同時刻ー

東京新宿 ヒルトン東京

栗色の髪を緩く後ろでまとめていて、色白な肌に真っ赤な口紅が良く映えている。

長いまつ毛から色素の薄い茶色の瞳が見える。

背中が大きく開いたマーメイドラインの黒いドレスを着た女が、ホテル内にあるバーの扉に手を掛けた。

キィィィ…。

「いらっしゃいませ、レディ。お待ちしておりました。」

ダンディーなバーテンダーが女の姿を見て挨拶をした。

女はバーテンダーの案内に従いながらフロア内を歩いた。

アロマキャンドルが置いてあるテーブルに案内された女は引かれた椅子に腰を下ろした。

カツカツカツ。

革靴の足音が女が座っているテーブルに近付いて来る。

ガラステーブルの上に細長い指が置かれ、女は顔を上げた。

高級なスーツを着て髪を後ろに流した40代の男性が立っていた。


CASE 六郎

「待たせたね美鈴(みすず)。」

「全然。」

あたしはそう言って微笑むと、ターゲットが椅子に
腰を下ろした。

あたしの名前は勿論、美鈴ではない。

Hero Of Justiceに所属している殺し屋だ。

殺し屋Nameは六郎、右手には沢山のタトゥーがあるけど、化粧で隠している。

あたしの目の前にいるのはターゲットの小島隆(こじまたかし)45歳。

仕事は銀行の支店長で既婚者だが、裏では若い女性を食いまくっている糞男。

女性を無理矢理抱いた後に殺し、手首だけ切り落としてコレクションにしているサイコ野郎。

依頼者は殺された女性の父親からで、殺してくれとの事だ。

この男に接触するのは簡単だったな。

あたしはそう思いながらミリオン・ダラーを口に運んだ。

小島隆はオールドファッションドを飲んでいた。

そろそろ、小島隆が誘って来る頃だろうな。

そう思っていると、小島隆があたしの腰に手を回して来た。

「美鈴は本当に美しい女性だよ。俺が生きてきた中でも1番の女性だよ。」

小島隆は甘い言葉を吐きながら背中にスッと触れた。

来た来た…。

あたしは小島隆の耳元に口を近付け、こう囁いた。

「私も隆さんが1番ですよ。」

その言葉を聞いた小島隆は腰に置いていた手を肩に回して来た。

あたしは小島隆の肩に頭を置き「この後はどうするの?」と呟いた。

「部屋取ってある。今夜は君を離したくない。」

「私も離れたくない。」

そう言うと、小島隆はあたしの手を取りバーを出て
エレベーター前まで連れて行った。

エレベーターに乗り込み最上階まで上がる。

小島隆が最上階に部屋を取っている事は七海から聞いていたので把握済みだ。

チーン。

エレベーターが開き小島隆があたしの手を優しく引き、とある部屋の前まで誘導した。

小島隆が手慣れた手付きでカードキーを使って鍵を開けた。

扉が完全に閉まらないように、足元にあったスリッパを足を使って素早く扉に挟ませた。

小島隆はそんな事も知らずにヤル事しか考えていないようだ。

男と言う生き物は性欲には勝てない者だと思う。

小島隆はあたしに顔を近付けキスをしようとしてきた。

あたしは小島隆の唇を指で押さえ、耳元に口を近寄せた。

「キスはお風呂に入ってからのお楽しみにしましょ。隆さんから入って来て。」

「デザートは最後に取っておくべきだな。分かったよ、先にシャワー浴びてくるよ。美鈴はのんびりして待っていて。」

小島隆はそう言ってジャケットを椅子に掛けてから、シャワールームに入って行った。

あたしはシャワールームに入った事を確認した後、
扉に挟んだスリッパを外さないまま部屋を出てた。

取ってあった隣の部屋の鍵をポーチから取り出し扉を開けた。

ガチャッ。

「六郎、聞こえてる?」

ピアス型のイヤホンから七海の声が聞こえて来た。

「聞こえてる。小島隆の様子は?」

「大分、浮かれてるよ。20分は出て来ないよ。」

「あら、意外とゆっくり支度が出来そう。」

ここのホテルの従業員にあたし達の仕事に協力している従業員がいる為、小島隆が泊まる部屋のお風呂場にカメラを仕込んで貰った。

七海がイヤホンを通してパソコンで小島隆の様子を監視して貰っている。

「また、終わったら連絡するわ。」

「了解。」

ブチッ。

接続が切れた事を確認し、ベットの下から黒色のアタッシュケースを取り出した。

カチャッ。

アタッシュケースの中から大鉈を取り出した。

全身890mm、刀厚15mm、厚さ85mm、重さ642kg
持ち手が日本刀ようなデザインで、全体の色は黒色。

それと、ボスがプレゼントしてくれた愛銃デザートイーグル50AEに、首元と袖元がレースの黒いタイト
ワンピースが入っている。

あたしはドレスを脱ぎワンピースに着替え、大鉈を持った。

ウィッグはあえてしたままにした。

時計を見ると丁度、20分になる前だった。

あたしは気配を消しながら隣の部屋に戻り、小島隆の背後に立てる位置に移動した。

カチャッ。

バスローブ姿の小島隆が出て来た。

「美鈴?どこにいるんだい?」

小島隆はキョロキョロしながらあたしの事を探し始めた。

「ッチ、あの女…。逃げやがったか?中々の上玉だったのに。」

小島隆はさっきまでの優しい笑顔を消し、顔を醜く歪ませていた。

「クソが!!」

そう言って、小島隆は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。

ガシャンッ!!

音と同時に鉈を抜き、あたしは小島隆の首元に向かって振り下ろした。

「お命、頂戴します。」

「えっ?」

小島隆が振り返ろうとしたが、あたしが振り下ろした鉈の刃の方が早かった。

ブシャッ!!

ガンッ!!

あたしの髪に小島隆の血がべっとり付いた。

足元には小島隆の頭が転がって来た。


小島隆の顔は驚いたまま固まっていて、あたしは小島隆の頭を足で退けた。

ブー、ブー。

ポケットに入れていたスマホが鳴った。

スマホを取り出し着信相手を確認して見ると"BOSS"からだった。

ピッ。

「もしもし。」

あたしはウィッグを取り電話に出た。

電気に照らされたグリーンアッシュの髪はふわふわのパーマをかけてある。

「六郎、仕事は終わったか。」

「はい。今、終わった所です。」

「分かった。5分後に死体を回収しに来るから宜しく頼む。」

「分かりました。」

「それと、終わったらすぐに帰宅するように。」

「え?それはどうゆー。」

ブチッ。

あたしの言葉を聞かずにボスは通話を終了させた。

「どう言う事…?」



同時刻ー 

グランドシネマサンシャイン(東京)
日本で一番大きいスクリーンは東京池袋にあるグランドシネマサンシャインのIMAX/GTテクノロジーのあるシアター12。

その大きさは横25.8m×高さ18.9m
面積487.62 ㎡。


「どうぞ、お手を。」

男はそう言って、ドレスを着た女に手を差し出した。

茶髪ベースの髪に細かい金髪のメッシュが入っていて、全体は緩くパーマがかかっている。

深い緑色の瞳は世の女性誰もが虜になってしまう程の美しさだった。

「ありがとう健斗(けんと)♡。」

厚化粧を重ねた女が男の手を取り、体を密着させた。

男と女は映画館の部屋の中に入って行った。

勿論の事、男の名前は健斗ではない。

男はHero Of Justice の殺し屋で任務として、この映画館に潜入していた。

部屋の中には、高級なスーツやアクセサリー、ドレスを見に纏った中年男女が集まっていた。

各席には番号札が置かれていて、部屋に入った人達は番号札を探し席に座っていた。

「健斗は初めてよねぇ?ここに来るの。」

「はい。ここでは何が行われているのですか?マダム。」

男はこの部屋で何が行われているかは知っている。

だが、男は知らないフリをして女に尋ねた。

すると、女はいらやしい笑みを浮かべてから答えた。

「ふふふ。今から行われるのはね?かなりのマニアが集まるコレクションなのよ。」

「マニア?ですか?」

「もうすぐ始まるわ。見れば分かるわよ。」

カツカツカツ。

男と女の後ろを1人の男が通った。

鮮やかな緑色に染められた短髪の髪は器用に立たせていて、白い肌に色素の薄い茶色の目、耳には煌びやかなピアス、右手に彫られたタトゥーが目立つ。

男は会場にいる男達が誰も着ていない全身真っ黒なスーツを見事に着こなしていた。

そして、この男もまたHero Of Justice の殺し屋である。

2人はペアになってこの映画館にいる客達を殺すと言う任務をボスから課せられていたのだった。

ビー。

映画館に突然、音が鳴り響いた。

「皆様、大変長らくお待たせ致しました。これよりオークションが始まります。御来場の皆様はお持ちの番号札の席にお座り下さい。」

アナウンスを聞いた人々は各々、席に座り始めた。

「健斗は私の隣よ。さ、座りましょう。」

「はい。」

男と女は席に座わると、短髪の男も後ろの席に腰を下ろした。

ビー、ビー。

再び音が鳴り響くと、モニターに仮面を被った男とどこかの会場が映し出された。

「皆様、お待たせ致しました。これよりオークションを始めます。まず、一つ目はこちらで御座います。」

仮面の男がそう言うと、両手足を手錠で繋がれ目隠しをされた10歳の男の子が現れた。

大きめのTシャツから見える肌は火傷で爛(ただ)れていた。

「健康状態良き、歳は10歳になります。今朝頃のニュースに出た火事事件の生き残りの少年です。さぁ、100万円からスタートです。」

「105万!!」

「108万!!」

仮面の男の言葉を聞き終えた客達は、自分の番号札を持って次々に値段を言いあっている。

この映画館で行われているのは人身売買。

普通の子供ではなく、体にアザがある子や、事故で手や足を失った子供達が飼われていた。

金持ちばかりが集まったこの映画館は、熱気で熱くなっていた。

そんな中、2人だけは静かに周りを見ていた。



CASE 一郎


やっぱり、市場に売り出されていたか。

俺と二郎は人身売買が行われる会場、つまりは映画館に潜入していた。

俺達の仕事はこの映画館にいる金持ちを殺す事。

二郎の隣にいる女は男好きで、若ければ若い方が好みだ。

今、モニターに映し出された少年は他のメンバーが救出する予定だ。

ブブッ。

耳にはめているインカムが振動した。

「もしもし、こちら七海。映画館の扉ロック完了。1時間後に掃除屋が映画館に着く予定だから宜しく。」

「三郎達の方は問題ないか?」

「今の所は問題はないよ。そろそろ、モニターに三郎か五郎がチラッと映るんじゃない?」

七海の言葉は見事に的中した。

「あ、貴方は誰ですか!?こ、ここにどうやっ…。ギャァァァァァァァ!!!」

モニターに映っていた仮面の男が悲鳴を上げた。

それと同時に血飛沫が飛び出していた。

「え、え?」

「キャァァァァァア!!」

映画館は悲鳴と動揺の声で溢れ返った。

「あれー?和食が好きだって言ったから和の方で殺してあげたのになー。」

「さっさと仕事しろや。遊んでんじゃねーよ。」

「えー!!遊んでないよー。真面目だなー。」

「テメェ…。おちょくってんのか。」

「あ、これってカメラじゃない?」

モニターに映ったのは、艶やかな黒髪は襟足が肩より少し長めで、色白な肌に黒い瞳の垂れ目な男性が映った。

黒いライダースの間から見えるパステルピンクのドーナッツが刺繍されたシャツが印象的だ。

今、モニターに映っているのは三郎だ。

俺と同じHero Of Justiceに所属している殺し屋で、能天気な奴だが、仕事はかなり出来ると俺は思っている。

「もしもーし?そこにいる金持ち変態達、俺の姿が見えてるかなー?」

三郎はモニター側にいるお客達に向かって声を掛けて来た。

「な、何なんだ…。あの、男は!?」

「ひ、人を殺しているのに笑っているぞ…。」

「いや、もしかしたらこれは、余興なのかも知るないぞ?」

男の言葉を聞いた人々は、何故か納得していた。

コイツ等の頭はお花畑かよ…。

二郎の隣にいる女なんて、三郎を見てうっとりしているし…。

コイツ等の頭は、いや、常識がないんだ。

「あれ?これ余興だと思ってる?アハハハ!!君達にとっては最後の余興かもしれないよね?」

三郎はそう言って、ウィンクして来た。

俺と二郎に向けてだろう。

二郎が後ろを振り向き、目で合図をして来た。

そろそろ仕事をしますか。

俺は愛銃であるデザートイーグル50AEを取り出し、隣の席の男の頭に向かって銃口を向けた。

男は俺の視線には気付かずにモニターを見ていた。

俺は弾き金を弾き銃弾を放った。

パシュッ。

デザートイーグル50AEには、サイレンサーを着けているから発砲音は出ない。

ビチャァァ…。

撃たれた男の隣にいた女の顔にベットリと返り血が付いた。

女は恐る恐る顔に触れ、指に付いたモノに視線を向けた。

「い、いやぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」

俺は叫ぶ女の額に向かって銃弾を放った。

「うるせーな。少し静かにしてくれ。」

「相変わらず派手だねー。」

二郎はそう言ってからゆっくりと、立ち上がり二郎の愛銃Five-seveNを取り出した。

「僕もお仕事しますかね。」

二郎は優しい笑みを浮かべながら呟いた。