「うん。小田切くんが取り憑かれやすい体質でも今まで大事(おおごと)になってなかったの、小田切くんの守護霊が、すごい強い存在だからだと思うよ」

月音が手を離したので、煌はなんとはなしに自分の手を見る。

幼い頃から霊感は強かったけど……。

「そ……そうなの? 自分の守護霊とか見たことないからわからないんだけど……」

煌が不安げに言うと、碧人が口を開いた。

「確かに、私たちにすごく圧をかけているよ。『婿にして煌を大変な目に遭わせたらゆるさない』って堂々と言ってくる」

「ええっ!? そんなこと言ってるんすか!? お、俺の守護霊さん? 大丈夫だよ?」

「『煌、不安な心は隠さなくていい。陰陽師になど関わらなくても私が護ろう』と言っている」

「いや婿にはいかせてほしいんだけど! うちの家族も俺が説得するからっ」

「『煌の家族がゆるそうとも、煌が苦労するならば私は反対だ』って言ってる」

「守護霊さん何目線で語ってるの!? いや苦労くらいしたいよ。ちゃんと生きてるってわかるから」

「『……煌が言うのなら、退こう。だが煌が危ない目に遭ったら即座に反対するからな』と言っている」

終始、碧人が通訳をしてくれた。

そしてぽつりと月音が。

「小田切くんのお兄様過保護だね」

「通訳ありがとうござ――お兄様?」

「うん? うん。小田切くんのお兄様が、小田切くんの守護霊」

月音の言葉に、煌は信じられない気持ちで目を見開いた。

「え……」

絶句するようなその反応に、月音はまずいことを口にしてしまったかと手で口を覆った。

「あれ? 私、言っちゃいけないこと言っちゃった……?」

煌は慌てて首を横に振った。

「いや、俺の兄さん、俺が生まれる前に死んじゃったって聞いてたから……」

――煌が長男というのは、現状本当だ。煌が生まれたとき、兄はすでにいなかった。

幼い頃に事故に遭って亡くなってしまったと、煌は成長してから聞かされていた。

(兄さん……いてくれたんだ……)

しかも自分の守護霊になっていたなんて。

物憂げな眼差しになった煌を見て、月音が教えてくれた。

「小田切くんのお兄様、小田切くんのことが心配過ぎて守護霊になったんだって。『煌は小さい頃から霊力が高くて色んな奴らにつけこまれそうだったから、あるお方に頼み込んで煌の守護霊にしてもらたんだ』だって。……あるお方?」

心当たりがないのか、月音が首を傾げた。

反対に、碧人は神妙な顔つきになる。