降り頻る雨を避けながら最大速度で西牛貨州に向かった。
クッソ!!
牛魔王が俺を裏切るなんて思っていなかった!!
よりによって俺が爺さんと離れている時に不老不死の巻き物を取りに行くなんて…。
アイツの頭が良かった事を忘れていた。
牛魔王は…、はなから俺の事なんてなんとも思ってなかったんだ。
いつまで経っても俺が戻って来ないからか。
ゴロゴロゴロッ!!
雷の唸る音が空に響いた。
妙な胸騒ぎがする…。
早く爺さんの所に戻らないと…。
西牛貨州 霊台方寸山 斜月三星洞ー
牛魔王達は静かに須菩提祖師のいる寺に向かっていた。
引き連れて来た牛魔王の手下の妖達の数は60。
その中には六大魔王は含まれていない。
「牛魔王様…、ご覧下さい。」
お面を付けた妖が斜月三星洞の入り口を指差した。
斜月三星洞の中に入れないように結界が張られていた。
水色の薄い壁が入り口に立っていた。
牛魔王がソッと指で結界に触れた。
ビリビリビリッ!!
牛魔王の指に電流が走った。
「牛魔王様!?大丈夫ですか!?」
「あぁ。壊せない結界じゃない。」
そう言って、牛魔王は自分の影を槍の形にし結界の壁を破壊し始めた。
キンキンキンッ!!
少しずつ結界の壁に亀裂が入って行き、亀裂が広がり脆くなった結界の壁は音を立てて破壊された。
パリーンッ!!
粉々になった結界の破片が牛魔王の周りでキラキラと輝いていた。
「さぁ、行こうか。」
牛魔王達は斜月三星洞に足を踏み入れた。
蛍の光に照らされながら牛魔王達は足を進めていた。
「六大魔王の皆様もお連れしなくて良かったのですか?相手は須菩提祖師ですよ?」
牛魔王の後ろを歩いていた妖の1人が牛魔王に尋ねた。
「だからお前達にこの武器を持たせたろ?」
そう言って牛魔王が指を差した物は、連れて来た妖達の腰に下げてある剣や背中に背負っている盾だ。
妖達は頭を悩ませてから皆、ハッとした。
牛魔王が何故、宮殿に侵入してまでこの剣と盾を取って来たのかを妖達は理解したのだ。
あらゆる攻撃を弾く剣と盾の使い道は須菩提祖師から不老不死の巻き物を奪い取る為に必要な物だったからだ。
つまり、あらゆる攻撃を弾くと言う事は術師の技さえも弾いてしまうのだ。
牛魔王は美猿王に会う前からこの計画を立てていたのだ。
全ての出来事は牛魔王の計算だった。
須菩提祖師と美猿王が会った事も牛魔王の作ったシナリオだと言う事は牛魔王だけしか知らない事。
牛魔王達が斜月三星洞を出ると、須菩提祖師を先頭に30人程の坊さん達が錫杖を持って鳥居の周りを包囲していた。
鳥居全体に結界札が貼られ、須菩提祖師の弟子達も戦闘準備を済ませている状態だった。
「妖達がこんな所に何の用事か。」
須菩提祖師が牛魔王に尋ねた。
「1つしかありませんよ須菩提祖師。貴方の持っている不老不死の巻き物を俺に下さい。」
牛魔王はニッコリしながら須菩提祖師の問いに応えた。
「それは出来ない相談ですね。わしの弟子の友人である牛魔王が残念だ。」
須菩提祖師がそう言って手を軽く振るうと30人の坊さん達が一斉に指を素早く動かした。
すると、光の無数の刃が現れ牛魔王達の方向に刃が向いた。
「美猿王の事を高く買っているようだな須菩提祖師。」
「その名前は捨てたのじゃよ牛魔王。彼の名前は孫悟空。のちに、この世界を変える男の名じゃ。」
須菩提祖師がそう言うと柔らかい表情をしていた牛魔王の顔が歪んだ。
「この世界を変えるのが美猿王だと?お前はアイツに姓を与えたのか。」
人間が妖に姓を与えると言う事は今まで一度も無かった事。
名前を与えると言う事は血よりも深い絆の証。
「お前さんにはこの世界を変える事は出来ないよ。自分の事しか考えていない牛魔王じゃ悟空には勝てない。」
須菩提祖師がそう言うと牛魔王の影が恐ろしい表情をした龍の形に変わった。
「取り消せ。」
「え?」
牛魔王の小さな声で聞こえなかった須菩提祖師が聞き返すと、牛魔王が大きな声を上げた。
「取り消せって言ったんだよ!?俺があの猿に勝てない?ふざけるんじゃねぇぞジジィ。」
牛魔王の陰が須菩提祖師に向かって行った。
「放て!!」
須菩提祖師の掛け声と共に無数の光の刃が牛魔王達に向かって降り注いだ。
影と武器、光の刃の打つかる音が空気を震わせた。
才や建水、楚平は体の震えを止める事が出来ていなかった。
「美猿王さん…。早く帰って来てください。」
才が涙を流して小さく呟いた。
孫悟空 十八歳
ゾワゾワッ!!
身体中に鳥肌が立った。
この感じ…は。
「妖の気配が多い。爺さんの寺の鳥居が見えた!!」
俺は鳥居に向かおうとした時、体にビリビリッと痺れを感じた。
「な、なんだ?結界?」
周りを見て見ると、寺を包茎するように薄い水色の円型の結界が貼られいた。
「結界が貼られてる…って事はやっぱり、牛魔王達が攻めて来たのか。」
とにかく、早く爺さんと合流しねぇ…と。
俺は如意棒を取り出した。
そして長さを元の大きさに戻し結界に向かって如意棒を振り上げた。
バキバキバキッ!!!
結界が音を立てながら破壊された。
パリーンッ!!
結界の破片が落ちると共に俺も寺の中に侵入した
と同時に筋斗雲の術が解けてしまった。
「ゴォォォォォォォ!!」
落下している俺を狙って影の龍が大きな口を開けて向かって来た。
「ッチ!!おっらぁぁぁぁ!!」
俺は如意棒を大きくし、勢いよく振り上げ影の龍の頭を叩き付けた。
ゴンッ!!
硬い物を叩いたような感覚がした。
影の龍が大きく揺れ地面に勢いよく倒れ込んだ。
ガシャーンッ!!
俺は如意棒の長さを長くし地面に突き刺した。
突き刺さった事を確認してから慎重に地面に降りた。
ツン…。
鼻に嫌な匂いが届いた。
俺はこの匂いを何度も嗅いだ事があった。
周りを見ると、妖と坊さん達の血塗れの死体が転がっていた。
「嘘…だろ。間に合わなかったのか…?」
牛魔王と爺さんの姿が見えなかった。
「とにかく爺さんを探さないと…。」
ガシッ!!
誰かが俺の足を掴んだ。
視線を足元に向けると、血塗れの才だった。
「び…こおう…さん。」
「才!!」
俺は才を抱き起こした。
「よか…た。来て…くれて…ゴホゴホッ!!」
才は咳をしながら血を吐いた。
「しっかりしろよ才!!」
「ぎゅ…あおう…達はて、寺の中に…。わたしじゃ…と、止められなか…っ。」
才の瞳からは大粒の涙が流れた。
「もう喋るな!傷口が開くぞ。」
こんな事を言っても才が助からないのは分かってる。
俺は才を助けてやりたい。
だけど、どうしたら良い?
呼吸が小さくなって行く才をただ、抱き締める事しか出来ない。
「須菩提祖師殿を頼みます。」
才はそう言って俺に精一杯の笑顔を見せた。
「任せろ。お前の気持ちを無駄にはしねぇよ。」
俺の言葉を聞いた才は眠った。
降り頻る雨は俺の涙さえも流す。
血と雨が地面を染めた。
俺は才を優しく地面に置き、寺の中に向かった。
バンッ!!
扉を勢いよく開けると牛魔王の連れて来た数人の妖が振り返った。
「び、美猿王!?」
「美猿王が来たぞ!!!」
妖達が持っている武器に見に覚えがあった。
あの武器は…宮殿から取って来た物だ。
この時の為に取りに行った…って事か。
あらゆる攻撃を弾く剣と盾。
だったら…、分身術を使い如意棒で戦うしかねぇな。
「お前等に構ってる時間がねーんだよこっちは。」
シュシュシュシュッ!!
俺はそう言って素早く指を動かした。
ポポポポポッ!!
俺は妖達の人数と同じ数の分身を出した。
「な!?美猿王がいっぱい?!」
「どれが本物なのか分からないぞ!!」
妖達は俺の分身を見て困惑していた。
「さっさと道を開けろ!!!」
俺は大声を出して走り出した。
バキバキバキッ!!
「ギャァァァァァ!!」
「や、やめろぉぉぉ!!!」
骨の折れる音と悲鳴が交差する。
俺は無我夢中に如意棒を振るい続けた。
立派な武器を持っていながら、まったく使いこなせていない妖達は戦うに足りない相手だった。
動きが遅い分、攻撃がしやすい。
俺は遅い攻撃を避け、素早く如意棒を妖の後頭部に
叩き付けるの繰り返し。
「はぁ…、はぁ…。」
数人の妖を倒したの確認し、上がった息を整えた。
ポポポポポッ!!
術が解けたか…。
連続で分身術と筋斗雲を出したのは体力的にキツイ。
早く爺さんの所へ行かねーと。
俺は長い廊下を走り出した。
ダダダダダダダッ!!
どこにいんだよ爺さん!!
色んな部屋を見て回ったが、爺さんと牛魔王の姿が
どこにも見当たらない。
ドゴォォォーン!!!
前方から襖が勢いよく飛んで来た。
「建水、楚平!!逃げなさい!!」
爺さんの声が聞こえて来た。
建水と楚平が外に吹き飛ばされたのが見えた。
建水の手には巻き物が握られていた。
あれは…、不老不死の巻き物か!?
「巻き物を寄越せ!!!」
そう言って牛魔王が部屋から出て来た。
牛魔王!!
牛魔王が影を操り建水と楚平に攻撃しようとしていた。
間に合え俺の足!!!
俺は全速力で2人の元に向かった。
「「うわぁぁぁぁあ!!」」
建水と楚平は抱き合って叫び声を上げた。
ドゴォォォーン!!!
「ん…っ。」
「い、痛くない?」
建水と楚平は自分達の体に痛みがないのを不思議に思い閉じていた瞳を開けた。
目の前にはずっと帰りを待っていた人の背中が見えた。
黒い影を如意棒で受け止めているあの人の姿が。
「「美猿王さん!!!」」
「間に合っ…たな。牛魔王!!!」
意地悪な笑みを浮かべた孫悟空が牛魔王の攻撃を如意棒で受け止めていたのだ。
「帰って来たのか美猿王!!!」
「牛魔王。テメェのする事は俺が止める。俺の名前は美猿王じゃない。孫悟空だ!!!覚えとけ!!!」
そう言って孫悟空は如意棒を牛魔王に振り上げた。
「ハッ!!お前は俺に勝てないだよ!!!」
牛魔王も同時に影を操い、如意棒の動きを止めた。
キンキンキンッ!!
如意棒と影の刃ぶつかり合った。
孫悟空と牛魔王の動きは互角だった。
どちらも素早い動きで攻撃を止めては攻撃をするの繰り返し。
「悟空!!」
須菩提祖師が牛魔王が出て来た部屋から姿を出した。
「爺さん!!ソイツ等連れて逃げろ!!」
「お前さんはどうするんだ!!」
「俺は牛魔王の相手をするのに精一杯なんだよ!!」 後で合流すっから行け!!」
孫悟空が須菩提祖師にそう言うと、須菩提祖師は建水と楚平の元に向かった。
「いつからお優しくなったのかな美猿王!!」
「お前には関係ないだろ!!!」
キンキンキンッ!!!
牛魔王の影の刃が容赦なく孫悟空を襲う。
体力のない孫悟空は攻撃を止めるのが精一杯だった。
須菩提祖師達を守りながら戦う余力が残っていなかったのだ。
須菩提祖師達が外に出ようとしてのを牛魔王は見逃さなかった。
牛魔王は影の中に潜り須菩提祖師達の元に向かった。
「ッ!!待て!!!」
孫悟空は動く影を追った。
「す、須菩提祖師殿!!牛魔王が影に潜ってこちらに来ます!!!」
楚平が須菩提祖師を庇うように前に出た。
「下がりなさい楚平!!」
須菩提祖師がそう言うと影の中から牛魔王が現れた。
「お前等まとめて殺してやるよ。」
そう言って牛魔王は腰に下げていた剣を取り出し、剣を振り上げた。
「楚平!!!」
「やめろ!!!」
須菩提祖師の声と建水の声が重なる。
楚平は強く瞼を閉じた。
ブジャァァァァ!!
「な、何で…?」
最初に声を出したのは建水だった。
須菩提祖師は目の前の光景から目を離せなかった。
楚平は体の痛みがないのを不思議に思い瞳を開けた。
目の前にいたのは沢山の血を流している孫悟空の姿だった。
楚平を庇って斬られたのは孫悟空だった。
「悟空ー!!!」
須菩提祖師の大きな声が寺中に響いた。
クッソ!!
牛魔王が俺を裏切るなんて思っていなかった!!
よりによって俺が爺さんと離れている時に不老不死の巻き物を取りに行くなんて…。
アイツの頭が良かった事を忘れていた。
牛魔王は…、はなから俺の事なんてなんとも思ってなかったんだ。
いつまで経っても俺が戻って来ないからか。
ゴロゴロゴロッ!!
雷の唸る音が空に響いた。
妙な胸騒ぎがする…。
早く爺さんの所に戻らないと…。
西牛貨州 霊台方寸山 斜月三星洞ー
牛魔王達は静かに須菩提祖師のいる寺に向かっていた。
引き連れて来た牛魔王の手下の妖達の数は60。
その中には六大魔王は含まれていない。
「牛魔王様…、ご覧下さい。」
お面を付けた妖が斜月三星洞の入り口を指差した。
斜月三星洞の中に入れないように結界が張られていた。
水色の薄い壁が入り口に立っていた。
牛魔王がソッと指で結界に触れた。
ビリビリビリッ!!
牛魔王の指に電流が走った。
「牛魔王様!?大丈夫ですか!?」
「あぁ。壊せない結界じゃない。」
そう言って、牛魔王は自分の影を槍の形にし結界の壁を破壊し始めた。
キンキンキンッ!!
少しずつ結界の壁に亀裂が入って行き、亀裂が広がり脆くなった結界の壁は音を立てて破壊された。
パリーンッ!!
粉々になった結界の破片が牛魔王の周りでキラキラと輝いていた。
「さぁ、行こうか。」
牛魔王達は斜月三星洞に足を踏み入れた。
蛍の光に照らされながら牛魔王達は足を進めていた。
「六大魔王の皆様もお連れしなくて良かったのですか?相手は須菩提祖師ですよ?」
牛魔王の後ろを歩いていた妖の1人が牛魔王に尋ねた。
「だからお前達にこの武器を持たせたろ?」
そう言って牛魔王が指を差した物は、連れて来た妖達の腰に下げてある剣や背中に背負っている盾だ。
妖達は頭を悩ませてから皆、ハッとした。
牛魔王が何故、宮殿に侵入してまでこの剣と盾を取って来たのかを妖達は理解したのだ。
あらゆる攻撃を弾く剣と盾の使い道は須菩提祖師から不老不死の巻き物を奪い取る為に必要な物だったからだ。
つまり、あらゆる攻撃を弾くと言う事は術師の技さえも弾いてしまうのだ。
牛魔王は美猿王に会う前からこの計画を立てていたのだ。
全ての出来事は牛魔王の計算だった。
須菩提祖師と美猿王が会った事も牛魔王の作ったシナリオだと言う事は牛魔王だけしか知らない事。
牛魔王達が斜月三星洞を出ると、須菩提祖師を先頭に30人程の坊さん達が錫杖を持って鳥居の周りを包囲していた。
鳥居全体に結界札が貼られ、須菩提祖師の弟子達も戦闘準備を済ませている状態だった。
「妖達がこんな所に何の用事か。」
須菩提祖師が牛魔王に尋ねた。
「1つしかありませんよ須菩提祖師。貴方の持っている不老不死の巻き物を俺に下さい。」
牛魔王はニッコリしながら須菩提祖師の問いに応えた。
「それは出来ない相談ですね。わしの弟子の友人である牛魔王が残念だ。」
須菩提祖師がそう言って手を軽く振るうと30人の坊さん達が一斉に指を素早く動かした。
すると、光の無数の刃が現れ牛魔王達の方向に刃が向いた。
「美猿王の事を高く買っているようだな須菩提祖師。」
「その名前は捨てたのじゃよ牛魔王。彼の名前は孫悟空。のちに、この世界を変える男の名じゃ。」
須菩提祖師がそう言うと柔らかい表情をしていた牛魔王の顔が歪んだ。
「この世界を変えるのが美猿王だと?お前はアイツに姓を与えたのか。」
人間が妖に姓を与えると言う事は今まで一度も無かった事。
名前を与えると言う事は血よりも深い絆の証。
「お前さんにはこの世界を変える事は出来ないよ。自分の事しか考えていない牛魔王じゃ悟空には勝てない。」
須菩提祖師がそう言うと牛魔王の影が恐ろしい表情をした龍の形に変わった。
「取り消せ。」
「え?」
牛魔王の小さな声で聞こえなかった須菩提祖師が聞き返すと、牛魔王が大きな声を上げた。
「取り消せって言ったんだよ!?俺があの猿に勝てない?ふざけるんじゃねぇぞジジィ。」
牛魔王の陰が須菩提祖師に向かって行った。
「放て!!」
須菩提祖師の掛け声と共に無数の光の刃が牛魔王達に向かって降り注いだ。
影と武器、光の刃の打つかる音が空気を震わせた。
才や建水、楚平は体の震えを止める事が出来ていなかった。
「美猿王さん…。早く帰って来てください。」
才が涙を流して小さく呟いた。
孫悟空 十八歳
ゾワゾワッ!!
身体中に鳥肌が立った。
この感じ…は。
「妖の気配が多い。爺さんの寺の鳥居が見えた!!」
俺は鳥居に向かおうとした時、体にビリビリッと痺れを感じた。
「な、なんだ?結界?」
周りを見て見ると、寺を包茎するように薄い水色の円型の結界が貼られいた。
「結界が貼られてる…って事はやっぱり、牛魔王達が攻めて来たのか。」
とにかく、早く爺さんと合流しねぇ…と。
俺は如意棒を取り出した。
そして長さを元の大きさに戻し結界に向かって如意棒を振り上げた。
バキバキバキッ!!!
結界が音を立てながら破壊された。
パリーンッ!!
結界の破片が落ちると共に俺も寺の中に侵入した
と同時に筋斗雲の術が解けてしまった。
「ゴォォォォォォォ!!」
落下している俺を狙って影の龍が大きな口を開けて向かって来た。
「ッチ!!おっらぁぁぁぁ!!」
俺は如意棒を大きくし、勢いよく振り上げ影の龍の頭を叩き付けた。
ゴンッ!!
硬い物を叩いたような感覚がした。
影の龍が大きく揺れ地面に勢いよく倒れ込んだ。
ガシャーンッ!!
俺は如意棒の長さを長くし地面に突き刺した。
突き刺さった事を確認してから慎重に地面に降りた。
ツン…。
鼻に嫌な匂いが届いた。
俺はこの匂いを何度も嗅いだ事があった。
周りを見ると、妖と坊さん達の血塗れの死体が転がっていた。
「嘘…だろ。間に合わなかったのか…?」
牛魔王と爺さんの姿が見えなかった。
「とにかく爺さんを探さないと…。」
ガシッ!!
誰かが俺の足を掴んだ。
視線を足元に向けると、血塗れの才だった。
「び…こおう…さん。」
「才!!」
俺は才を抱き起こした。
「よか…た。来て…くれて…ゴホゴホッ!!」
才は咳をしながら血を吐いた。
「しっかりしろよ才!!」
「ぎゅ…あおう…達はて、寺の中に…。わたしじゃ…と、止められなか…っ。」
才の瞳からは大粒の涙が流れた。
「もう喋るな!傷口が開くぞ。」
こんな事を言っても才が助からないのは分かってる。
俺は才を助けてやりたい。
だけど、どうしたら良い?
呼吸が小さくなって行く才をただ、抱き締める事しか出来ない。
「須菩提祖師殿を頼みます。」
才はそう言って俺に精一杯の笑顔を見せた。
「任せろ。お前の気持ちを無駄にはしねぇよ。」
俺の言葉を聞いた才は眠った。
降り頻る雨は俺の涙さえも流す。
血と雨が地面を染めた。
俺は才を優しく地面に置き、寺の中に向かった。
バンッ!!
扉を勢いよく開けると牛魔王の連れて来た数人の妖が振り返った。
「び、美猿王!?」
「美猿王が来たぞ!!!」
妖達が持っている武器に見に覚えがあった。
あの武器は…宮殿から取って来た物だ。
この時の為に取りに行った…って事か。
あらゆる攻撃を弾く剣と盾。
だったら…、分身術を使い如意棒で戦うしかねぇな。
「お前等に構ってる時間がねーんだよこっちは。」
シュシュシュシュッ!!
俺はそう言って素早く指を動かした。
ポポポポポッ!!
俺は妖達の人数と同じ数の分身を出した。
「な!?美猿王がいっぱい?!」
「どれが本物なのか分からないぞ!!」
妖達は俺の分身を見て困惑していた。
「さっさと道を開けろ!!!」
俺は大声を出して走り出した。
バキバキバキッ!!
「ギャァァァァァ!!」
「や、やめろぉぉぉ!!!」
骨の折れる音と悲鳴が交差する。
俺は無我夢中に如意棒を振るい続けた。
立派な武器を持っていながら、まったく使いこなせていない妖達は戦うに足りない相手だった。
動きが遅い分、攻撃がしやすい。
俺は遅い攻撃を避け、素早く如意棒を妖の後頭部に
叩き付けるの繰り返し。
「はぁ…、はぁ…。」
数人の妖を倒したの確認し、上がった息を整えた。
ポポポポポッ!!
術が解けたか…。
連続で分身術と筋斗雲を出したのは体力的にキツイ。
早く爺さんの所へ行かねーと。
俺は長い廊下を走り出した。
ダダダダダダダッ!!
どこにいんだよ爺さん!!
色んな部屋を見て回ったが、爺さんと牛魔王の姿が
どこにも見当たらない。
ドゴォォォーン!!!
前方から襖が勢いよく飛んで来た。
「建水、楚平!!逃げなさい!!」
爺さんの声が聞こえて来た。
建水と楚平が外に吹き飛ばされたのが見えた。
建水の手には巻き物が握られていた。
あれは…、不老不死の巻き物か!?
「巻き物を寄越せ!!!」
そう言って牛魔王が部屋から出て来た。
牛魔王!!
牛魔王が影を操り建水と楚平に攻撃しようとしていた。
間に合え俺の足!!!
俺は全速力で2人の元に向かった。
「「うわぁぁぁぁあ!!」」
建水と楚平は抱き合って叫び声を上げた。
ドゴォォォーン!!!
「ん…っ。」
「い、痛くない?」
建水と楚平は自分達の体に痛みがないのを不思議に思い閉じていた瞳を開けた。
目の前にはずっと帰りを待っていた人の背中が見えた。
黒い影を如意棒で受け止めているあの人の姿が。
「「美猿王さん!!!」」
「間に合っ…たな。牛魔王!!!」
意地悪な笑みを浮かべた孫悟空が牛魔王の攻撃を如意棒で受け止めていたのだ。
「帰って来たのか美猿王!!!」
「牛魔王。テメェのする事は俺が止める。俺の名前は美猿王じゃない。孫悟空だ!!!覚えとけ!!!」
そう言って孫悟空は如意棒を牛魔王に振り上げた。
「ハッ!!お前は俺に勝てないだよ!!!」
牛魔王も同時に影を操い、如意棒の動きを止めた。
キンキンキンッ!!
如意棒と影の刃ぶつかり合った。
孫悟空と牛魔王の動きは互角だった。
どちらも素早い動きで攻撃を止めては攻撃をするの繰り返し。
「悟空!!」
須菩提祖師が牛魔王が出て来た部屋から姿を出した。
「爺さん!!ソイツ等連れて逃げろ!!」
「お前さんはどうするんだ!!」
「俺は牛魔王の相手をするのに精一杯なんだよ!!」 後で合流すっから行け!!」
孫悟空が須菩提祖師にそう言うと、須菩提祖師は建水と楚平の元に向かった。
「いつからお優しくなったのかな美猿王!!」
「お前には関係ないだろ!!!」
キンキンキンッ!!!
牛魔王の影の刃が容赦なく孫悟空を襲う。
体力のない孫悟空は攻撃を止めるのが精一杯だった。
須菩提祖師達を守りながら戦う余力が残っていなかったのだ。
須菩提祖師達が外に出ようとしてのを牛魔王は見逃さなかった。
牛魔王は影の中に潜り須菩提祖師達の元に向かった。
「ッ!!待て!!!」
孫悟空は動く影を追った。
「す、須菩提祖師殿!!牛魔王が影に潜ってこちらに来ます!!!」
楚平が須菩提祖師を庇うように前に出た。
「下がりなさい楚平!!」
須菩提祖師がそう言うと影の中から牛魔王が現れた。
「お前等まとめて殺してやるよ。」
そう言って牛魔王は腰に下げていた剣を取り出し、剣を振り上げた。
「楚平!!!」
「やめろ!!!」
須菩提祖師の声と建水の声が重なる。
楚平は強く瞼を閉じた。
ブジャァァァァ!!
「な、何で…?」
最初に声を出したのは建水だった。
須菩提祖師は目の前の光景から目を離せなかった。
楚平は体の痛みがないのを不思議に思い瞳を開けた。
目の前にいたのは沢山の血を流している孫悟空の姿だった。
楚平を庇って斬られたのは孫悟空だった。
「悟空ー!!!」
須菩提祖師の大きな声が寺中に響いた。