「……はい」
「それは、いつから?」
「……小さい頃からです。たまたまあやかしとは関係ないところで怪我をして、それに触れようとした妖異が消えて……」
「そうか……。今まで黙っていてすまない。すべての咎(とが)は父にある。月音のそれは、母様から受け継いだものなんだ。――華音は、退鬼師桜木家の人間だった」
父の言葉に、月音は三度瞬いた。
「……退鬼師……はわかりますが……桜木家は聞いたことないです……」
「華音は桜木家の、末裔とかそういうくくりの人だった。桜木家というのは、己の血をもって妖異を滅することが出来る一族で、その血を欲した人間たちに血をしぼりとられ、数を減らしていった一族なんだ。今はもう『桜木一族』と呼べる状態ではなく、末裔も散り散りになっているようだ」
ぞくうっと、煌の背筋が冷えた。
白桜も黒藤も、「あの惨劇を繰り返してはならない」と言っていたが、それのことのようだ。
月音は目をまん丸に見開いた。
「では……私が血をぶっかけて妖異が消えたのは――」
「華音から継いだ血の効力だ。――出来れば、いや、絶対に、その手段は二度ととらないでほしい。……神崎の血をもって、月音が傷を負うことはないだろう。だが、前例のない混血のお前を手に入れて実験をしようとする者は、人間にもあやかしにもいないとは言い切れない。……お前をあやかしに狙わせたくはないし、人間の勝手にもさせたくない。今まで何も教えなかった父だが、それは確かに思っている」
碧人の声には悔いが見える。
月音は表情を引き締めた。
「……私が桜木の血を引いていると露見すると、まずいのですか?」
ゆっくりとうなずく碧人。
「かなりまずい。桜木家は陰陽師流派でこそないが、影小路の姫君の養子先にされるほど、陰陽師に近い術師一族だった。惨劇により今は壊滅状態にあるといって過言ないが、私が禁忌を破って他の術師一族の娘と婚姻したとバレれば、それを弱みにお前を嫁に出せと言ってくる流派やあやかしがあるかもしれない。その対策として、二つのことを仮ではあるが決めてきた」