「叔父上は華音に夢見すぎていたからね。そもそも、華音が桜木だったって知らないままだし」

「そうなのですか!?」

それって結構重大案件では、と煌も考えた。

「だから私の結婚にも、恋敵として言いたいことは山ほどあったろうが、最後は祝福してくれたよ。華音が桜木の人だと知っていたら、全力で止めに来ただろうからね。実は今も知られるとかなりまずい」

「まずいのですか……」

「そこまで隠し通されていることを、どうして碧人様は知ってるんですか?」

煌が尋ねる。

「華音本人から聞いたんだ。私が神崎流の人間だとわかって、最初は友達になったから。私が神崎の人間である以上、華音と恋仲になるのはご法度だと、華音も把握していたからね」

その言葉を、煌は頑張って噛み砕く。

「つまり、絶対に恋愛関係にはならないと確信があったから、月音ちゃんのお母さんは、碧人様に正体を明かした……?」

「そうだろうね」

「でもお付き合いされたんですよね?」

「いや、交際期間なく結婚を申し込んだ」

「力技過ぎません? 父様」

娘、半眼になって父を見ている。

碧人はまた、懐かしむように目を細めた。

「華音に惚れたことに、理由とかないんだよ。華音はかなり問題児だったんだけど、いつの間にかどうしても失いたくない人になっていた。……どうしても華音と一緒にいる時間が欲しくて、それを法律的に許される形で得たくて……。神崎の人間としての規律を破ってでも得たかったのは、華音との時間だった」

その言葉は、煌には不思議な響きで聞こえた。

「……未来とか将来とかではなく、ですか?」

「ああ……。華音は生まれつき身体が弱くて、長い命ではないと、華音から打ち明けられていたんだ。だから、生きている一秒だって無駄にしたくなかった。時間というのはそういう意味だ」

「それでは母様は、すぐにプロポーズを受け入れたのですか? その……神崎に嫁入りすること」

「いや、めちゃくちゃに振られたよ。神崎の当主を継ぐ奴が何ふざけたことを言っている――とかなんとか。でも私がしつこく諦めなかったから、華音が先に折れた」

(力技だな)

煌、素直にそう思った。

なんというか、力こそパワーそのものな親子だな。