「御門のご当主、場を貸してくださいましてありがとうございました。話は終わりました」
碧人がふすまの方へ向かって言うと、すぐに開いて白桜と黒藤が顔を見せた。
「まとまったか?」
「はい。つつがなく」
「それは何より。他流派への通達は、碧人に一任して構わないな?」
「もちろんです。あとのことは、神崎で蹴りをつけます」
「そうか。――小田切、月音」
白桜に呼ばれて、笑い合っていた月音と煌が顔をあげた。
二人とも座った姿勢で白桜は立っているので、見上げる恰好になる。
白桜が膝を折って、ふっとほほ笑んだ。
「おめでとう。言うには早いかもしれないが、末永くな」
「は、はいっ」
「色々ありがとう、月御門。黒藤先輩も」
月音と煌が言うと、白桜は笑んだままで、黒藤はにっと歯を見せて笑いひらりと手を振った。
碧人が月音と煌を見る。
「では月音、私たちはお暇(いとま)しよう。煌くん、改めてご挨拶に伺うから、私の連絡先をご両親に渡しておいてくれないだろうか。高校生同士のお付き合いだけでなく、許嫁の話もしないといけないから」
「あ、はい。伝えておきます――……月音ちゃん?」
月音が、目を皿のようにして煌のことを見てきた。
煌が気づくと、すっとその目は碧人に向く。
……あれは何か言いたいことがあるときの目だと、わかるようになってきた煌だ。
「何か言いたいこととかあった?」
「……ううん……なんでもない」
「………」
なんでもない間(ま)ではない気がしたけれど、碧人もいるしここは白桜の家。
あまりあがりこんだままでも迷惑だ。
あとで確認しようと決めて、碧人の促しに従って客間を出た。
御門別邸の門まで、白桜だけでなく百合緋と天音も見送りに出てくれた。
黒藤はまだ用事があるとかで、見送る側にいる。