なんだからな。」

「もう、コスプレじゃん。」

岡崎伊織の言葉を聞いた六郎はゲンナリした様子を見せた。

「五郎はモモを連れ出した際に、車に乗り込むまでの援護射撃を。商品を連れ出した際に、真っ先に地下の駐車場が閉まるシステムだから、正面入り口しか車を止める事が出来ない。」

「了解。」

五郎は岡崎伊織の指示を聞いて短く返事をした。

「七海はいつも通りにサポートと、五郎に風上と距離の指示を出来たらしてくれ。」

「僕も外に出て仕事する感じでいーの?」

「今回だけな。」

「久しぶりに出るなぁ…。」

「おい、七海ってどれくらい外に出てねーの?」

岡崎伊織と七海の会話に五郎が入って、七海に質問した。

「…。3年ぶり?」

「そんなに!?」

「あのねー。僕は情報収集と、ハッキングが仕事なの、外に出る暇なんてなかったの。」

「あ、そ、そうか。」

「五郎はスマホとタブレットしか触れないでしょ?Excel分かる?」

「え、えく?」

五郎の反応を見た七海は呆れた顔をしながら、小さい溜め息を吐いた。

「三郎達は明日、六郎に見た目を変えて貰えよ。メンバー全員の右手のタトゥーも消して貰え。」

「伊織の言う"念の為"ってヤツ?」

「用心した事に越した事はないからな。」

岡崎伊織は、何事にも対応出来るようにしておきたい性格なのを六郎はよく理解している。

「じゃあ、今日は解散。明日は宜しく頼むな。」

そう言って、岡崎伊織はリビングを出て行った。

「あたしは先に部屋に戻るわ。明日のメイク道具の準備をしておきたいから。」

「それじゃあ、僕も。色々やる事があるからね。」

六郎と七海は一郎達に「おやすみ。」と言ってからリビングを出て行った。

「んじゃ、俺もそろそろ休むわ。」

「俺も行くわ。」

立ち上がった二郎に便乗して、四郎も腰を上げた。

「一郎と三郎はまだ、部屋に戻らないの?」

「もうちょっとしたら戻るよー。」

「そっか。じゃあ、おやすみ。また明日。」

「おやすみー。」

「おやすみ。」

リビングを出て行く二郎と四郎におやすみと挨拶をした一郎と三郎はコーヒーを口に運んだ。

コーヒーを飲み終えた三郎が一郎に視線を向けてから、言葉を放った。

「ねぇ、ボスと何を話したの?」

三郎の言葉を聞いた一郎は、ほんの一瞬だけ眉毛がピクッと動いた。

一郎の体の反応を三郎は見逃さなかった。

「いつの事を言ってるんだ三郎。」

「いつって、3日前だよ。ボスに呼ばれてたじゃん?俺達に秘密の話してたんじゃないの?」

「秘密って訳じゃない。ただ、釘を刺されただけだ。」

「釘?」

三郎がそう言うと、一郎は腰を上げた。

「今回の任務、必ず成功させろとの事だ。どんな犠牲を払ってもあの少女を奪還しろと。三郎も余計な事に頭を回すなよ。」

「はーい。でもさ、俺達に秘密してる事はあるだろ?」

「さぁな。メンバーに秘密事はご法度だろ。」

一郎はそう言って、扉に手を伸ばした。

「言いたくないなら別に良いけどさ。これだけは言っとく。」

スッ。

フルーツの隣に置いてあったペティーナイフを手に取り、刃を一郎の首筋に当てた。

「四郎に迷惑掛けたら殺すよ?四郎の邪魔になるような事をしてもね。」

三郎と四郎は同じ時に兵頭雪哉に拾われている。

三郎はメンバーの中でも1番に四郎の事を大事にしている。

その事は一郎もよく知っていた。

三郎は一郎が絡むと同じメンバーだろうが、容赦なくナイフを立てる。

「その心配はないから安心しろ。」

一郎はそう言いながらナイフを首筋から離した。

「そっ、なら良かった。俺も部屋に戻ろーっと。おやすみー。」

三郎は何事もなかったかのように一郎にナイフを渡し、リビングを出て行った。

「一応、三郎が勘づいた事をボスに報告するか。」

一郎はスマホを取り出し兵頭雪哉にメッセージを送った後、静かにリビングを後にした。


CASE 四郎

オークション開催当日

俺と三郎、六郎は先に会場入りしていた。

オークション開催時間までに酒や料理の配膳準備をしなければならないからだ。

俺の隣にいる三郎は髪を後ろに全て流し眼鏡をはめていた。

タトゥーはパウダーで消してあり、普段の三郎とは想像がつかない格好をしている。

少し離れた距離にいる六郎は、栗色のボブヘアーの
ウィッグをはめている。

俺と同じ執事服を着た男達が六郎をチラチラ見ていた。

そして俺もまた、いつもの髪を髪色を変えるスプレーで色を変えていた。

水色だった髪が黒色に変わり、どこから見ても普通の男と変身した。

潜入任務は決して目立っては駄目だ。

ブブッ。

耳にはめていたインカムが振動した。

「こちら七海。オークションに出品される商品達が運ばれて始めたよ。特にモモって子の周りには10人以上のボーディガードがいるね。それとモモって子、大きな鉄の鳥籠に入って運ばれてる。」

「了解。」

俺が小さな声で返答すると、インカムが振動した。



ビルの屋上ー

五郎と七海は、会場から離れたビルの屋上にいた。

五郎はARES MS700スナイパーライフルBKフルセットのライフルスコープから会場の外にいる人を見ていた。

「金持ちばっか集まってんなぁ…。」

「そりゃ、そうでしょ。このオークション目当ての糞野郎ばっかなんだから。」

五郎の横で腰を下ろしながら、パソコンをカタカタと音を鳴らしていた。

五郎もまた、七海がオークションに出されていた事をしている。

だからこそ、七海がそう言ったのも理解出来ている。

「金持ちって、何で変な奴が多いんだろうね。」

「普通じゃねーんだろうな。価値観とかな。普通じゃ満足出来ねーんだろ。」

五郎の言葉を聞いた七海は望遠鏡を手に取りオークション会場を覗いた。

「もうすぐ0時になるよ。」

「了解。」



CASE 四郎

PM 0:00

オークションが開催された。

誰もいなかったフロアは沢山の人で埋まった。

俺達は客にシャンパンを配りながら周りに目を配る。

その中でも一際目立っている男がいた。

肩まである赤い髪に病弱のように白い肌、切れ長の瞳。

黒色の瞳なのに左目だけはオレンジ色の宝石みたいに綺麗だった。

高級スーツと高級アクセサリーを身に纏っていた。

あの男の周りには沢山の女が集まっている。

女達もあの男の前を素通り出来ないようだった。

ザワッ。

「見ろ、兵頭雪哉だ。」

会場の入り口にいるボスを見たギャラリーは騒ついた。
 
兵頭会はかなり大きな組織で、極道でありながらも大きな会社を作ったりしている。

極道会の中ではエリートと呼ばれる分類だそうだ。

一郎と二郎も髪型を変えている。

2人共、黒髪のウィッグを被っていて、

赤髪の男がボスの方に向かって歩き出した。

「お久しぶりですね兵頭さん。貴方がオークションに参加するとは思ってもいませんでしたよ。」

「お前は毎回、参加してるな椿(ツバキ)。お目当てな商品でもあるのか。」

椿って…。

椿会の組長なのかアイツ。

椿会とは、兵頭会と同じ極道である。

兵頭会と違う所は、"欲しい物は何をしてでも手に入れる。"で有名な組だ。

組長があんなに若い奴だったとは思わなかった。

「貴方も知っているでしょ?Jewelry Pupil。しかも、アルビノの少女ですよ。Jewelry Pupilだけても価値はあるのに。」

「まだ、Jewelry Pupilが欲しいのかお前は。」

「えぇ。Jewelry Pupilは飾って置くだけでも美しいですから。貴方もでしょ?雪哉さん。」

赤髪の男がそう言ってボスに近寄ろうとした瞬間、伊織が一歩前に出た。

「相変わらず伊織を飼い慣らしているんですね?雪哉さん。忠犬ぷりは変わらないな伊織。」

「お前は相変わらずだな椿。それに、忠犬は忠義を尽くしてんだ。椿、お前と違ってな。」

「あははは!!道が逸れただけだろ?お前と俺は違う。いや、違ったんだ。」

伊織と赤髪の男の間に不穏な空気が流れたのを感じた。

ブブッ。

耳にはめていたインカムが振動した。

「こちら六郎。今から少女を探しにフロアを出るわ。三郎が先に出て行っちゃったみたいだけど、四郎もフロアを出て少女を探して。」

「了解。」

俺はシャンパンを補充しに行くフリをしてフロアを出た。

ブブッ。

インカムが再び振動した。

「こちら三郎ー。オークションに出される商品達は廊下の奥にある部屋にあるよ。だけど、肝心の女の子がいないんだよねー。もしかしたら2階のVIPルームにいるかも。」

聞こえて来たのは三郎の声だった。

「2階は俺が行く。」

「了解。後で俺達も合流するから。」

「了解。」

俺は人目に付かないように2階へと繋がる階段を登り始めた。



三郎と六郎は1階にある部屋にいた。

ドサッ!!

三郎と六郎の足元には闇市場の人間達の死体が数人転がっていた。

「あの子はやっぱりいないねー。」

三郎はそう言って部屋を見渡した。

「ここにいる女の子達はどうするの。」

「ボスからは何も言われてないけど、引き取るよう
に手配しといたよ。ボスの耳にも届くはずだし。」

カチャッ。

女の子達が入っている大きな鉄格子の南京錠の鍵を丁寧に外した。

「あ、あの!!ありがー。」

「シッ。皆んな、大きな声は出さないで。」

三郎が指に口を当てながら呟くと女の子達は黙った。

「六郎。裏口に中型トラックがあるから女の子達を誘導するよ。兵頭会の人が乗ってるからね。」

「裏口って…。この部屋にあるの?」

「あるよ。あの黒い布をめくって見て。」

三郎の指示にしたがった六郎は、恐る恐る黒い布をめくった。

すると、三郎の言う通り扉が現れた。

「嘘でしょ?マップでは表示されてなかったわよ。」

「七海に調べて貰ったんだ。やっぱり、普通の商品達はこっちから運ばれてたんだね。ちょっと、待っててね。」

三郎が女の子達にそう言うと、Cz75を構え直し扉を開けた。

周囲に人がいない事を確認した三郎は六郎達に向かって手招きをした。

六郎は女の子達を引き連れて三郎の後を追い掛け、中型トラックに向かった。

三郎達に気付いた運転手は、トラックのパワーゲートを開けた。

「さ、乗って。大丈夫だから。」

「あ、ありがとうございます。」

「ほ、本当にありがとうございますっ。」

女の子達は泣きながら三郎にお礼を言いながら、パワーゲートに乗り込んだ。

三郎は運転手に向かって手を挙げると、パワーゲートが閉まり静かにトラックが走り出した。

三郎は六郎の手を引き、ダンボールの山に隠れた。

「ちょっ、ちょっと何!?」

「動かないで。」

三郎の言葉の後に銃弾が飛んで来た。

パシュッ!!

「スナイパー?」

「そうだね。恐らく俺達とは違う組織のスナイパーだね。」

「な、何でスナイパーが?」

「そりゃあ、Jewelry Pupilが目的でしょ。」

「り、理由は分かったけど、どうやってスナイパー
がいるって分かったの。」

「殺気かな。」

「殺気…って。」

「会場に戻っても、騒ぎになるだろうし…。」

タタタタタタタ!!

三郎と六郎の後ろから大勢の足音がして来た。

「あー、来ちゃったかぁ…。」

「来ちゃったじゃないでしょ?!どうすんのよ!?」

「大丈夫、大丈夫。」

「大丈夫じゃない!!!」



その頃、四郎はVIPルームの前にいた。

パシュッ、パシュッ。

ドサッ。

VIPルームを警備していた男達を殺した後、ゆっくりと扉に手を開けた。

カチャッ。

VIPルームの中は血だらけだった。

空になった大きな鳥籠の周りには、闇市場の人間と思われる人間数名が血を流して倒れていた。

皆、手には拳銃が握らられていて、どうやら自分で頭を撃ったようだ。

スッ…。

気配を感じた四郎は、振り向いた瞬間にトカレフTT-33の銃口を向けた。