「さすがにもうわかりました! だから大丈夫ですっ」

「それは――俺が許嫁になって大丈夫ってこと?」

「……はい」

飛び掛かった勢いで、月音が煌を押し倒しているような恰好になってしまっている。

割と煌の頭の中も騒がしい状態なので、その恰好のまま尋ねた。

「月音ちゃんは嫌じゃないの? 俺、彼氏だったわけじゃないよ?」

「そ、……それはそうですが……」

わたしもすきでしたから……。うつむいた月音が、ごく小さな声でそう言った。

おそらく至近距離にいる煌にしか届かなかっただろう。

「―――」

「月音、煌くんが困るだろう。いい加減逮捕されそうなことはやめなさい」

「!! ごめんなさい!」

父に言われて、月音ががばっと煌から離れた。

慌てて正座し直した月音は、慌ただしく髪やら服やらに手をやって整えようとしている。

煌の頭の中には、月音の言葉がリフレインしていた。

(すき……? わたしもすきでしたから……? え……月音ちゃんが? 俺を?)

煌、混乱。

嫌われてはいないと思っていても、好かれている自信はなかったので、月音の言葉の意味を嚙み砕くのに時間がかかった。

「――月音ちゃん!」

「は、はい!」

密着した気恥ずかしさが(しかも自分から)今頃来たのか、煌に名前を呼ばれて真っ赤になる月音。

煌は正座し直して、まっすぐに月音を見た。

「――絶対幸せにします。百回や千回じゃ足りないくらい言うから、俺と付き合ってください」

「わ、私も絶対小田切くんを幸せにしますっ。よ、よろしくお願いします」

なぜか、互いに畳に額をこすりつけるような恰好での告白になってしまった月音と煌だった。

顔をあげた二人は、同じことをしていたと気づいて笑いがもれた。

許嫁から始まることがあっても、いいかもしれない。