騒ぎが起きる30分前ー

東京 銀座劇場近場

日に焼けてない白い肌に、透き通った鼻と大きめの深緑の瞳に、沢山のピアスがとても目立つ。

グレーアッシュの髪を無造作に分けられた隙間から見える黒いメッシュは襟足にも見えた。

服装はスポーツカジュアルだが、独特の雰囲気を放っている男に通り過ぎる女は視線を奪われていた。

男の右手には沢山のタトゥーが見え、左足には太陽と月に綺麗な模様のトライバルが入っていた。

だが、男は苛々した様子で煙草を咥えスマホを取り出した。

「あの糞野郎…。寄り道してやがるな…。おい、七海。」

男がそう呟やくと、男が耳にはめていたインカムが振動した。

「何?」

「あの馬鹿はまだ来ねーのか。」

「えー、三郎のGPSは五郎の近くで反応してるけど。姿見えない?」

「見えねー。」

男は怠そうに周囲を見渡した。

「お待たせー。」

黒い刀袋をぶら下げた男が五郎に近寄った。

首の真ん中に薔が描かれた札のタトゥーが目を付く。

「何、たい焼き食ってんだよお前!!時間厳守だろーが!!」

「あははは!!五郎って見た目はちょー悪なのに真面目だよねー!!」

「うるせーなわ、今回の任務は遅れねーの分かってんだろうが。」

「俺がいれば大丈夫でしょ。五郎はスナイパーなのに珍しいよねー。」

「ボスの命令なんだからしょうがないだろ。そろそろ行くぞ。」

「ほーい。」

合流した三郎と五郎は銀座劇場に向かった。



CASE 五郎

劇場の前には堅いの良いガードマンが2人立っていた。

ここは人通りが多いから目立たないように退かさねーとな…。

そんな事を考えていると三郎がスタスタとガードマンに近寄って行った。

「あのっ、馬鹿!!」

タタタタタタッ!!!

「ここに用事があるんだけど、入っても良いですかー?」

「あ?何なんだお前。」

「ここの営業はもう終わってるんです。お引き取りを。」

ガードマンの1人が三郎に手を伸ばそうとした。

あ、コイツ終わった。

ゴキッ。

本来は曲がらない方向に腕が回っていた。

「う、うがっ。むぐっ!!」

三郎が素早く叫び出そうとしたガードマンの口を塞いだ。

「お、おい!?お前、何すー。」

俺は喋り出そうとしたもう1人のガードマンの首元にナイフを当てた。

歩いている人には見えないように角度を付けた。

「案内してくれるよねー?君達だってここで騒ぎは起こしたくないでしょ。」

さっきまで笑顔だった三郎は真顔でガードマンに話し掛けた。

ガードマン達の体がビクッと反応したのが分かった。

真顔の三郎はマジで怖い。

それが分かったのかガードマンは扉を開けた。

コイツがペアを組んで仕事をしに行くのは滅多にない。

連れて行くメンバーは大体が四郎だ。

四郎を指名して連れて行くか、1人で仕事に行くかのどっちかだ。

だけど、今回の任務の同行に三郎が俺を指名したらしい。

どんな意図で指名したのかは分からないけど。

「わ、分かった。」

キィィィ…。

三郎に腕を曲げられたガードマンが扉を開けた。

「ありがとー♪勿論、案内もしてくれるんだよね?」

カチャッ。

後ろを向いているガードマンの頭にに三郎の愛銃Cz75の銃口を突きつけていた。

「お、い。お前!!」

「お前も黙ってろ。喉仏を掻っ切るぞ。」

俺は低い声を出して少しだけガードマンの首を切った。

「ひ、ひぃ!!」

少し首を切っただけでビビりやがって…。

体だけは立派なのに。

俺と三郎はガードマンに武器を突き付けながら劇場の中に足を踏み入れた。

中に入ると沢山の荷物と、女子供の姿が見えた。

「も、もう。良いだろ!?な、中に入れたんだから…。」

三郎の方のガードマンが小声で呟いた。

「ねぇ、トイレどこ?」

「は?」

「聞こえなかった?トイレだよ?俺、トイレ行きたいなー。」

そう言って三郎は強くCz75の銃口を突き付けた。

「わ、分かったよ。」

俺達は自動的に男子トイレに向かった。

トイレはかなり奥にあり、人が通る気配はなかった。

プシュッ。

ブシャッ。

三郎がCz75を撃った瞬間、俺もガードマンの首元をナイフで切った。

バタンッ!!

ガードマンが床に倒れたと同時に、ガードマンが付けていたインカム等を破壊した。

バキッ!!

俺は回収組に連絡を入れようとスマホを取り出そうとしたが、三郎が俺の手を掴んだ。

「連絡はしてあるから大丈夫だよ♪それより、火傷の男の子がいなかったね。」

「おまっ、いつの間に連絡したんだよ??!それと、今の一瞬で分かったのか?」

「まぁね。俺、目は良い方だから♪」

そう、今回の任務は火傷の少年の回収と、女子供等の回収。

そして、ここにいる人間の排除だ。

三郎はいつの間に連絡したんだ?

ブブッ。

そんな事を考えていると、インカムが振動した。

「あと3分で回収組がくるから宜しく。掃除組は10分後に到着するからね。」

「了解。」

俺は愛銃であるコルトガバメントを取り出した。

「さ、会場に行こうか。もう開催しちゃってるみたいだしね。」

「了解。」

タタタタタタッ!!

俺と三郎は会場に向かった。

「そうだ。舞台裏から入ろう。」

「舞台裏から?」

「うん。正面から入ると男の子を人質にしそうだからね。そっちの方がめんどくさいし。」

三郎はヘラヘラしていてパッと見は馬鹿そうだけど、俺より仕事を沢山しているし、経験も多い。

こう言う所は、見習わないとなって思う。

「じゃあ、後は宜しくー。」

三郎はそう言って、右に曲がって行った。

「は?」

何だって?

ドタドダドタドタ!!

「侵入者だ!!」

前から5、6人のガードマンが走って来た。

三郎の野郎…、まさか!?

俺をダシに使いやがったのか!?

プッチンッ。

俺の中で何かが切れる音がした。

あの野郎、絶対に殺す!!!

だが、先に殺すのは…。

「コイツ等を殺してからアイツを殺す!!」

俺はそう言って、コルトガバメントの弾き金を引いた。



CASE 三郎


ドドドドドドドッ!!

「おっ、やってるやってる。」

後ろから聞こえる銃声を聞きながら舞台裏に向かっていた。

いつもは四郎を連れて行ってるから、仕事は早く終わるんだけどボスの命令だからなー。

五郎はスナイパーの仕事ばっかりだから、近距離戦でもやれるようにしろって…。

確かに、スナイパーって見つかったら終わりだし。
戦えた事に越した事はないよね。

四郎とはよくペアになって任務に行っていたからやり易いんだよなー。

そんな事を考えていると、舞台裏に繋がる扉を発見した。

ドアを開けると、仮面をした男と火傷の少年がいた。

やっぱり、売りが始まってたか。

金持ちの趣味って分かんないなー。

子供とか買って何が楽しいんだろ。

普通の快楽じゃ、満足しないから変な事をして刺激したいんだろうけど。

スンッ。

殺しのスイッチが入った。

俺はスタスタと舞台に向かって歩き出した。

仮面の男は俺の存在には気が付かないでペラペラ話を続けている。

少年は泣き腫らした目で、遠くを見つめていた。

"絶望の表情"。

この顔は沢山見ても見慣れない。

「ねぇ、君はさ?洋食か和食どっちが好き?」

「誰なんですか!?」

「そんな事はどうでも良いからさ。さっさと答えろよ。」

仮面の男は少し考えた後に「和食…?」と答えた。

「そっかぁー。」

俺は笑いながら刀袋から刀を抜いた。

妖刀"村正(むらまさ)"。

ボスから貰った刀で凄く気に入っている。

特に斬り味が最高なんだ。

「じゃあ、こっちで殺してあげるよ。」

「あ、貴方は誰ですか!?こ、ここにどうやっ…。ギャァァァァァァァ!!!」

俺は仮面の男の肩に、刀を振り下ろした。

グシャ!!

ドタドダドタドタ!!

「おい、三郎!!テメェ、俺をハメやがったな!?」

「あれー?和食が好きだって言ったから和の方で殺してあげたのになー。」

「無視かよ、さっさと仕事しろや。遊んでんじゃねーよ。」

「えー!!遊んでないよー。真面目だなー。」

「テメェ…。おちょくってんのか。」

「あ、これってカメラじゃない?」

俺は舞台前にあるカメラに向かって手を振った。

「もしもーし?そこにいる金持ち変態達、俺の姿が見えてるかなー?」

「お前、何してんの?」

五郎は少年を抱き上げながら俺に声を掛けて来た。

少年がキラキラした目で俺を見つめてる。

俺は適当に話した後、カメラの向こう側にいる一郎に合図した後、カメラを破壊した。

「お兄ちゃん達は…、ヒーローなの?」

少年はカラカラになった声で呟いた。

ヒーローか…。

俺達は人に誇れるような事をして来てはいないだろう。

だけど、この子からしたら俺達はヒーローなんだろう。

俺は睡眠薬入りの飴玉をポケットから取り出した。

「飴は好き?」

「え?う、うん。」

「じゃあ、口を開けて。」

俺がそう言うと、少年は素直に口を開けた。

いちごミルク味の飴を口にの中に入れた。

少年は暫く飴を舐めた後、ゆっくりと瞼を閉じた。

「寝たな。」

「だね。この子にはさっき見た光景と俺達の事は記
憶から消して貰わなきゃね。」

俺は少年の髪を撫でながら言葉を吐いた。

「覚えてなくて良いからな、あんな光景は…。」

五郎はそう言って、観客席の方を見た。

ブー、ブー、ブー。

ポケットに入れていたスマホが鳴った。

スマホを取り出すと、着信相手は"BOSS"からだった。

「もしもーし、お疲れ様です。」

「ご苦労さん。五郎はしっかりやれたか。」

そう言われて、俺は五郎を上から下まで見た。

「あ?んだよ。」

怪我はないようだね…。

それと、少し返り血を浴びたくらいか。

「問題なかったみたいです。」

「そうか、なら良い。それと、今日はすぐに戻って来るように。メンバー全員に話がある。」

「全員にですか?分かりました。すぐに戻ります。」

俺の言葉を聞いたボスは電話を切った。

「戻るよ五郎。」

「何かあったのか?」

「ボスがすぐに戻るようにってさ。それと、メンバー全員に話があるみたい。」

「メンバー全員?」

何か、妙な胸騒ぎがするな…。

そんな事は五郎には言わずに、舞台を後にした。



三郎と五郎が任務終了後、一郎と二郎も任務を終了させていた。

映画館は血の海と化していた。

飛び散った血は鉄臭さを充満させ、床には死体が転がっていた。

「うわー、安物のスーツ着て来て正解だったな。」

二郎は返り血で汚くなったスーツを見てゲンナリしていた。

「今回の任務は汚れ仕事だったからな。安いスーツは幾らあっても足りないくらいだ。」

一郎はそう言って、血だらけになったジャケットを脱いだ。

「早くシャワー浴びたい…。」

ブー、ブー、ブー。

一郎のスマホが振動した。

一郎はスマホを確認すると、着信相手は"BOSS"からだった。

「もしもし、お疲れ様ですボス。」

「ゴミは片付いたか。」

「はい。今、終わった所です。」

「すぐに戻ってくれ。メンバー全員に話がある。」

「はい、分かりました。すぐに戻ります。」

「宜しく頼む。」

そう言って、ボスは電話を終わらせた。

「二郎、すぐに戻るぞ。」

「ボスが戻れって?」

「そうだ。メンバー全員収集らしい。」

「え、珍しっ。中々なくない?メンバー全員って。」

「よっぽどの事なんだろう。早く戻って、ボスが戻る前にシャワーを浴びるか。」

「賛成。」

一郎と二郎は足早に映画館を後にした。


カタカタカタカタ…!!!

大きなモニターが10枚と、パソコン数台を扱っている音が暗い部屋に響き渡っていた。

「はぁぁぁぁあ…。クソ眠い。」

綺麗な白金のボサボサな髪に、色素のない白い肌、髪と同じ白金の睫毛から見える薄茶色の瞳。

ラフなジャージ姿なのに美形なのが見て分かる。

そんな彼はHero Of Justice のメンバーであり、殺し屋NAMEは七海。

彼の仕事はハッキングや情報収集、アジト周辺の監視を1人でこなしてた。

七海の周りにはエナジードリンクの空になった缶が幾つか床に転がっていた。

彼は常に寝不足なのだ。

ブー、ブー、ブー。

七海のスマホが鳴り響いた。

七海は怠そうにスマホを取り、通話ボタンを押した。

「はい、こちら七海。」

「おう、七海。俺だが、少し良いか。」

七海は電話の主の声を聞いた瞬間、飛び上がった。

「ボ、ボス!?すいません!!失礼な声を出しました!!」

「いや、そんな事で謝らなくて良い。お前が忙しいのはよく分かっているからな。」

「恐れ要ります…。それよりボス。何か用事ですか?」

「あぁ、これからメンバー全員に話がある。そこに七海も同席して欲しい。」

「メンバー全員ですか?分かりました。メンバーが戻り次第、僕も合流します。」

「宜しく頼む。」

電話が切れた事を確認した七海はモニターに目を向けた。

「メンバー全員…って。何の話?」

七海は疑問も残しながら再び、仕事に戻った。



東京都港区中央区ー


CASE 四郎


ボスの電話を受けた後、俺は車を走らせていた。

アジト、つまりは俺達の住処に戻っている途中だ。

俺達のアジトの作りはかなり、いや、大分変わっている。

ミッドナイトタワーの立体駐車場に入り、車ごと地下に降りるエレベーターに乗った。

この、ミッドナイトタワーはボスが所有している物だ。

俺達の住処もボスが用意してくれた物だ。

ウィーン…。

エレベーターは地下2階まで降りた。

ポーン…。

エレベーターが開き、俺は駐車場に車を止めた。

車を止めた後、立ち入り禁止と書かれた扉を開けた。

キィィィ…。

扉を開けると、長い廊下が現れた。

俺はいつものように廊下を歩き続け、現れた大きな扉にパスワードを入力した。

ウィーン。

扉が開き、俺は扉を潜った。

扉を潜ると、大きな玄関スペースに靴を脱ぎ部屋の中に足を踏み入れた。

部屋の中はボスの趣味である高級な家具とドライフラワーが壁に飾られていて、観葉植物も幾つか飾られていた。

白と黒が多い部屋で、俺達7人の部屋も用意されている。

リビングの扉を開けると、黒皮の大きなソファーに座っている七海の姿が目に入った。

「お帰りー。四郎が1番だね。」

七海の右手の人差し指にギリシャ数字のVIIが彫られていた。

俺も右手の人差し指にIVが彫られている。

これは俺達が仲間である証とHero Of Justiceである証。

ボスの知り合いの彫り師が彫ってくれた物だ。

「コーヒー飲む?」

「あぁ。」

俺の言葉を聞いた七海は広いキッチンに行き、コーヒーを淹れ始めた。

ポケットに閉まっていた煙草を咥えようとした時、玄関が開いた。