『蒼』を後部座席に乗せて、わたしと迅さんは帰路についていた。
「ねぇ、迅さん」
「ん?」
もう、敬語である必要はない。
だって恋人なのだから。
「迅さんは、自由?」
「依茉は?」
聞き返された。迅さんらしいけれど。
「自由かどうかは分からない。けど、しあわせ」
「ならいいじゃん」
ずっと息苦しかった。
足りない何かを探していた。
自由を求めていた。
でもそれは、現実から逃げる口実だった。
わたしの心は、迅さんによって掻き乱された。ぐちゃぐちゃになった。ゼロになった。
でもそれで、気づけた。
大切な家族。大好きな人。失いたくないもの。
わたしのつけた傷跡はまだ痛むけれど、わたしはこの傷と一緒に歩んでいくんだ。
「わたし、誰かの役に立てる人になりたいな」
「依茉らしいな」
車の窓を開ける。夏の風が吹き込んでくる。
「迅さんは、わたしの太陽だよ!」
わたしは笑った。迅さんは照れながらも笑ってくれた。
あの辛かった日々よりも、少しだけ息がしやすくなった気がした。